上 下
34 / 37

初恋がこじれにこじれて困ってます.34

しおりを挟む
「でもね、そのレッスンも実際にはそんなに長くは続かなかったの。何でか分からないけど、私が急にレッスンが嫌になっちゃって、触れてくる瞬ちゃんを拒んじゃったんだ。それからなの、瞬ちゃんが私の事を避けるようになったのは。」

「ほうほう。」

「それで、私は避けられたまま瞬ちゃんは他県の全寮制の男子校に行っちゃったんだ。」

「なるほどね~。」

「その頃の私って、何の趣味も無くて、得意なこともないし、好きだった直には彼女が出来ちゃうし、もう何を目的に生きたらいいのか分からないって感じになっちゃってたの。」

「うんうん。」

「そんな時、担任の先生の言った言葉が私の人生を変えたんだ。」

「へえ~、なになに?」

「お前が男だったら旭高校だって行けるって言ってくれたの。瞬ちゃんが行ったのが全国レベルの旭高校だったのね。それで、私変なスイッチが入っちゃって、瞬ちゃんの後を追いかけるんだって決めちゃったんだ。」

「なるほどね。」

「それで、もうストーカーみたいに同じ大学に行って、同じサークルに入って、実はアパートもすごく近いところなんだ。全部計画的なの。」

「それで、今何が問題になってるの?」

「はあ~、やっとここまでたどり着いた。」

 誰にも打ち明けていなかった秘密を打ち明けるというのは、精神的に疲れるものだ。

「それで、問題はサークルに入ってから起きたのね。最初は瞬ちゃんに完全に無視されてたんだけど、最初の登山で足を挫いちゃった私をずっとおぶってくれたの。」

「うわあ、なになに、良い感じじゃん。」

「でも、そのときはまだ私たちがお隣同士で知りあいだってことはサークルのメンバーには内緒にしてたんだけど、その、私が足を挫いちゃったときに瞬ちゃんが私の事を沙耶って呼んじゃって、それを部長に追求された結果、私が瞬ちゃんを勝手に追いかけて来たってことは通用しなくて、もう面倒だからみんなの前ではカップルとしてふるまえって言われちゃったの。」

「おお、すごい展開。」

「でも瞬ちゃんには、みんなの前以外では話しかけるなって言われてて、実際、ふつうに話すことはほとんどなかったの。」

「へえ、そうなんだ。」

「その登山のあと、余りの体力の無さに自主トレをすることになったんだけど、その自主トレに瞬ちゃんがずっと付き合ってくれてたの。」

「ふうん、話しかけるなって言ってた割には、えらく面倒見がいいんだね。」

「そうなんだよね、その辺が私もよくわからなくって。」

「ふうん、なかなか込み入ってるね。」

「それから、今日急展開なんだけど、自主トレしてる公園でサークルの同期の男の子に告らちゃったの。」

「はあ?ほんと急にくるね。その彼のことはどう思ってるの?」

「何とも。ただの仲間だよ。」

「恋愛感情はなしと。」

「うん。」

「それで、マンガみたいなんだけど、その告られたのを瞬ちゃんが見てたんだ。」

「ほんと?まさにマンガじゃん。楽しすぎる~、その展開!トキメク~!!で、どうなったの?」

 真由は沙耶のリアルが妄想に近い状況にかなり興奮しているようだ。

「そのあと、瞬ちゃんがその男の子のことをボコったんだ。びっくりしたよ。そのうえ、瞬ちゃんは私の手を取って、なんと瞬ちゃんの家につれていかれちゃったんだ。」

「ひえ~!!もう、たまんない、たまんない。なにその夢みたいな展開~!!ああ、もうキュンキュンがとまらない~!」

 真由はアニメキャラクターのクッションを形が変わるほどギュウギュウ抱きしめている。

「それで、瞬ちゃんの家でね、瞬ちゃんに好きだって言われたの。」

「きゃあ~!!もうダメ、キャパオーバー!なにそれ、もう、なにが問題?ああ~、うう~。」

 真由は床をグーでたたきながら、クッションに頭を突っ込んんでグリグリしている。

「それで、そのあとキスされたんだけど…。」

「き、き、キスまで~!!うわああああああ~!!沙耶、私を殺す気~?」

「そ、そうゆうわけじゃないよ。ねえ、聞いて。そのキスの途中で、私、中学の頃のこと思い出しちゃって、自分の気持ちが分からなくなっちゃったの。」

「おやおや、それが今困ってることって訳ね。」

「はあ~、やっと言い終わった。」

 沙耶は、ぐったりとソファにもたれかかった。

「ねえ、沙耶、聞いていい?」

「うん、何?」

「そのさ、キスされた時って、ドキドキしなかったの?」

 沙耶は質問の意味が分からなかったけれど、正直に答えた。

「ドキドキしたよ。だって、瞬ちゃんなんだもん。」

「でさ、中学の時のキスってドキドキしてた?」

「う~ん、キスっていう行為自体にはドキドキしてたかもしれなけど、どうだろう、あのころは直のことが好きだったから、これが直だったらどんなにいいだろうって思ってた。」

「な~るほどね。じゃあ、何にも困ることなんかないじゃん。」

「え、何で?」

「瞬ちゃんだからドキドキしたんでしょ?だったら、ちゃんと好きって気持ちがあるっていうことじゃん。」

 沙耶は真由に言われるまでそんな単純なことにも気がつかなかった。

「そ、そうか。そうなんだ。私、ちゃんと瞬ちゃんのこと好きなんだ。」

「そうだよ。何にも問題ないじゃん。」

「よかった。私、自分の気持ちを知るのが怖くて、ちゃんと人のこと好きになれない人間になっちゃったのかと思ってた。」

「あ~、でもリアルでこんなこと経験できるなんていいな~。私だったらもう死んでもいい~。」

 真由は妄想の世界へ突入してしまった様だ。お気に入りのイケメンキャラクターの抱き枕にしがみついてぼんやりと空を見つめている。

「真由、話きいてくれてありがとうね。何だかすっきりした。」

 真由は寝っ転がったまま手を振った。

 遅まきながら、沙耶は自分の瞬ちゃんに対する気持ちをちゃんと意識することが出来た。

 そして、昨日瞬ちゃんから告白されたわけで、なんと晴れて両想いになれたのだ。

 でも、まだ実感が湧かない。

 自分のこれまでの目標は瞬ちゃんに出会うということがMAXだったため、その先のことを全く考えていなかったというお粗末なものだった。

 そんなわけで、沙耶は幸せな気分に浸る間もなく、これからのことを思い悩むのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私はただ一度の暴言が許せない

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
厳かな結婚式だった。 花婿が花嫁のベールを上げるまでは。 ベールを上げ、その日初めて花嫁の顔を見た花婿マティアスは暴言を吐いた。 「私の花嫁は花のようなスカーレットだ!お前ではない!」と。 そして花嫁の父に向かって怒鳴った。 「騙したな!スカーレットではなく別人をよこすとは! この婚姻はなしだ!訴えてやるから覚悟しろ!」と。 そこから始まる物語。 作者独自の世界観です。 短編予定。 のちのち、ちょこちょこ続編を書くかもしれません。 話が進むにつれ、ヒロイン・スカーレットの印象が変わっていくと思いますが。 楽しんでいただけると嬉しいです。 ※9/10 13話公開後、ミスに気づいて何度か文を訂正、追加しました。申し訳ありません。 ※9/20 最終回予定でしたが、訂正終わりませんでした!すみません!明日最終です! ※9/21 本編完結いたしました。ヒロインの夢がどうなったか、のところまでです。 ヒロインが誰を選んだのか?は読者の皆様に想像していただく終わり方となっております。 今後、番外編として別視点から見た物語など数話ののち、 ヒロインが誰と、どうしているかまでを書いたエピローグを公開する予定です。 よろしくお願いします。 ※9/27 番外編を公開させていただきました。 ※10/3 お話の一部(暴言部分1話、4話、6話)を訂正させていただきました。 ※10/23 お話の一部(14話、番外編11ー1話)を訂正させていただきました。 ※10/25 完結しました。 ここまでお読みくださった皆様。導いてくださった皆様にお礼申し上げます。 たくさんの方から感想をいただきました。 ありがとうございます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、 今後はいただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきます。

浮気くらいで騒ぐなとおっしゃるなら、そのとおり従ってあげましょう。

Hibah
恋愛
私の夫エルキュールは、王位継承権がある王子ではないものの、その勇敢さと知性で知られた高貴な男性でした。貴族社会では珍しいことに、私たちは婚約の段階で互いに恋に落ち、幸せな結婚生活へと進みました。しかし、ある日を境に、夫は私以外の女性を部屋に連れ込むようになります。そして「男なら誰でもやっている」と、浮気を肯定し、開き直ってしまいます。私は夫のその態度に心から苦しみました。夫を愛していないわけではなく、愛し続けているからこそ、辛いのです。しかし、夫は変わってしまいました。もうどうしようもないので、私も変わることにします。

冷徹義兄の密やかな熱愛

橋本彩里(Ayari)
恋愛
十六歳の時に母が再婚しフローラは侯爵家の一員となったが、ある日、義兄のクリフォードと彼の親友の話を偶然聞いてしまう。 普段から冷徹な義兄に「いい加減我慢の限界だ」と視界に入れるのも疲れるほど嫌われていると知り、これ以上嫌われたくないと家を出ることを決意するのだが、それを知ったクリフォードの態度が急変し……。 ※王道ヒーローではありません

大好きだったあなたはもう、嫌悪と恐怖の対象でしかありません。

ふまさ
恋愛
「──お前のこと、本当はずっと嫌いだったよ」 「……ジャスパー?」 「いっつもいっつも。金魚の糞みたいにおれの後をついてきてさ。鬱陶しいったらなかった。お前が公爵令嬢じゃなかったら、おれが嫡男だったら、絶対に相手になんかしなかった」  マリーの目が絶望に見開かれる。ジャスパーとは小さな頃からの付き合いだったが、いつだってジャスパーは優しかった。なのに。 「楽な暮らしができるから、仕方なく優しくしてやってただけなのに。余計なことしやがって。おれの不貞行為をお前が親に言い付けでもしたら、どうなるか。ったく」  続けて吐かれた科白に、マリーは愕然とした。 「こうなった以上、殺すしかないじゃないか。面倒かけさせやがって」  

悪役令嬢は毒を食べた。

桜夢 柚枝*さくらむ ゆえ
恋愛
婚約者が本当に好きだった 悪役令嬢のその後

王太子殿下が好きすぎてつきまとっていたら嫌われてしまったようなので、聖女もいることだし悪役令嬢の私は退散することにしました。

みゅー
恋愛
 王太子殿下が好きすぎるキャロライン。好きだけど嫌われたくはない。そんな彼女の日課は、王太子殿下を見つめること。  いつも王太子殿下の行く先々に出没して王太子殿下を見つめていたが、ついにそんな生活が終わるときが来る。  聖女が現れたのだ。そして、さらにショックなことに、自分が乙女ゲームの世界に転生していてそこで悪役令嬢だったことを思い出す。  王太子殿下に嫌われたくはないキャロラインは、王太子殿下の前から姿を消すことにした。そんなお話です。  ちょっと切ないお話です。

【完結】美しい人。

❄️冬は つとめて
恋愛
「あなたが、ウイリアム兄様の婚約者? 」 「わたくし、カミーユと言いますの。ねえ、あなたがウイリアム兄様の婚約者で、間違いないかしら。」 「ねえ、返事は。」 「はい。私、ウイリアム様と婚約しています ナンシー。ナンシー・ヘルシンキ伯爵令嬢です。」 彼女の前に現れたのは、とても美しい人でした。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

処理中です...