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初恋がこじれにこじれて困ってます.19
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肝心の大学の方はといえば、文学部はやはり女子率が高く、なんとなく気の合いそうな友人が2人ほど出来た。
木島さおりと向井真由だ。
さおりはしっかり者で世話好きでちょとお母さんに似ている。
真由はマイペースで、ちょうど中学の時のくるみの様なタイプだ。
何だか同じ様な人に囲まれてしまうのが不思議だが、案外そういうことはあるものなのかもしれない。
そんな調子で友人もでき、サークルも決まり、毎日心配で電話をかけてくる母を安心させてあげた。
「今年は大収穫です。新入部員の小野寺風太君、楠木大河君、そして、女子が二人、二人も…、くっ…。」
「部長、何も泣くことないでしょう。」
「な、泣いてない…、ただ、感激してるだけだ。この男だらけのうちの部に女子だぞ。しかも二人も。」
「わかりましたから、さっさと紹介して始めましょうよ。」
「くそっ、俺が毎年どんな思いで新入部員を集めてきたと思ってるんだ。」
「それに引っかかったのが僕たちなんですけどね。」
「それはお前たちの責任だ。」
「ええーっ。だましたくせに。」
「いいから、早くしてくださーい。」
「わかった、わかった。それでは、女子の二人を紹介します。真田日奈子さん、森崎沙耶さんです。」
その瞬間それまで座敷の隅っこで俯き加減だった顔がこちらを向いた。
そしてギョッとした表情で顔をこわばらせると、そのままうつむいてしまった。
沙耶が5年間待ちに待っていた瞬間は恐ろしい程あっけなく終わりを迎えた。
一瞬だけ見ることが許されたその顔は、あいかわらず引き締まっていて、陸上部の頃と同じように日に焼けていて…。
そして5年の時を経た大人のたたずまいへと変化を遂げていた。
「よろしくお願いしまーす。」
「じゃあ、新入生の入部を記念して乾杯!」
「カンパーイ」
沙耶と日奈子はあっという間に女子に飢えた男たちに囲まれてしまった。
沙耶は一刻も早く瞬ちゃんのそばに行きたかった。そして、言葉を交わしたかった。
しかし、座敷の端っこでうずくまっていた瞬ちゃんが、静かに部屋から出ていく後姿が見えてしまった。
うそ、瞬ちゃん、どうして…。
五年ぶりの感動の再会とう幻想はあっけなく砕け散った。
沙耶は奈落の底に突き落とされたような気持ちになる。
しかし、この部に居続ければいずれチャンスは訪れるはずだ。
沙耶は気持ちを切り替え、新歓コンパを楽しもうと必死で笑顔を作った。
自分も随分忍耐強くなったものだと、沙耶は思うのだった。
こういう時、ゆるいということがかえって仇になる。
沙耶は出来るだけ毎日、ワンゲル部に顔を出した。
しかし、そこにいるのはいつも部長と野田さんくらいで、あとは、日替わりでメンバーが2、3人加わるというパターンだった。
あれから瞬ちゃんの顔は一度も見ていない。
これでは何のために同じサークルに入ったか分からない。
ただ、今度のゴールデンウイークには3泊4日の登山がある。これにはきっと瞬ちゃんも参加するだろう。
沙耶はそれまでに、なまった体を少しは鍛えておこうとランニングを始めた。
最初の登山だから、あまりハードではないと部長は言っていたけれど、運動音痴の沙耶にとってはみんなについていけるかどうかが心配だ。
いよいよ今日は登山当日だ。
沙耶が集合場所であるバス停に到着すると、ボチボチ部員が集まってきていた。
不自然にならないように気を付けながら瞬ちゃんの姿を探す。
しかし、まだ来ていない様でその姿を確認することはできない。
出発時間が迫り、部員のほとんどがそろったのに、それでもまだ瞬ちゃんは姿を現さない。
部長が点呼を始めた。
「あとは、一ノ瀬だけか。おーい、誰か一ノ瀬に連絡取ってくれよ。」
「はーい。」
相棒の野田さんが答える。野田さんは繋がった電話でしばらく話したあと面倒くさそうな表情で振り向いた。
「そこまで来てはいるらしいんですけど、やっぱりやめようか迷ってるなんて言ってます。」
「あんのバカ。」
部長は野田さんの携帯を奪うと凄い勢いで怒鳴った。
「おい、どういうつもりだ。ごちゃごちゃ言ってないで早く来い。副部長がそんなんでどうするんだ。来なかったら、罰ゲーム決定だからな。」
電話を切ると部長はふうっっと深いため息をついた。
「さあ、みんな出発するぞー。乗った乗った。」
「え、部長、一ノ瀬さんは?どうするんすか。」
「ケッ、もうすぐ来るだろう。どうせその辺の物陰に隠れてるだけなんだからな。」
「何ですかそれ。この辺まで来てるんですか。だったら何でここに来ないんですか?」
「知らねえよ。あいつに聞いてくれ。あー、面倒くせえ。さあ、乗った乗った、楽しい登山に出発だ。」
「あのー、罰ゲームって何ですか。」
沙耶はすっかりご機嫌斜めな部長を避け、野田さんに尋ねる。
「ワンゲル部のルールでね、出発時間に遅れたら、男だったら女装、女の子だったら男装してまる一日活動することっていうのが罰ゲーム。」
「何ですか?そのルール。」
「面白いうえに屈辱的だろ?部長が考えたんだけど。まあ、一年に一人ぐらいは犠牲になってるかな。」
「へえ、それはそれで楽しみかも。」
「そんなこと言ってると、自分がやる羽目になるかもよ。」
「うわあ、それは嫌だー。」
「お、やっと来たぞ、困った副部長が。」
部長が言った通り、すぐそばまで来ていた様で、瞬ちゃんはリュックを背負って現れた。
しかし、沙耶の方を一切見ることはない。そうして、黙ったまま沙耶の目の前を通り過ぎてバスに乗り込んだのだった。
ううっ、完全に無視されてる…。でも、絶対自分から話すんだ。沙耶はこぶしをキュッと握った。
木島さおりと向井真由だ。
さおりはしっかり者で世話好きでちょとお母さんに似ている。
真由はマイペースで、ちょうど中学の時のくるみの様なタイプだ。
何だか同じ様な人に囲まれてしまうのが不思議だが、案外そういうことはあるものなのかもしれない。
そんな調子で友人もでき、サークルも決まり、毎日心配で電話をかけてくる母を安心させてあげた。
「今年は大収穫です。新入部員の小野寺風太君、楠木大河君、そして、女子が二人、二人も…、くっ…。」
「部長、何も泣くことないでしょう。」
「な、泣いてない…、ただ、感激してるだけだ。この男だらけのうちの部に女子だぞ。しかも二人も。」
「わかりましたから、さっさと紹介して始めましょうよ。」
「くそっ、俺が毎年どんな思いで新入部員を集めてきたと思ってるんだ。」
「それに引っかかったのが僕たちなんですけどね。」
「それはお前たちの責任だ。」
「ええーっ。だましたくせに。」
「いいから、早くしてくださーい。」
「わかった、わかった。それでは、女子の二人を紹介します。真田日奈子さん、森崎沙耶さんです。」
その瞬間それまで座敷の隅っこで俯き加減だった顔がこちらを向いた。
そしてギョッとした表情で顔をこわばらせると、そのままうつむいてしまった。
沙耶が5年間待ちに待っていた瞬間は恐ろしい程あっけなく終わりを迎えた。
一瞬だけ見ることが許されたその顔は、あいかわらず引き締まっていて、陸上部の頃と同じように日に焼けていて…。
そして5年の時を経た大人のたたずまいへと変化を遂げていた。
「よろしくお願いしまーす。」
「じゃあ、新入生の入部を記念して乾杯!」
「カンパーイ」
沙耶と日奈子はあっという間に女子に飢えた男たちに囲まれてしまった。
沙耶は一刻も早く瞬ちゃんのそばに行きたかった。そして、言葉を交わしたかった。
しかし、座敷の端っこでうずくまっていた瞬ちゃんが、静かに部屋から出ていく後姿が見えてしまった。
うそ、瞬ちゃん、どうして…。
五年ぶりの感動の再会とう幻想はあっけなく砕け散った。
沙耶は奈落の底に突き落とされたような気持ちになる。
しかし、この部に居続ければいずれチャンスは訪れるはずだ。
沙耶は気持ちを切り替え、新歓コンパを楽しもうと必死で笑顔を作った。
自分も随分忍耐強くなったものだと、沙耶は思うのだった。
こういう時、ゆるいということがかえって仇になる。
沙耶は出来るだけ毎日、ワンゲル部に顔を出した。
しかし、そこにいるのはいつも部長と野田さんくらいで、あとは、日替わりでメンバーが2、3人加わるというパターンだった。
あれから瞬ちゃんの顔は一度も見ていない。
これでは何のために同じサークルに入ったか分からない。
ただ、今度のゴールデンウイークには3泊4日の登山がある。これにはきっと瞬ちゃんも参加するだろう。
沙耶はそれまでに、なまった体を少しは鍛えておこうとランニングを始めた。
最初の登山だから、あまりハードではないと部長は言っていたけれど、運動音痴の沙耶にとってはみんなについていけるかどうかが心配だ。
いよいよ今日は登山当日だ。
沙耶が集合場所であるバス停に到着すると、ボチボチ部員が集まってきていた。
不自然にならないように気を付けながら瞬ちゃんの姿を探す。
しかし、まだ来ていない様でその姿を確認することはできない。
出発時間が迫り、部員のほとんどがそろったのに、それでもまだ瞬ちゃんは姿を現さない。
部長が点呼を始めた。
「あとは、一ノ瀬だけか。おーい、誰か一ノ瀬に連絡取ってくれよ。」
「はーい。」
相棒の野田さんが答える。野田さんは繋がった電話でしばらく話したあと面倒くさそうな表情で振り向いた。
「そこまで来てはいるらしいんですけど、やっぱりやめようか迷ってるなんて言ってます。」
「あんのバカ。」
部長は野田さんの携帯を奪うと凄い勢いで怒鳴った。
「おい、どういうつもりだ。ごちゃごちゃ言ってないで早く来い。副部長がそんなんでどうするんだ。来なかったら、罰ゲーム決定だからな。」
電話を切ると部長はふうっっと深いため息をついた。
「さあ、みんな出発するぞー。乗った乗った。」
「え、部長、一ノ瀬さんは?どうするんすか。」
「ケッ、もうすぐ来るだろう。どうせその辺の物陰に隠れてるだけなんだからな。」
「何ですかそれ。この辺まで来てるんですか。だったら何でここに来ないんですか?」
「知らねえよ。あいつに聞いてくれ。あー、面倒くせえ。さあ、乗った乗った、楽しい登山に出発だ。」
「あのー、罰ゲームって何ですか。」
沙耶はすっかりご機嫌斜めな部長を避け、野田さんに尋ねる。
「ワンゲル部のルールでね、出発時間に遅れたら、男だったら女装、女の子だったら男装してまる一日活動することっていうのが罰ゲーム。」
「何ですか?そのルール。」
「面白いうえに屈辱的だろ?部長が考えたんだけど。まあ、一年に一人ぐらいは犠牲になってるかな。」
「へえ、それはそれで楽しみかも。」
「そんなこと言ってると、自分がやる羽目になるかもよ。」
「うわあ、それは嫌だー。」
「お、やっと来たぞ、困った副部長が。」
部長が言った通り、すぐそばまで来ていた様で、瞬ちゃんはリュックを背負って現れた。
しかし、沙耶の方を一切見ることはない。そうして、黙ったまま沙耶の目の前を通り過ぎてバスに乗り込んだのだった。
ううっ、完全に無視されてる…。でも、絶対自分から話すんだ。沙耶はこぶしをキュッと握った。
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