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ケダモノのように愛して.59

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 朝から始めた掃除が終わったのは結局夕方近くになってからだった。

「あ~、もう疲れた~。今日は出前取っちゃお」

「わあ~、だったらお寿司がいいな~」

「そうねぇ、咲那頑張ってくれたから奮発しちゃうか」



 明日は洋平が帰って来る。

 それだけでも桔平に会うことに対しての十分な足かせになる。

 その上、佳乃とのことが大きな壁となって目の前に立ちはだかっている。

 せめてお寿司ぐらい食べないと咲那の落ち込んだ気持ちは上がらない。



 だけど本当は分かってる。

 いくら誤魔化そうとしたって、桔平を想う気持ちが消せるはずがないことを…。



 次の日の部活はひなたと滝口にピッタリとマークされて洋平のことをあれこれ聞かれ、ずっと離してもらえなかった。

 下校時刻ギリギリまでつき合わされようやく解放された。

 二人が父に会うのを本当に楽しみにしてくれているのは嬉しいけれど、会う前からこの調子では先が思いやられる。



 家に帰ると駐車場には母の車が停まっていた。

 父の帰宅に合わせて仕事を早く終えてきたのだろう。



「咲那!ただいま。元気だったか!!」

 洋平はリビングに入るなり、駆け寄って来て咲那のことを抱きしめた。

 海外での生活が長いせいで、挨拶の仕方が大げさだ。

 年に一度か二度しか帰って来ないので、その度に慣れない挨拶に無理やりつき合わされるはめになる。



「う、うん…、元気だったよ。お、お父さん、虫歯は大丈夫?」

 帰国後初めて交わす話題が虫歯なのが情けない。



「いやあ、鎮痛剤でなんとか抑えてるが、痛くてしょうがないよ」

 洋平は頬をさすりながらオーバーアクションでその痛みを表現した。



「ねえ、あなた、食事はどうしたらいいの?」

 まりあは、久しぶりに帰ってきた洋平のために手料理を振舞おうと腕まくりをしていた。



「そうだな、なるべく柔らかくて冷たいものがいいな。母さんの手料理は歯の治療が済んでから堪能させてもらうから、とにかく今は柔らかいものをたのむよ」

「そう…」

 張り切っていたまりあは少しがっかりした様子だ。



「そうだ!そうめんがいいな」

「わかった。そうしましょ」

 まりあはふぅっと小さなため息をつくとキッチンに戻っていった。



 着替えをすましてリビングに戻ると、洋平はタブレットと格闘していた。

 何をしているのかと覗き込むと、菊池先生が言っていたとおりツイッターをしていた。



「お父さん、ツイッターしてるんなら私たちにも教えてよね」

「いやあ、俺のツイートなんて写真のことばっかりだからな。お前たちが見ても面白くもなんともないよ」

「それはそうかもしれないけど。いつもお父さんどこにいて何してるのか全然分かんないんだもん」

「そんなの別にいいじゃないか。帰ってくる時はちゃんと連絡してるんだし」

 当然のことの様に言われてしまうと何も言い返せない。
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