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ケダモノのように愛して.70

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 ちょっとしたアクシデントはあったものの、ひなたも滝口も何か得るものがあったようで、満足気な表情で帰っていった。
 


「俺がいつまでもグチグチ言っても仕方ないんだけど、あいつどうして裸婦描くのやめちまったんだろうな~。あいつの良さが一番出せるのが裸婦だと、俺は思うんだけどな~」

 洋平は誰に言うともなくつぶやいた。

 今まではそんな洋平の言葉など気にならなかった。

 だけどさっきの洋平の”見てもらわなければこの世に存在しないのと同じ”という言葉を聞いたせいで、桔平が裸婦をなぜ描かなくなってしまったのかが、急に気になり始める。



「ちょっと、桔平のとこ行ってくる」

「そうか」

 洋平はただそう答えた。

 咲那は、桔平に会って自分は一体何を言うのだろうと思いながらも、やっぱり会いに行かずにはいられなかった。



「桔平…」

「ああ…、咲那か」

 桔平はアトリエで女性の画の仕上げをしている最中だった。

 もちろん裸婦ではない。



「昨日は、その…、色々と騒ぎに巻き込んですまなかったな」

「ううん」

 咲那は、むしろその騒ぎの中にさえ入っていけなかった自分の存在が悲しかった。

 自分は桔平の中では、やはりその程度なのだと思い知らされたようで。



「ねえ、桔平、聞いていい?」

「ん?何だ。何を聞かれるか分からないのにいいも悪いもないけど。たいていそういう時はロクなこと聞かないんだろ?」

「そ、そんなことないよ…」



「まあいい…、で、なんだよ、聞きたいことって」

「桔平さ、どうして裸婦描くのやめちゃったの?」

「なんだ…、そんなことか」

「そんなことかって…」



「気分だよ、気分。俺もこう見えて色々変化してるんだぜ。直接的なエロスより、今は内なるエロスとでもいうのかな、そっちの方が俺にとっては魅力的なんだよ」

「ふう~ん」

「なんかきっかけがあったの?」

「えらく細かいことまで聞いてくるんだな。さあ、なんだろうな。そういうのは流れに任せてるから、よく分からん」

「またあ、誤魔化してるでしょ」



「それより、お前がなんでそんなこと聞きたがるんだよ。俺はそっちのほうが気になるよ」

「う~ん、それは、なんとなく」

「なんだよ、結局お前もなんとなくなんじゃないか」

「そうだけど、桔平は、大事な作品の方向性が変わったって事でしょ?」

「そんな専門的な言い方、どこで覚えてきたんだ?」

「もう、バカにしないでよね。そのくらい分かるんだから」

「ははあ、さては兄貴になんか入れ知恵されたな?」



 図星を突かれ、咲那は答えに詰まる。

「なんだよ、やっぱりおかしいと思った。今までそんな話したことないのに、急に妙なこと言い出すから」

「違うよ、確かに、お父さんの話も聞いたけど、私も気になってたんだもん。桔平のモデルもっとやってたかったし」

「そ、それは…」

 今度は桔平が答えに詰まる。
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