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ケダモノのように愛して.36

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 咲那の自転車に並走する形で桔平はバイクをゆっくりと走らせた。

 ほどなく家に到着する。



「ねえ、ちゃんと話してよ」

「わかったわかった。先にモデルの女の子帰してくるから、上で待ってろ」

「うん…」



 咲那は言われた通り二階に上がって桔平が来るのを待った。

 あいかわらず女の人の絵を描いているんだなと思うと、未だに心の中はモヤモヤする。

 いくら割り切ろうと思っても実際に綺麗な女性を見てしまうと勝手な妄想が始まるのを止めることはできない。



 桔平が絵を描き続ける限り咲那は彼女たちに嫉妬し続けるのだろう。

 辛いけど仕方ないことなのだ…。



 しかし、今はそれよりもさっきのことの方が気がかりだ。

 まるで桔平は水谷さんが来ることが分かっていたようだったから…。



「悪い悪い、待たせたな」

 桔平はドサッとソファに腰をおろすと、煙草に火をつけた。



「銀次から連絡があったんだよ」

「え、あの中華料理屋の?」

「ああ…」

「水谷が変な書置きを残して姿を消したって」

「え、何それ…」

 本当にドラマみたいな雰囲気になってきた。



「銀次の店のすぐ近くのボロアパートあるじゃん。あそこも銀次の家が管理してるんだ。水谷もあそこに住んでたんだけど、急に無断欠勤するようになって、いくら連絡しても繋がらないから、まあ、管理人の権限であいつの部屋を開けたんだ」

「うわ、ホントにドラマだ」

「ばか、あんな危ない目に遭っといて。ふざけてないでちゃんと聞け」

「はぁ~い」



「銀次が部屋に入るとテーブルの上に書置きがあった。それがこれ」

 桔平は携帯の画面を見せてくれた。

 そこには「猪俣咲那ちゃんを迎えに行きます。誰にも渡さない」と書いてあった。

「何これ?」

 咲那は気持ちが悪くて背筋が寒くなった。



「水谷の行先が分からないから、銀次はあいつの実家に連絡を入れたんだ。実家は工務店をやってるらしいんだけど、最近親父さんが倒れて、それで仕送りとかが厳しい状態になったのと、大学をやめて実家に戻ってきて欲しいと母親が話したらしいんだ」

「そうだったんだ…」

「あいつ法学部でさ、あれでも弁護士目指して頑張ってたらしい。それが急に叶わなくなって、精神的にかなり参ってたらしい」

 理由を聞いてしまうと、あんな目に遭わされたのに同情する気持ちの方が強くなってしまう。



「だけど、一時は危なかった親父さんの容態も今は順調に回復に向かってるらしくて、母親もあの時は気が動転していてついあんなことを言ってしまった事を後悔してるって言ってたらしい」

「え、でも水谷さんはまだそれを知らないの?」

「そうなんだ。だから、どうにか捕まえたかったんだけど、今日のところはお前の身の安全が第一だったからな」

「そうだったんだ…」
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