上 下
18 / 86

ケダモノのように愛して.18

しおりを挟む
「あ~うまかった」

 桔平は今度は床に寝っ転がった。

「桔平、まだ仕事するんでしょ」

 咲那はまだ食べきっていない天津飯をれんげですくいながら尋ねた。



「う~んどうしよっかな。腹いっぱいになったら眠たくなってきた。ひと眠りしてからにするかな」

 桔平はあくびをすると本格的に寝る体勢に入った。

「ちょっと、またうたた寝?風邪ひくからダメだよ」



 咲那がとめてもどうせ聞く耳などないことは分かっている。

 ただそれでも咲那は桔平の世話を焼けるだけで嬉しかった。

 それは桔平の近い場所に自分がいることを実感できる行為だから…。

 案の定、桔平は小さないびきをかきながら眠りはじめた。



 仕方ないな…。

 咲那は寝室からタオルケットを引っ張り出してくると桔平の体に掛けた。

 不精髭を生やした桔平の無防備な寝顔を見ていると無性にキスがしたくなる。



 眠っているから分からないだろう。

 来週まで会えないんだし。

 キスくらいしないと持たない…。

 咲那は心の中で勝手な言い訳を作った。



 眠っている桔平の顔に自分の顔を近づけた。

 いびきは治まり、すでに気持ちよさそうな寝息を立てている。

 咲那は桔平の唇に自分の唇をそっと重ねた。

 と、その途端眠っているはずの桔平の目が開いた。



「発情期か」

「ち、ちがっ…」

 否定してももう遅い。

 自分からキスしておいて何の言い訳ができるだろう。



「だって来週まで会えないから…」

 ダメだ、こんなこと言ったら。

 桔平はこういう束縛するような女は大嫌いなのだから…。



「だからセックスしたいってか?」

「ち、違うよ。キスしたかっただけ」

「どうだか」

 心の中を見透かされているようで咲那は二の句が継げない。



「してやってもいいぜ」

「い、いいよ。眠いんでしょ、おやすみ」

 咲那は恥ずかしくて恥ずかしくて、もう逃げることしか頭にない。



「待てよ」

 桔平は咲那の腕をつかんだ。

 しかし咲那は桔平の手を全力で振り払うと玄関を飛び出した。



 きっと面倒くさい女だと思われた…。

 嫌われちゃう…。

 咲那の頭の中はそんな思いでいっぱいだった。



「何だあいつは?訳わっかんねえな~」

 桔平はすっかり目が覚めてしまったけれど、もう一度床に寝っ転がるとタオルケットにくるまって目を閉じた。



 家についても当然誰もいない…。

 玄関の明かりをつけ、部屋の明かりをつけてもひとりぼっちであることに変わりない。

 あんなことしなければ今頃はまだ桔平のそばにいられたのに…。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

処理中です...