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ケダモノのように愛して.21

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 わりとよく撮れていると思ったものが五枚。

 その中でこれはという目を引く何かがあるものは二枚に絞られた。

 あとはこの作品のプレゼンテーションを考えるだけだ。



 作品のセンスが皆より秀でているかと言われると自信はない。

 どちらかと言えばプレゼンテーションの方がまだ得意かもしれない。

 写真を見ながら色々と構想を練った。



「ただいま~」

 まりあが買い物袋を持ってキッチンに入ってきた。

「おかえり」

 咲那はあれからずっと夢中になって写真とにらめっこをしていたため、テーブルの上はまだ写真だらけだった。



「あら、写真できたのね。見ていい?」

「あ、うん…」



 こういうとき、やっぱり少し緊張する。

 母は美大出身だし、父の作品もいっぱい見ている。

 そんな母に自分のような中途半端な人間が撮った写真を見られるのは怖い気がした。



「どれにするか決めたの」

「うん、これとこれにしようかなって」

 まりあは写真の出来については何も言わない。

 それは、まりあ自身が写真家ではないということ、そしてやっぱり夫の洋平が写真家であることで、咲那が窮屈な思いをしないようにという配慮だと思う。



「そう…。選ばれるといいわね」

「うん」

「さ、じゃあ悪いけど、写真片付けてくれる?夕飯の用意するから。あ、あと、この間のお礼に後で桔平さんのところにおかず持って行ってくれない?」

「別にいいけど…」



 平静を装ったつもりだったけど、心の中はとても平常心ではいられなかった。

 来週まで会えないと思っていた桔平にまた会う口実ができたのだ。

 今度会う時は気まずい雰囲気になるだろうと思っていたくせに、会うと決まればそんな恐れはあっという間にどこかへ吹き飛んでしまった。



 咲那は夕食を終えると、タッパーいっぱいに詰め込まれたおかずを持って桔平の家へと向かった。

 さっきまりあがLINEで連絡を入れていたので、女性とバッタリということもないだろう。

 咲那は桔平の家の前に自転車を停めた。



 もう仕事を終えていると思っていたけれど、アトリエにはまだ明りが灯っていた。

 咲那はアトリエの扉をそっと開けた。

 桔平は咲那に気付いていない様子でキャンバスに向かっていた。



 咲那は声を掛けていいものか迷う。

 芸術家の制作途中に邪魔をしては作品の出来に影響してしまうかもしれないなどと、真剣に考えてしまう。

 でも、持ってきたおかずは渡したいし…。

 何よりせっかく来たのだから一言でもいいから桔平の声を聞きたい。



 いつもはふざけてばかりの桔平だけど、絵を描いている時の真剣な眼差しを咲那は知っている。

 桔平のそういう部分に気付いたのはやはりモデルをやることになったということが大きい。



 モデルをしている時には必ずしも桔平の方を向いているわけではない。

 しかしポーズによっては真正面を向いて桔平のことをまともに見る状態になることももちろんある。

 そんな時、咲那は画家猪俣桔平の真剣な表情を見せつけられることになる。

 しかも自分は全裸や半裸の状態なのだ。

 桔平の鋭い眼光で見つめられるうちに、おかしな気分になるのはごく自然な流れではないだろうか。

 もう惚れるなという方が無理だろうと咲那は思う。



 だけど、モデルの誰もかれもが桔平のことを好きになる訳じゃないとしたら、やっぱり自分はそういうことを抜きにしても桔平という男が好きなのかもしれないのだけれど…。

 好きになった理由はいくら探しても分かるようで、実のところ分からないままだ。
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