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あいかわらずの二人.01

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 あの日から順調に成績を上げていったさくらは、無事、看護系大学に合格し、今は念願だった美容外科で働いている。

 ギャルっぽかった外見も、今ではすっかり落ち着いて、スタイリッシュなナース服に身を包み、もちろん髪も以前の様な茶髪ではない。落ち着いたブラウンのロングヘアを後ろで品よくまとめている。
 
 さくらが務める服部美容外科の院長の服部琢磨は、35歳という若さで開業した。

 3年が経った今では、腕もさることながら、その人目を惹く容姿のおかげで、イケメン院長という口コミが広がり、経営は順調だ。
 
 さくらが勤めるようになって2年、実はこのイケメン院長からの誘いが、日に日に激しくなっているのが悩みの種だ。チャラいとまではいかないけれど、学生時代から成績優秀で、何かに必死になったことが無いまま今のポジションを手に入れているため、どこまでが冗談でどこからが真剣なのかがイマイチ分からない。

 ナースはさくらを含めて8人なのだが、美容外科というだけあって、皆、美人揃いだ。

 しかし、どちらかと言うとみんな大人しくてお上品な性格のため、相変わらずお転婆なさくらは、彼女たちの中では異質な存在だ。さくらは、気も強いけれど、仕事はしっかりとこなすため、皆とはそれなりにうまくやっている。

「さくらちゃーん、今日一緒にお昼行かない?」

 午前の診察が終わると、早速、院長から声が掛かる。

「あ、私お弁当持ってきてますから。」

 毎日の誘いにうんざりしているさくらは、今日も冷たくあしらう。

「ええ~、うち給料結構いいのに。お弁当なんて面倒なの作らなくっても、お昼はランチくらい行けるでしょ?」

 院長はしつこく話しかけるのだが、さくらは全く相手にせず、お弁当を広げて食べ始めた。

 院長はしかたなく諦めて、他の誰かを誘ってランチに出かけて行った。

 さくらばかりが誘われて、皆から変な目で見られないかと心配になるところだが、院長がイケメンなのは顔だけで、ワガママでかなり強烈な個性の持ち主だ。

 雇用主でなければ皆余り親しくなるのは遠慮したいと考えているため、皆、彼の目がさくらに向いている事で、ホッとしていうというのがホンネだ。

 そういったあからさまな誘いだけならば、その場で断ればいいのだが、最近ではスマホを使って個人的な誘いが多いのだ。

 その度に断るのが面倒すぎる。

「さくらちゃーん、もういい加減一回くらいデートしてよ。」

「だから、私彼氏いますから、無理です。」

「またまた~、もうその断り方聞き飽きたよ~。ねえ、これは業務命令、僕と一回デートするの。」

「もう、ふざけるのやめてください。私まだ仕事残ってるんですから。」

「そんなの明日でいいからさ。今日の夜空いてる?」

 琢磨のあまりにしつこい誘いに、一度だけですよ、と思わず言ってしまいそうになるのを必死にこらえ、さくらは仕事に集中する。

「いい加減にしてください!もう、あんまりしつこいなら、私、辞めさせていただきます。」

「わ、わかったよ。そんなに怒らなくってもいいじゃない。ただデートに誘っただけなのに~。」 

 さくらの逆鱗に触れた琢磨は、今日のところは仕方なく諦めることにしたようだ。

 こういったしつこい誘いは、今に始まったことじゃなかった。

 さくらはその外見から、軽い女だと思われてしまうため、看護師になるために学んでいた学校の教師からも、その様な誘いを頻繁に受けていた。

 学校は卒業してしまえば終わりだが、職場となるとわざわざ転職しなければ逃れられないため、たちが悪い。
 
 しかし、そういった色恋の話で困っていることを、さくらは啓太に相談することは出来なかった。

 出来ないというよりは、してもしょうがないというのがホントのところなのだが。

(まったく、男って人の外側ばっかりしか見ないんだから。私そんな軽そうに見えるのかな?やっとやりたいこと見つけたのに、どうしてこうも邪魔されなきゃいけないの?)

 さくらは、啓太と出会ってから変わった自分の内面と、ずっと変わらない外見とのギャップに困り果てていた。

 そしてある結論にたどり着いた。

 自分が働いているのは、美容外科で、琢磨院長はあんな性格だが腕は確かだ。

 だから、この派手でイケイケな印象の顔を、もう少し上品な印象に整形すれば、これから出会う男性のさくらに対する印象は、おのずと変わって来るのではと考えたのだ。
 
 しかし、整形するとなれば、さすがに啓太に内緒にしておく訳にはいかない。

 さくらは、ちょっとしたプチ整形だということで、なんとか誤魔化したい。

 啓太はとにかく忙しい身なので、いつでも電話に出られるとは限らないため、メールを入れてみる。

『啓太、まだ決めてないんだけど、プチ整形しようと思ってるんだ。どう思う?』

 自分の事だけれど、やっぱり啓太の反応は気になる。

 さくらは、すぐに来るはずの無い返事を、首を長くして待った。


 日付が変わる頃、啓太から電話がかかって来た。

「もしもし、啓太?今日も遅かったね。」

「あ、うん。それはいいんだけど…。さくらちゃん、プチ整形したいって本当?」

 啓太はどうも声に元気が無い。

「えっと、その、ちょっとだけだよ。だって、私の勤めてるところ、美容整形の専門なんだから、みんなちょこちょこやってるよ。」

 さくらは、何とか軽く受け入れてもらえないものかと、言葉を選んだ。

「でもさ、なんで突然そんなこと…。これまで働いててもそんな事言わなかったでしょ?」

 啓太の疑問は当然だ。何しろ、さくらは、誰から見ても綺麗で、一体どこを整形する必要があるのかが分からないからだ。

「なんか、気分かな。ちょっと違う自分になってみたくなったの。」

 啓太に嘘をつくのは辛いけれど、本当の理由を言ったら啓太に余計な心配をかけてしまう。

「なんでだろう?今日のさくらちゃん、なんか変だよ。何かあった?」

 だてに長年彼氏をやっていた訳ではないようで、啓太はさくらの様子がおかしいことに薄っすらと気づいている。

「な、なにも無いし、変じゃないよ。」

「それに、僕は今のままのさくらちゃんでいて欲しい。さくらちゃんの体だから、僕にこんなこと言う権利なんて無いのかもしれないけど、僕はプチだろうが、何だろうが、さくらちゃんが意味も無く整形するのは嫌だ。」

 さくらは、啓太がこんなにハッキリと反対するとは思っていなかった。

「そ、そんな、怒らないでよ。ちょっと言ってみただけだよ。整形しないから、機嫌直して。」

「別に怒ってるわけじゃないけど、さくらちゃんが何か隠してるみたいで心配。」

 今日はやけに勘が冴えている啓太は、ズバリとさくらの嘘を見破ってくる。

「隠してなんかないし…、何もないし…。」

「僕って、さくらちゃんにとっては、やっぱりまだ頼りない存在?」

「そ、そんな事ないよ。社会人になって、色々な壁にぶつかるたびに、啓太に助けてもらったおかげで、ここまで来れたと思ってるよ。」

「でも、僕に言えないことがあるんでしょ?それって、僕に言ってもしょうがないって思ってるんでしょ?」

「そういう訳じゃないけど、啓太に変な心配かけたくないし…。」

 そこまで言ってしまっては、もう悩み事があると言っている様なものだ。

「ほら、やっぱり。お互い忙しくて、ただでさえすれ違いが多いのに、その上、悩み事を隠してたら、どうやってお互い分かり合うの?」

 こういう時に、啓太の理詰めの話し方が勘に障る。

「わかったよ。言えばいいんでしょ。実はね、看護学校の時もそうだったし、今もうちの院長に軽い女だって思われて、しつこく誘われてるの。だから、この派手な顔を、もう少し品のいい大人しめの顔に変えたら、そんな風に扱われなくなるかなって。それだけ。」

 さくらは、もう半分ヤケになって、本当のことを全部言ってしまった。

「それ、ずっと黙ってたの?僕を心配させないために?」

「そうだけど、なによ。」

 啓太の深いため息が聞こえてくる。

「これからさ、もしまたそういうことがあったら、絶対に言って欲しい。それで、僕がさくらちゃんにしつこくする男性に会いに行く。」

「はあ?そんな事してどうなるの?」

 啓太が来たからといって、さくらを誘ってくるイケメン達に太刀打ち出来るとは思えない。
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