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それでも俺が好きだと言ってみろ.08

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「・・・今、植松君は猪俣君に仕事を教えている。だから、日によって仕事量が違うから、・・・その、残業がない日は植松君が桜庭君の相手をすることになるだろう」

 つまり、これまで、基本的に植松さんが桜庭の相手をして、それ以外の日は桜庭のセフレと都合を合わせて何とかなっていたのだろう。



「・・・それで・・・、こんなこと、とてもお願いできることじゃないことは分かってる。だから、君が選んでくれていいから・・・」

 三村さんは申し訳なさそうに・・・、だけど、それは暗に和香の代わりはいくらでもいると言われているのに等しい。



 この仕事を辞めたくない。

 昨日も今朝も、自分にそう誓ってきた。

 こんな条件がいくら理不尽なことだろうと・・・。



「私、辞めません・・・」

「ほ、本当に・・・?いいのかい・・・」

 三村はてっきり断られると思っていたらしく、信じられないといった表情で和香のことを見つめる。

「はい・・・」

 和香は絞り出すような声で答えた。



「そ、そうか・・・、それは・・・。とても助かる・・・。竹内君には申し訳なくて、僕からは何と言って言いか分からないが、本当にありがとう」

「いえ・・・」

 この場合、何を言われても状況は変わらない。



「あっ・・・、ひとつだけお願いがあります」

「な、何だい・・・?」

「桜庭さん、私の出身大学が二流だから、私のことを二流と呼ぶっておしゃるんですけど・・・。できたら、それは辞めてもらえたらと・・・」

「わかった、その件はしっかり桜庭君に伝えるから。ちゃんと竹内君と呼ぶように僕からお願いしておくよ」



 こんなことも、三村からの命令ではなく、お願いになってしまうのか・・・。

 この会社の上下関係はいったい・・・。



「・・・じゃ、じゃあ、そういうことで、よろしく頼むよ・・・」

 三村はホッとした表情で所長室へ引っ込んだ。



 和香は自分のデスクに腰をおろすと、マニュアルを取り出してもう一度おさらいをした。

 今日からは実際に依頼者からの検体を分析するのだ。

 ミスは許されない。

 そう・・・、自分が望んだこの仕事が出来る喜びに比べたら、桜庭とのことなど一瞬だけの我慢ですむのだから。

 和香は気を許せば湧き出して来てしまう、諸々の感情に蓋をして目の前の仕事に集中した。



 ほどなく、社員がぞろぞろと出社してくる。

 朝のミーティングで、今日の依頼分が伝えられ、それぞれに振り分けられる。



「今日は珍しく数が少ないから、頑張れば残業はなしでいけそうです。では、よろしくお願いします」

 三村の話が終わると、みなそれぞれ割り当てられた検体の入った段ボールを抱えて別室に移動すると、仕事に取り掛かった。



「桜庭君ちょっといいかな」

 三村はオドオドとした態度で桜庭に話しかける。

「はぁ?何すか?俺忙しいんですけど」

「すぐ終わるから、ちょっとだけ」

「・・・三分で終わらせくださいね」

「分かった分かった」

 三村と桜庭は所長室に入っていった。

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