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ホストと女医は診察室で.02

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 慶子はその男の言った意味をうっかり想像してしまいそうになり、思わず顔が赤くなる。

 医者として、そんな顔を患者に見られるわけにはいかない。

 慶子はカルテに向かうふりをして聖夜に背を向けた。



「じゃ、世話になったな。先生よかったら、今度うちの店に遊びに来てよ」

 そう言って渡された名刺には、『ホストクラブ・ラビリンス 聖夜』とあった。

(ホ、ホストクラブなんて、行く訳ないのに…)

 医者になるために、真面目に勉強をし、大学と院を卒業して、つらいインターン、大学病院勤務を乗り越え、やっと念願の開業医になれたのだ。

 自分とは住む世界が違う。

 慶子は手渡された名刺を、机の引き出しの奥に押し込んだ。
 


「聖夜さん、ホント、無理しないでくださいよ」

「うっせえな。おまえは俺の母親か。いちいち世話やくんじゃねえよ」

「そんなこと言ったって、うちのナンバーワンは聖夜さんなんですから。倒れでもしたら、店長に大目玉くらっちゃいますよ」

「何で俺が倒れたら、お前が大目玉くらうんだよ」

「だって、俺、まだホストになって、3か月しかたってないんすよ。だから、店長に聖夜さんにくっついて、色々勉強するように言われれるんです。だから、聖夜さんは俺の先生、いや、師匠なんです。そんなわけで、師匠がいないと、俺、一人前のホストになれないんで」

 真也は上目遣いで、聖夜に甘えてみせる。

「な~にが師匠だよ。ホストに師弟関係なんかねえんだよ。みんなナンバーワンを狙って必死なんだからな。人に何かを教えてる暇があったら、自分を磨くために使うよ」

 聖夜は冷たく言い放つ。

「そんなぁ、いじわる言わないでくださいよ。聖夜さんだって入ったばっかりの頃は、誰かについてたんですよね」

 真也は食い下がるが、触れてはいけない話題だったのか、聖夜の表情が尋常ではないレベルで険しくなる。



「いつまでも、グダグダ言ってないで、さっさと店行くぞ」

「は、はい…」

 これ以上、この話題を続けて逆鱗に触れてはまずいと思い、真也は仕方なく聖夜の言葉に従った。

「でも、聖夜さん、ホントに体大丈夫なんですか?」

「あの医者でさっきもらった薬が効いてきたのか知らねえけど、熱も下がったみたいだ」

 聖夜は、ほら、と額を真也の方に向ける。

 促されるまま聖夜の額に触れると、さっきほど高熱ではなくなっていた。



「そ、そうみたいですけど、あんまり無理しないでくださいよ」

「人の心配してる場合じゃないだろ、半人前」

「うっ。酷い…」

「ほら、急ぐぞ」

「は、はい」



 裏口から入ると、常川店長が待ち構えていた。

「おう、どうだった?」

「すいません。こいつがあんまりうるさいんで一応行ってきたんですけど、ただの風邪でした。で、熱ももう下がりましたから、フロア出てきます」

 常川店長も元々は歌舞伎町で名の知れたホストだった。

 ホストの寿命は短い。

 二十代後半になると、ほとんどが辞めていく世界だ。

 常川店長のように自らホストクラブを経営するケースも珍しくない。

「そうか、聖夜がいない間に何回か指名が入ったんだが、お前がいつ戻るか分からなかったから、ミキヤと純が相手してる。様子見て、代わってやってくれ」
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