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ケダモノのように愛して.30

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 お父さんはどうしてお母さんにも肝心なことを言わないのだろうか。

 いつも帰って来るまでは予定が全く分からなくて、帰って来てから大騒ぎになるのに。

 慣れていたつもりだったけれど、さすがに今回ばかりは母のことを思うと父に対してマグマのような怒りが湧いてきてしまう。



 そのあと他の部員たちもやってきて、それぞれ選んだ作品について話をし、菊池先生のアドバイスを受けてその日の部活は終わった。



 咲那は学校を出ると母にLINEをした。

 もちろん菊池先生から聞いた、お父さんが帰ってくる理由についてだ。

 しばらくして返事が届いた。



『まったく呆れて言葉も出ないわ。こっちはもう仕事のことで色々動いちゃったのに。だけど、まあただの虫歯でよかった。突然ガンだとか言われるよりよっぽどましだから』

 返ってきたのはそんな激甘のメッセージだった。



 母は強し?というのだろうか。

 いや、そうやって甘やかすから、また振り回されるのだ。

 いい加減母も懲りないのだろうかと思うけど、夫婦仲は決して悪くない。

 夫婦がそれでいいのなら、いくら娘だろうと口出しすることではないのかもしれない。

 ただ、母が気の毒に思えてしまうのは娘としてはつらいことだけど。



 そんなわけで、母の仕事も通常どおりとなり、八時くらいには帰れそうということだった。

 写真選びは終わってしまったけれど、どうもまだその次の段階に進む気にならない。

 制作意図とか言われると、途端にやる気が失せるのだ。



「あ~あ、暇だな…」

 咲那はまたリビングで大して興味の無い番組を垂れ流しにしていた。



 少し眠い…。

 お母さんが帰ってくるまで眠ろう。

 そう思ってソファに横になった。

 と、ローテーブルの上のスマホが着信を伝える。



「んもう…、せっかく寝ようとしたのに」

 しかし携帯を手に取った瞬間、そんな気持ちはどこかへ消えてしまった。

 なぜなら画面に表示されていたのはまたしても桔平の名前だったからだ。



「もしもし?」

「なんだ、鼻声じゃないか。風邪でも引いたのか?」

「ううん、ちょっと眠かっただけ」

 今日は桔平の声が聞けるなんて思ってなかったから、嬉しさも十割増しだ。



「そっか、じゃあ悪いかな」

「な、何?何か用?」

「あ、うん…。実は今日来てくれるはずだったモデルの子が急にこれなくなっちゃったからさ、お前の絵の方描こうかなと思ったんだけど…」

「い、いいよ別に。行くよ」

「そっか、悪いな。じゃあ待ってる」



 嘘、嬉しい…。昨日も会って、今日も会えるなんて…。

 小さな子供の頃は、何の用もなくても出入り出来ていたのに…。

 高校生になった今は何か理由がないと行きづらい。

 咲那はテレビを消して戸締りをすると、桔平の家へ向かった。
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