上 下
7 / 54

いきなりですか?.01

しおりを挟む
「ねえ、これからは啓太って呼んでいい?だって付きあうんだから。それと、私のことはさくらって呼んでね。」

「…。僕のことは啓太でいいけど、水神さんのことをいきなりそんな風に呼べないよ…。」

「えーっ、つまんなーい。つきあってるのにさん付けなんておかしいよ。」

「そんなもんかな~。」

「そうなの。」

「少しずつ、練習してみるよ。」

「何それ。名前呼ぶだけじゃん。何が難しいのか分かんないよ。」

「僕、女性と付き合ったこと無いから、そういうの慣れてないんだよ。」

「ふ~ん。」

「仕方ない。じゃあ、名前を呼ぶのはもう少し後でもいいよ。」

「うん。そうしてもらえると助かる。」

 そんな話をしているうちに、啓太のアパートに着く。

 研究に時間を取りたいと大学からはごく近いアパートを選んだため、ゆっくり歩いても10分とかからない距離だ。

「へえ~、ここが啓太のアパートか~。」

 いきなり、名前で呼ばれ、啓太は気恥ずかしそうだ。

「狭いとこだけど、上がってく?」

「とーぜん。」

 さくらのずうずうしいほどの積極性に啓太は圧倒されっぱなしだ。

「どうぞ。」

「おじゃましま~す。」

 啓太の部屋は、大学の研究室とは違って、きちんと整頓されており彼の性格がそのまま現れているようだった。

「きれいにしてるんだね。」

「まあ、きれいにしているというか、ほとんど大学の研究室に住んでるようなもんだから、家が散らからないっていうのが本当のところかな。」

「なるほどね。」

「その辺に適当に座って、お茶入れてくるから。」

 啓太はそう言うと、キッチンへ向かう。

(何だか、すごい展開になっちゃったな。俺、これからどうなるんだろう。)

 そんな事を考えながらも、押しに弱い自分の性格上、今までも何度か経験してきたのだが、なるようにしかならないと半分あきらめる啓太だった。

「麦茶しかないけど。」

 そう言って啓太は、丸テーブルにグラスに入った麦茶を置く。

「おかまいなくー。」

 さくらは、興味津々で部屋のあちこちをキョロキョロと眺めている。

 医学部の男子の部屋だ。あるものと言えば難しい専門書が所狭しと並べられている本棚くらいで、そのほかにはパソコン、テレビなど、これと言って女の子が喜びそうなおもしろいものは置いてない。

 そんな中から、さくらはある本を見つけて手に取ってみる。

 それは、「人体の全て~医学部生のバイブル~」という書籍だった。

 中をパラパラと見てみると、人間の体の細部にわたってその構造が分かりやすく解説してある、いわゆる入門書だった。

「へえ~。おもしろ~い。っていうか、こうゆうの勉強してるってことは女性の体にも詳しいんだよね?」

「まあ、それなりには。」

 啓太は質問の意味を図りかね、あいまいに答える。

「それなりに?私が言ってるのは女性がどうしたら気持ちいいか知ってるのかってことだよ!」

「えっ…!それとこれとは話が別で…。僕はそういう経験はまだ無いから…。」

「ファーストキスって聞いてまさかとは思ったけど、そっちの経験もまだって訳ね。」

(大学生にもなってまだ経験してないなんて、人生半分ドブに捨ててるようなもんだわ。)  

 さくらはこれはいよいよ自分がなんとかしてあげなければというおかしな責任感が芽生え、鼻息が荒くなる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』

コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ” (全20話)の続編。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211 男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は? そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。 格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

OLサラリーマン

廣瀬純一
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

処理中です...