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ケダモノのように愛して.01

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「咲那、今日はもういいぞ」

「はぁ~い」



 おじの猪俣桔平(いのまた きっぺい)は売れっ子の画家だ。

 桔平の姪である咲那(さな)は時々こうしてモデルのバイトをしている。



「また来週来れるか?」

「うん、たぶん」

「じゃあ日にち決まったら連絡するわ」

「うん」

 咲那は、中学から始めた裸婦モデルを高二になった今でも続けている。



「桔平~」

「佳乃、早かったな」

 今日もまた桔平の工房兼自宅には女性がやってきた。



 桔平は画家と紹介されなければガテン系の兄ちゃんとしか思えない様な身体をしている(服装もそれに近い)。

 しかし、それはレスラーのそれではなく、いわゆる細マッチョタイプだ。

 そしてその上に顔面偏差値も高いときたら、女性にモテないはずがない。



 そんな桔平の作品のほとんどは裸婦だ。

 本来ならお金を払ってモデルをしてもらうところを自分の容姿と口のうまさを駆使してタダ同然でやってもらっている。



 もちろん咲那はちゃんとお小遣い程度にはお金をもらっているけれど、毎日の様に入れ替わる女性たちとの関係がどうなっているのかは分からない。

 咲那は桔平にほのかな恋心を抱きながらも、綺麗な大人の女性が相手では自分に勝ち目などないと、何度も諦めようとした。

 しかし、桔平の前で素肌を晒し、彼の獣の様な眼光で見つめられると、咲那の心の中の小さな火種がくすぶり始める。



 自分のことだけ見て欲しい…。



 だけど桔平のモデルをしている女性は、みな綺麗で魅力的だ。

 そんな女性の裸を舐め回すように見つめることで、桔平の作品は出来上がるのだ。

 いくら仕方の無いことだと思っても、その光景を想像すると胸を掻きむしられる。



 それでも桔平のことは諦めることができない。

 そればかりか、会うたびに好きになっていっている様な気がする。



 自分なんか恋愛の対象じゃない。

 だけど自分のことを好きになって欲しい。

 そんなことの繰り返しだ。



「ただいまー」

「おかえり。今日は早かったのね」

 家に帰ると母のまりあがダイニングテーブルで雑誌を読んでいた。

「うん、もうほとんど完成みたいだから」



 咲那の家庭はちょっと複雑だ。

 複雑と言っても問題のある家庭という訳ではない。



 父の洋平は写真家として日本のみならず世界中を飛び回っている。

 そして母のまりあはファッションデザイナー兼ブティックのオーナーだ。



 両親は美大で知り合い、その後結婚した。

 父は結婚当初から不在がちで、一年のうち家で過ごすのは数ヶ月しかない。



 桔平は父洋平の弟なのだが、いくらおじと言っても普通なら娘を裸のモデルとして差し出すのには抵抗があるだろう。

 しかし、咲那の両親はどちらも芸術肌でその辺の解釈が一般人のそれとはかなりかけ離れている。

 咲那が中学に入ったころ、桔平がモデルをしないかと誘ってきたときも、一切反対しなかった。

 むしろこれで娘も芸術一家の仲間入りだとばかりに歓迎したくらいだ。

 なにしろ、咲那は世間からかなりズレた感覚の両親とは違いごく平凡な女の子で、両親からすればなにかに目覚めて欲しいと心の中ではひそかに思っていたふしがある。
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