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ホストと女医は診察室で.29

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「だけど、そこまでハッキリ言ってもらうとかえって気が楽だな。まあ、僕も似たようなもんですから」

「そうなんですか?」

「うん。だって、僕なんてまだ大学卒業したばっかりなんですよ?うちの親気が早すぎるでしょ」



 そう言われてみればそうだ。

 自分のことしか考えていなかったけれど、大学を卒業したばかりで、まだ社会に出たばかりなのに、結婚なんて考えられるはずがない。

 二人はクスクスと笑い合った。

「よかった。本当はこんなこと言って怒らせちゃったらどうしようって、内心はドキドキしてたんです」

 本来の見合とは随分違う方向に進んでしまったけれど、上辺だけを取り繕っているよりはよほどマシな時間になった。



「和希さんはお仕事を継いでみてどうですか?」

「親父の仕事はずっと見てきましたからね。おもしろそうだと思ってたし、やっと実際にやれる年齢になったんだって思うと感慨深いものがありますね」

「へえ、そうなんですか。うちは代々医者の家系だったから、何の疑問も持たずに医者になっちゃったけど、私も医者になってみて別に嫌じゃなかったんですよね。っていうか、むしろ合ってたみたいで、親に感謝っていう感じなんです」



「すごいな~。医者になるだけでも大変なのに、楽々こなしてるって感じですね。優秀なんだ」

「そんなんじゃないわ。それなりに大変なことはあるし…。むしろ、他の業種の方が出来ないかも」

「ああ、そういうことは…あるかもしれないですね」

「ううっ…。会ったその日にそこまで言われるとは思わなかったです」

「ははっ、すみません。慶子さんて何だか話しやすいから、ちょっと調子に乗っちゃっいました」

「私が話しやすい?それ本気で言ってるんですか」

「ええ、本当ですよ」



「へえ、和希さんは珍しい人ですね…」

「慶子さんだって、十分珍しいですよ」

「…私たち、お友達にはなれそうですね」

「親には悪いけど、そう思います」

 二人は最初の堅苦しい雰囲気から一転、今では随分と気楽に会話を楽しんでいた。

 連絡先を交換すると、見合いは断ると話を合わせ、親が待つ別室へと戻っていった。



 最初は聖夜と同じ顔の和希との会話に戸惑った慶子だったが、話してみるとやはり兄弟でも全くタイプが違うということがよく分かった。

 聖夜と会っている時はドキドキして緊張しているし、会った後は楽しかった反動で寂しさに襲われる。

 ところが今慶子は全く違った気持ちになっている。

 会っている時はもちろんドキドキなどしなかったけれど、本音を打ち明けてからは楽しく話せた。

 そして、和希と別れてからもその楽しさは続いているように感じられた。

 寂しさなど全く感じない。



 男女の友情などないと言う人は多いけれど、どちらかというと和希とは同士という感覚に近いのかもしれない。

 それはお互いの境遇や性格が似ているということがあるからだろう。

 和希と思いがけず親しい関係になれたことは嬉しい。

 しかし、それは広い意味では聖夜と繋がってしまったことになる。

 せっかくもう会わないと決めたのに。

 必死で忘れようとしているのに…。

 それに、やはり和希の顔を見ていて聖夜のことを思い出さないでいるというのは無理な相談だった。



 友達にと自分から言い出したけれど、おそらく和希から誘ってくることはないだろう。

 そうであれば、慶子が和希を誘わなければ自然消滅的に二人の関係は無くなっていくだろう。

 幸い二人とも仕事に追われる忙しい毎日を送っている。

 ちゃんと見合いもして、親の顔を立てることもできた。

 慶子の中では一つの大仕事が終わった、そんな感覚になっていた。
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