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初恋がこじれにこじれて困ってます.25
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「沙耶、何だか元気ないけど大丈夫?」
一晩眠ってすっかり元通りの元気な体を取り戻した日奈子とは真逆だ。心も体も一晩眠ったくらいではとても回復出来るはずがない。
それでも、昨晩瞬ちゃんに言われた言葉はしっかり覚えていた。
”これ以上みんなに迷惑をかけるな”ということ。
「私、日奈子と違って体力無いから~。でも、大丈夫。さ、朝ご飯食べに行こ。」
「うん、行こ行こ。今日は何かな~、楽しみだな~。」
そうだ、こういう人がこの部には必要なのだ。自分みたいな人間は分不相応なのだ。瞬ちゃんに言われた通り、これを最後に退部しよう。
朝食を食べ終わり、山荘のスタッフにお礼を言っていよいよ下山だ。
「一ノ瀬、森崎の足の状態はどうだ?」
「昨日テーピングしたんで、普通に歩く分には問題ないんですけど、下山となると負担が大きいですね。」
「どうすっかな。交代でおぶるか。」
「わ、私、大丈夫です。歩けます。」
沙耶はたまらず言った。これ以上足手まといになりたくない。
「ばかやろう!山をなめるんじゃない。下山で足を踏み外したりしたら、みんなを巻き添えにすることになることぐらい分からないのかよ。自分だけじゃすまないんだぞ。」
「一ノ瀬、もういいから。で、どうする?お前行けるところまで行くか。」
部長にいわれて、瞬ちゃんが答えた。
「そうします。もし、無理っぽかったら、交代でお願いします。幸いこいつ軽いですから。」
もう、完全にお荷物以外のなにものでもない。しかし、ここで泣いたりしたらさらにヒンシュクだ。沙耶は必死に涙を我慢した。
こうして、沙耶は瞬ちゃんにおぶわれて下山が始まった。いくら沙耶が軽いとはいえ、40キロの荷物は軽いとは言えないだろう。申し訳なくて恥しくて、もう死んでしまいたいくらいだ。
「瞬ちゃん、ごめんね。」
背中でつぶやいた言葉は、見事に無視された。誰にも聞こえない言葉は、反応に値しないのだろう。沙耶の胸がズキンと疼く。これが瞬ちゃんの本心なのだ。昨日まで舞い上がっていた自分は大バカ者だ。
途中、尊仏小屋に一泊し、無事全員下山した。
「天候にも恵まれ、良い登山だったな。新入生は初めての経験ばかりだったと思うけど、これからも色んな場所にチャレンジしていくから楽しみにしててな。みんなゆっくり体を休めて、各自トレーニングに励んでください。では、解散。」
部長のあいさつとともに、皆は帰途につく。
「一ノ瀬ご苦労だったな。」
「いえ、俺たちの荷物持ってもらって、みんなに申し訳なかったです。」
「何言ってるんだ、水臭いこと言うなよ。困ったときはお互い様だろ。特に山の上ではな。」
部長の言葉に胸が痛い。
「そうだよ。一ノ瀬さんがそんなこと言うなんて、らしくないよ。」
野田さんもやさしい笑顔でそんなことを言葉をかけている。
「みなさん、ご迷惑をおかけして本当に申し訳ありませんでした。」
沙耶はバッタの様に何度も頭をさげた。
「森崎、そんな大げさに思わなくって大丈夫だから。怪我なんて誰でもするもんだしね。俺も、野田も、一ノ瀬だって、これまで色々やらかして、お互い迷惑の掛け合いだ。でもそれが仲間ってもんだろ。だから、な~んにも気にすることはない。もっと、気楽にいこう、なっ。」
部長は、沙耶の背中をバンバンと叩いた。
「は、はい。ありがとうございます。」
その場では、そう答えるしかなかった。しかし、沙耶の心の中はもう「退部」という二文字しか浮かんでいなかった。
「一ノ瀬、森崎のこと送ってってくれるか?」
「え…。」
瞬ちゃんは言葉を濁した。
「私だったら、大丈夫です。もう、ほとんど痛くないですし、山道でもないですから。」
これ以上瞬ちゃんから冷たい態度を取られることに耐えられない。
「森崎、お前えらく遠慮深いな。さっき、俺たちはもう仲間だって言ったばかりだろう。今日はお前がケガしてるけど、これから誰かの調子がわるくなったりしたら、そのときお前が出来ることをしてくれればいいんだ。あんまり大げさに考えるな。なあ、一ノ瀬。」
そこまで言われてはさすがの瞬ちゃんも断れないのか、しぶしぶ沙耶を送っていくことを了承した。
「それじゃあ、俺たちも帰るか。野田。」
「はいはい。俺は、まるで部長の彼女ですね。」
「ばっか。気持ち悪いこと言うなよ。俺にも選ぶ権利はある。」
「はあ、それはこっちのセリフですよ。」
二人はそんなふうにじゃれ合いながら帰っていった。
一晩眠ってすっかり元通りの元気な体を取り戻した日奈子とは真逆だ。心も体も一晩眠ったくらいではとても回復出来るはずがない。
それでも、昨晩瞬ちゃんに言われた言葉はしっかり覚えていた。
”これ以上みんなに迷惑をかけるな”ということ。
「私、日奈子と違って体力無いから~。でも、大丈夫。さ、朝ご飯食べに行こ。」
「うん、行こ行こ。今日は何かな~、楽しみだな~。」
そうだ、こういう人がこの部には必要なのだ。自分みたいな人間は分不相応なのだ。瞬ちゃんに言われた通り、これを最後に退部しよう。
朝食を食べ終わり、山荘のスタッフにお礼を言っていよいよ下山だ。
「一ノ瀬、森崎の足の状態はどうだ?」
「昨日テーピングしたんで、普通に歩く分には問題ないんですけど、下山となると負担が大きいですね。」
「どうすっかな。交代でおぶるか。」
「わ、私、大丈夫です。歩けます。」
沙耶はたまらず言った。これ以上足手まといになりたくない。
「ばかやろう!山をなめるんじゃない。下山で足を踏み外したりしたら、みんなを巻き添えにすることになることぐらい分からないのかよ。自分だけじゃすまないんだぞ。」
「一ノ瀬、もういいから。で、どうする?お前行けるところまで行くか。」
部長にいわれて、瞬ちゃんが答えた。
「そうします。もし、無理っぽかったら、交代でお願いします。幸いこいつ軽いですから。」
もう、完全にお荷物以外のなにものでもない。しかし、ここで泣いたりしたらさらにヒンシュクだ。沙耶は必死に涙を我慢した。
こうして、沙耶は瞬ちゃんにおぶわれて下山が始まった。いくら沙耶が軽いとはいえ、40キロの荷物は軽いとは言えないだろう。申し訳なくて恥しくて、もう死んでしまいたいくらいだ。
「瞬ちゃん、ごめんね。」
背中でつぶやいた言葉は、見事に無視された。誰にも聞こえない言葉は、反応に値しないのだろう。沙耶の胸がズキンと疼く。これが瞬ちゃんの本心なのだ。昨日まで舞い上がっていた自分は大バカ者だ。
途中、尊仏小屋に一泊し、無事全員下山した。
「天候にも恵まれ、良い登山だったな。新入生は初めての経験ばかりだったと思うけど、これからも色んな場所にチャレンジしていくから楽しみにしててな。みんなゆっくり体を休めて、各自トレーニングに励んでください。では、解散。」
部長のあいさつとともに、皆は帰途につく。
「一ノ瀬ご苦労だったな。」
「いえ、俺たちの荷物持ってもらって、みんなに申し訳なかったです。」
「何言ってるんだ、水臭いこと言うなよ。困ったときはお互い様だろ。特に山の上ではな。」
部長の言葉に胸が痛い。
「そうだよ。一ノ瀬さんがそんなこと言うなんて、らしくないよ。」
野田さんもやさしい笑顔でそんなことを言葉をかけている。
「みなさん、ご迷惑をおかけして本当に申し訳ありませんでした。」
沙耶はバッタの様に何度も頭をさげた。
「森崎、そんな大げさに思わなくって大丈夫だから。怪我なんて誰でもするもんだしね。俺も、野田も、一ノ瀬だって、これまで色々やらかして、お互い迷惑の掛け合いだ。でもそれが仲間ってもんだろ。だから、な~んにも気にすることはない。もっと、気楽にいこう、なっ。」
部長は、沙耶の背中をバンバンと叩いた。
「は、はい。ありがとうございます。」
その場では、そう答えるしかなかった。しかし、沙耶の心の中はもう「退部」という二文字しか浮かんでいなかった。
「一ノ瀬、森崎のこと送ってってくれるか?」
「え…。」
瞬ちゃんは言葉を濁した。
「私だったら、大丈夫です。もう、ほとんど痛くないですし、山道でもないですから。」
これ以上瞬ちゃんから冷たい態度を取られることに耐えられない。
「森崎、お前えらく遠慮深いな。さっき、俺たちはもう仲間だって言ったばかりだろう。今日はお前がケガしてるけど、これから誰かの調子がわるくなったりしたら、そのときお前が出来ることをしてくれればいいんだ。あんまり大げさに考えるな。なあ、一ノ瀬。」
そこまで言われてはさすがの瞬ちゃんも断れないのか、しぶしぶ沙耶を送っていくことを了承した。
「それじゃあ、俺たちも帰るか。野田。」
「はいはい。俺は、まるで部長の彼女ですね。」
「ばっか。気持ち悪いこと言うなよ。俺にも選ぶ権利はある。」
「はあ、それはこっちのセリフですよ。」
二人はそんなふうにじゃれ合いながら帰っていった。
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