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御曹司のやんごとなき恋愛事情.91

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 翌日の夜、伊波は元同期である森島美月とバーのカウンターで飲んでいた。

「まったく・・・、お人好しが過ぎるよ」

「いいんだよ。優子は高根の花だったんだ。最初から僕とは釣り合わなかったんだから」

「ふうん・・・、あんまり物分かりがよすぎるのもどうかと思うけど・・・」



 美月は伊波が海外に出向中に寿退社したが、今では伊波と同じくバツイチだ。

「物分かりなんかよくないさ。今だってまだ好きなんだから」

「はぁ~、聞いてるこっちの方が胸が痛い・・・」

「そう?僕はこんなにも好きな女に出会えて、幸せだけど」

「・・・だけど、一生優子のこと想って死んでくの?」



 美月は三十歳で破局してからの五年間、次の恋愛を求めて婚活に勤しんできたが、いまだに成果は出ていない。

「一生って・・・、そんな先のことは分からないけど・・・」

 離婚と同時にすっぱり気持ちを切り替えて、次への行動を起こした美月にとって、いつまでも以前の相手を想い続けるなんて、自分にはとても真似できないと思った。



「ねえ、じゃあさ、私たち定年になってもお互いにフリーだったら一緒に暮らさない?」

「はあ?なんだそれ」

「だって、一人ぼっちで老後を過ごすなんて絶対に嫌なんだもん」

「・・・先のこと過ぎて分からないけど、それもいいかもな」

「ほんと?約束だよ!」

「バカ、それまでに死ぬかもしれないのに、約束なんてできるかよ」

「ひっどい、何その夢のない返事。優子のことは夢見る少女みたいに好きなくせに・・・」



 美月は貪欲で直情型過ぎるのが玉に瑕だが、何しろパワーがある。

 伊波はこのところ落ち込んでいた気持ちが少し晴れた気がした。



 引越し業者がやってきて、優子の荷物はきわめて手際よくものの一時間で運び出された。

 その後引越し先のマンションに運び込まれた家具や家電を設置してもらい、引越し自体は午前中にほとんど終了した。

 あとは、細々したものを片付けて、足りないものを買って来れば普通に生活できる。

 便利な世の中だ。

 便利すぎるせいで、くっつくのも別れるのも昔にくらべたら容易いのかもしれない。



 久しぶりにスーパーに買い物に行き、自分の分だけの夕食を作って食べた。

 明日は俊介が日本に帰ってくる。

 栗本はホテルを手配したと言っていたが、優子が引越しをしたことはもうすでに俊介にも伝えたらしい。

 そうなると、ホテルではなく優子の部屋に泊まることになるかもしれない。



 勝手な妄想が優子の頭を占領していく。

 どんな顔をして俊介に会えばいいのだろう・・・。

 今までに自分はいったいどんな顔をして俊介に会っていたのだろう。

 伊波と別れた今、優子は直接言葉で伝えていなくても、俊介のことが好きだと言っているのと同じなのだ。

 そんな自分の身の処し方が分からない。

 自分の気持ちを知られるのが恥ずかしい。

 俊介のことを好きな自分が・・・。
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