52 / 86
ケダモノのように愛して.52
しおりを挟む
「本当にどこもケガしてないのよね」
「大丈夫だよ、ほら」
咲那は一回転して見せた。
「よかった、本当に…よかった」
まりあは再び咲那を抱きしめると、しばらく離してはくれなかった。
「お母さん…、お腹すいた」
「そ、そうだわね。ごめんね、私ったら、すっかり取り乱しちゃって」
まりあは涙を拭くとキッチンへ入っていった。
「私も手伝うよ」
まりあには申し訳ないけれど、あんな風に自分のために取り乱した姿を見たことで、ようやく愛情を感じることができた気がしていた。
よく育児と仕事の両立は難しいという話題を目にするけれど、まりあも例外ではなかったということだ。
そんなことが冷静に考えられるようになった自分は少し大人になったのかなと思う。
さっきまで桔平のことでくよくよ悩んでいたくせに、まりあのおかげで何だか今は幸せな気分だ。
久しぶりに二人でゆっくりと食卓を囲み、食後もリビングで一緒に映画を見て過ごした。
水谷くんの騒動がまさかこんなことに結びつくなんて思ってもみなかったけれど…。
咲那は、まりあとの絆が今までよりもちょっとだけと強くなった気がしていた。
それはいつもひとりぼっちの咲那にとってはとても重要なことだった。
水谷くんの一件のせいで色々なことがほったらかしになっていたけれど、写真部の方は来週中にはチーム決めをして写真甲子園の初戦に応募しなければならない。
それに加えて来週はお父さんが帰ってくるのだ。
どうやら来週は放っておいても退屈しない一週間になりそうだ。
翌日の放課後の部室では写真甲子園に出場するためのチーム決めが行われた。
一チームは三人編成で、各校から出場できるのは一チームと決められている。
また写真は8枚の組み写真を一作品として応募することになっている。
チームはだいたい予想はしていたけれど、ひなた、滝口君、咲那が一緒のチームになった。
咲那は他の二人に比べて写真甲子園に対する熱量は著しく低い。
だから、八枚のうち二人の作品が沢山選ばれた方がむしろ気が楽だ、くらいに思っている。
今日は金曜日で土日は菊池先生は個人的に参加している写真サークルの展示会があるため、部活は自由参加になった。
ひなたや滝口君のような熱血部員は土日など関係なく部室に入り浸り状態になるのだろうけど、咲那はそこまでする気にはなれない。
そんな時間があるなら、迷わず桔平のところに行くだろう。
月曜日に父洋平が帰ってくる前に、もう一度桔平と甘い時間を過ごしたかった。
甘い時間などと思っているのは自分だけなのだけど…。
学校から帰ると、咲那は懲りもせず桔平の家へと向かった。
「桔平~」
アトリエを覗いてみたけれどいない。
ならばと二階に上がり勝手に鍵を開けて中に入った。
部屋の奥から声が聞こえてくる。
どうも電話をしているようだ。
「ああ、分かった、分かったから…、もう泣くなよ。取りあえず今からそっち行くから」
どうやら深刻な話の様だ…。
咲那は出ていっていいものか迷う。
「大丈夫だよ、ほら」
咲那は一回転して見せた。
「よかった、本当に…よかった」
まりあは再び咲那を抱きしめると、しばらく離してはくれなかった。
「お母さん…、お腹すいた」
「そ、そうだわね。ごめんね、私ったら、すっかり取り乱しちゃって」
まりあは涙を拭くとキッチンへ入っていった。
「私も手伝うよ」
まりあには申し訳ないけれど、あんな風に自分のために取り乱した姿を見たことで、ようやく愛情を感じることができた気がしていた。
よく育児と仕事の両立は難しいという話題を目にするけれど、まりあも例外ではなかったということだ。
そんなことが冷静に考えられるようになった自分は少し大人になったのかなと思う。
さっきまで桔平のことでくよくよ悩んでいたくせに、まりあのおかげで何だか今は幸せな気分だ。
久しぶりに二人でゆっくりと食卓を囲み、食後もリビングで一緒に映画を見て過ごした。
水谷くんの騒動がまさかこんなことに結びつくなんて思ってもみなかったけれど…。
咲那は、まりあとの絆が今までよりもちょっとだけと強くなった気がしていた。
それはいつもひとりぼっちの咲那にとってはとても重要なことだった。
水谷くんの一件のせいで色々なことがほったらかしになっていたけれど、写真部の方は来週中にはチーム決めをして写真甲子園の初戦に応募しなければならない。
それに加えて来週はお父さんが帰ってくるのだ。
どうやら来週は放っておいても退屈しない一週間になりそうだ。
翌日の放課後の部室では写真甲子園に出場するためのチーム決めが行われた。
一チームは三人編成で、各校から出場できるのは一チームと決められている。
また写真は8枚の組み写真を一作品として応募することになっている。
チームはだいたい予想はしていたけれど、ひなた、滝口君、咲那が一緒のチームになった。
咲那は他の二人に比べて写真甲子園に対する熱量は著しく低い。
だから、八枚のうち二人の作品が沢山選ばれた方がむしろ気が楽だ、くらいに思っている。
今日は金曜日で土日は菊池先生は個人的に参加している写真サークルの展示会があるため、部活は自由参加になった。
ひなたや滝口君のような熱血部員は土日など関係なく部室に入り浸り状態になるのだろうけど、咲那はそこまでする気にはなれない。
そんな時間があるなら、迷わず桔平のところに行くだろう。
月曜日に父洋平が帰ってくる前に、もう一度桔平と甘い時間を過ごしたかった。
甘い時間などと思っているのは自分だけなのだけど…。
学校から帰ると、咲那は懲りもせず桔平の家へと向かった。
「桔平~」
アトリエを覗いてみたけれどいない。
ならばと二階に上がり勝手に鍵を開けて中に入った。
部屋の奥から声が聞こえてくる。
どうも電話をしているようだ。
「ああ、分かった、分かったから…、もう泣くなよ。取りあえず今からそっち行くから」
どうやら深刻な話の様だ…。
咲那は出ていっていいものか迷う。
0
お気に入りに追加
213
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【R18】黒髪メガネのサラリーマンに監禁された話。
猫足02
恋愛
ある日、大学の帰り道に誘拐された美琴は、そのまま犯人のマンションに監禁されてしまう。
『ずっと君を見てたんだ。君だけを愛してる』
一度コンビニで見かけただけの、端正な顔立ちの男。一見犯罪とは無縁そうな彼は、狂っていた。
お兄ちゃんが私にぐいぐいエッチな事を迫って来て困るんですけど!?
さいとう みさき
恋愛
私は琴吹(ことぶき)、高校生一年生。
私には再婚して血の繋がらない 二つ年上の兄がいる。
見た目は、まあ正直、好みなんだけど……
「好きな人が出来た! すまんが琴吹、練習台になってくれ!!」
そう言ってお兄ちゃんは私に協力を要請するのだけど、何処で仕入れた知識だかエッチな事ばかりしてこようとする。
「お兄ちゃんのばかぁっ! 女の子にいきなりそんな事しちゃダメだってばッ!!」
はぁ、見た目は好みなのにこのバカ兄は目的の為に偏った知識で女の子に接して来ようとする。
こんなんじゃ絶対にフラれる!
仕方ない、この私がお兄ちゃんを教育してやろーじゃないの!
実はお兄ちゃん好きな義妹が奮闘する物語です。
秘密 〜官能短編集〜
槙璃人
恋愛
不定期に更新していく官能小説です。
まだまだ下手なので優しい目で見てくれればうれしいです。
小さなことでもいいので感想くれたら喜びます。
こここうしたらいいんじゃない?などもお願いします。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
【R18完結】エリートビジネスマンの裏の顔
白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます───。
私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。
同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが……
この生活に果たして救いはあるのか。
※サムネにAI生成画像を使用しています
見知らぬ男に監禁されています
月鳴
恋愛
悪夢はある日突然訪れた。どこにでもいるような普通の女子大生だった私は、見知らぬ男に攫われ、その日から人生が一転する。
――どうしてこんなことになったのだろう。その問いに答えるものは誰もいない。
メリバ風味のバッドエンドです。
2023.3.31 ifストーリー追加
イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?
すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。
病院で診てくれた医師は幼馴染みだった!
「こんなにかわいくなって・・・。」
10年ぶりに再会した私たち。
お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。
かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」
幼馴染『千秋』。
通称『ちーちゃん』。
きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。
千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」
自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。
ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」
かざねは悩む。
かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?)
※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。
想像の中だけでお楽しみください。
※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。
すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる