上 下
1 / 96

それでも俺が好きだと言ってみろ.01

しおりを挟む
 最先端の研究設備が整った、ここヘルシーライフラボは遺伝子分析を行う会社だ。

 親会社である製薬会社の出資で作られた創業五年の若い企業である。

 所長の三村のもと、桜庭宗理(さくらばそうり)、早乙女倫也(さおとめひろや)、植松桃代(うえまつももよ)のベテラン三名、そして、竹内和香(たけうちわか)、猪俣康生(いのまたこうせい)の若手二名の計六名のチームで業務に取り組んでいる。



 若手の中でも猪俣康生は今年採用された正社員で、竹内和香は今月入ったばかりの中途採用の契約社員という、軽い格差が発生している。

 和香は、今日が初日ということもあり、緊張した面持ちでオフィスのドアを開けた。



 朝のミーティングで皆が集められた。

「え~、今日から竹内和香君が、新しい仲間になります。みんな、よろしく頼むよ。では、竹内君、一言挨拶を」

「竹内和香です。一日でも早く仕事を覚えて、皆さんと一緒に頑張りたいと思いますので、よろしくお願いします」

 パラパラと拍手が起こった。



「では、竹内君は桜庭君について、仕事を覚えてもらうから。桜庭君、頼んだよ」

「昨日も言いましたけど、何で俺なんすか?」

「だからね、植松君はすでに猪俣君の指導をしてるだろう?早乙女君はまだ三年目で荷が重い。そうなると、君しかいないんだよ」

 この会社の事情などまるで分からないが、どうやらこの桜庭という人物にとって、和香はあまり歓迎されていないことだけは理解できる。



「・・・分かりました。じゃあ、やりますけど、俺のやり方でやらせてもらいますから」

「まあ・・・、それは君に任せるよ」

「その言葉忘れないでくださいね」

 このラボでは所長の三村が一番偉いはずなのに、なぜこんなにグダグダになっているのか、今日入ったばかりの和香に理解できるはずもなかった。

 ミーティングが終わると、皆は担当している仕事に取り掛かるため、それぞれ別の作業場へと移動していった。



 桜庭はスタッフルームのデスクに戻ると、和香を呼びつけた。

「お前、出身大学はどこだ」

「名山大学です」

「二流大学だな」

「えっ・・・」

「今日からお前のことは二流と呼ぶ。いいな」

「えっ、でも・・・、私、竹内和香っていう名前があります」

「二流大学が偉そうな口を叩くな」

「は、はい・・・」



 入社初日、しかも、初めて会ったばかりの上司に逆らえるはずもなく、和香は逆らいたい気持ちをグッと飲み込んだ。

 桜庭は色白で中性的な顔立ちの美男子だ。

 さらに高身長、そして頭脳明晰とくれば文句のつけようのない好青年のはずなのに。

 そんな桜庭がまさかこんな人物だったとは・・・、彼が口を開くまで全く想像できなかった。

 しかし、こうして人を見下すようなひどいことを言われても、その外見に惑わされて、どうしてもそれが本心とは思えない。

 本当の桜庭という人間がどういう人物なのか、今日出会ったばかりの和香には理解できるはずもないのだが。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...