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ケダモノのように愛して.47

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 店の隅に追いやられていた桔平がここぞとばかりに話に割り込んできた。



「お前は黙ってろ」

「え~、銀次のお情けにつきあってやったんだぜ、これくらい言わせろよ。本当だったらすぐに警察に通報しちゃうところだったんだからな~。だいたい、咲那の親にしてみたら、なんで犯人の肩を持たなきゃいけないのか理解できないところを、この俺が説得したんだから」

「わかった、わかった。だけど、今は俺と水谷くんが話してるんだから、少し黙っててくれ。お前の悪いようにはしないから」

「ふ~ん、絶対だぞ」



 銀次は桔平の協力なしでは今回の計画がなしえなかったことは心から感謝している。

 しかし、桔平が何かと面倒くさいやつであることにかわりはない。



「俺は君の住んでるアパートの管理人でもあり、バイト先の店長でもある。だから、君がこっちに越してきてから勝手な話だけれど、半分君の親代わりのつもりで接してきた」

 水谷くんがハッとした表情で銀次のことを見つめた。
 
 しかしそのあとすぐ項垂れてしまった。



「この二年間君のことを近くで見てきた俺としては、今回のことは一時の気の迷いであって、君が元々そういう人間だとは思ってない。だから、咲那の叔父である桔平に頼んで何とか君を犯罪者にしないよう協力してもらった」

 水谷くんはうつむいたまま、再び泣き始めた。



「おいお~い、泣きたいのは咲那の方だよ。泣いてないで何とか言いなよ」

 桔平に黙っていろと言っても黙っているはずが無いのだが、いちいち話の腰を折られると緊張感がなくなって困る。



「ぼ、僕…、中学も高校もこれと言って人に自慢できる趣味も特技もなくて…、目立たなくて…、真面目なだけのつまらない人間でした。嫌味にしか聞こえないかもしれませんけど唯一得意だったのが勉強でした。だから、大学を選ぶ時も一番難しい学部を選んで受験したんです。僕にはそれしか生きる意味がありませんでした。他人に認めてもらいたかったんです」

 ようやく口を開いた水谷の話にみな黙って耳を傾けていた。



「他人に認めてもらいたいのなんて、誰でも一緒だよ。自分だけが特別だなんて思っちゃってない?」

 またしても桔平がチャチャを入れる。

 銀次が桔平をギロリと睨んだ。

「お~怖い」

 桔平はおどけて見せる。



「悪いな…、水谷くん。続けて」

「咲那さんのことは…、今になって考えてみるとよく分からないんです。可愛い子だなとは思っていました。でも、それ以上の感情はありませんでした。でも、自分の将来が見えなくなってしまったとき、誰かにそばにいて欲しいを思ったんです。それがたまたま咲那さんでした」

「え~、たまたまなんていう理由で誘拐されるなんて納得いかないな~。襲われるって結構怖いもんだぜ?咲那の心の傷、どうやって償ってくれるのかな~」

「桔平、本当に少し黙っててくれ。水谷くんが全部話し終わるまで我慢できないのか、まったく…」

 銀次は咲那を危険な目に合わせてしまった手前、桔平にもあまり強くは言えない。



「俺がやったことは世間的に見たらいけないことだったのかもしれない。だけど、世間や警察は水谷くんがどんな人間なのかなんて知らない。俺が見てきた水谷くんは、今時珍しいくらい真面目で、優しくて、嘘などつけない純粋な男の子だ。そんな良さを知らないやつらに水谷くんのことを裁いて欲しくなかった。経歴に一度汚点がついたら二度と消せない。そんな不便な世の中だ。人は誰でも間違いを犯す。でも、それに不釣り合いな罰を受けて人生を狂わせてしまうのは許せない。俺は水谷くんを信じてたから守りたかったんだ」

 銀次は水谷のことを真っすぐ見つめて言った。



「…ぼ、僕はそんな出来た人間じゃないです。今回のことだって本当に自分本位で、自分勝手な行動でしかありません。銀次さんにも、それから皆さんにも、そして、誰より咲那さん…、ご迷惑をおかけして本当に申し訳ありませんでした」

 水谷くんはまだグルグル巻きにされたままの体を必死で折り曲げて頭を下げた。
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