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ケダモノのように愛して.52

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「本当にどこもケガしてないのよね」

「大丈夫だよ、ほら」

 咲那は一回転して見せた。

「よかった、本当に…よかった」

 まりあは再び咲那を抱きしめると、しばらく離してはくれなかった。



「お母さん…、お腹すいた」

「そ、そうだわね。ごめんね、私ったら、すっかり取り乱しちゃって」

 まりあは涙を拭くとキッチンへ入っていった。

「私も手伝うよ」



 まりあには申し訳ないけれど、あんな風に自分のために取り乱した姿を見たことで、ようやく愛情を感じることができた気がしていた。

 よく育児と仕事の両立は難しいという話題を目にするけれど、まりあも例外ではなかったということだ。

 そんなことが冷静に考えられるようになった自分は少し大人になったのかなと思う。

 さっきまで桔平のことでくよくよ悩んでいたくせに、まりあのおかげで何だか今は幸せな気分だ。



 久しぶりに二人でゆっくりと食卓を囲み、食後もリビングで一緒に映画を見て過ごした。

 水谷くんの騒動がまさかこんなことに結びつくなんて思ってもみなかったけれど…。

 咲那は、まりあとの絆が今までよりもちょっとだけと強くなった気がしていた。
 
 それはいつもひとりぼっちの咲那にとってはとても重要なことだった。



 水谷くんの一件のせいで色々なことがほったらかしになっていたけれど、写真部の方は来週中にはチーム決めをして写真甲子園の初戦に応募しなければならない。

 それに加えて来週はお父さんが帰ってくるのだ。

 どうやら来週は放っておいても退屈しない一週間になりそうだ。



 翌日の放課後の部室では写真甲子園に出場するためのチーム決めが行われた。

 一チームは三人編成で、各校から出場できるのは一チームと決められている。

 また写真は8枚の組み写真を一作品として応募することになっている。



 チームはだいたい予想はしていたけれど、ひなた、滝口君、咲那が一緒のチームになった。

 咲那は他の二人に比べて写真甲子園に対する熱量は著しく低い。

 だから、八枚のうち二人の作品が沢山選ばれた方がむしろ気が楽だ、くらいに思っている。



 今日は金曜日で土日は菊池先生は個人的に参加している写真サークルの展示会があるため、部活は自由参加になった。

 ひなたや滝口君のような熱血部員は土日など関係なく部室に入り浸り状態になるのだろうけど、咲那はそこまでする気にはなれない。



 そんな時間があるなら、迷わず桔平のところに行くだろう。

 月曜日に父洋平が帰ってくる前に、もう一度桔平と甘い時間を過ごしたかった。

 甘い時間などと思っているのは自分だけなのだけど…。

 学校から帰ると、咲那は懲りもせず桔平の家へと向かった。



「桔平~」

 アトリエを覗いてみたけれどいない。

 ならばと二階に上がり勝手に鍵を開けて中に入った。

 部屋の奥から声が聞こえてくる。

 どうも電話をしているようだ。



「ああ、分かった、分かったから…、もう泣くなよ。取りあえず今からそっち行くから」

 どうやら深刻な話の様だ…。

 咲那は出ていっていいものか迷う。
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