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御曹司のやんごとなき恋愛事情.87
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『・・・副社長はどうしたいと?』
『今は佐竹さんに会う事しか頭にないようですので、具体的なことは私が手配することになると思います。その前に、一応佐竹さんのご了承を取っておきたいというのが、私が今日お電話した目的です』
今度は単刀直入にその目的を明示してきた。
『その・・・、何とか副社長を説得するのは・・・』
『・・・できる限りお話させていただきましたが、やはり無理でした・・・』
栗本がそう言うのなら、万策尽きたのだろう。
『分かりました。詳しいことが決まったらまた連絡ください』
『はい・・・、私の力不足で、ご迷惑をおかけして申し訳ありません』
『栗本さんが悪いんじゃないわ。誰の手にも負えないのよ。あの人が一度言い出したら・・・』
『佐竹さんなら分かってくださると思ってました』
まったく、栗本は要領がいい。
『では、詳細が決まり次第ご連絡させていただきます』
そう言って電話は切れた。
優子はやっと俊介のいない日々に慣れたと思った矢先にこのタイミングで帰ってきてしまうという俊介の予想外の行動に戸惑いを隠せない。
だが、そんな俊介の感情剥き出しの行動こそが、優子が求めていたものだということをまざまざと思い知らされる。
離れたくなかった・・・。
本当に無茶苦茶で、困らされてばかりなのに、それくらい俊介が自分を求めているという事実が、優子の心を満たす。
フロアに戻り残りの仕事を片付ける間も、頭の中は常に俊介の顔がチラついて仕方がなかった。
会社から帰る道すがら、優子はこれからのことを考えていた。
俊介の望みを受け入れ、これからも彼との関係を続けるのなら、もうこれ以上伊波を巻きこむわけにはいかないということを・・・。
そして、俊介とそういう関係に戻るということは、遅かれ早かれ桑原商事を辞める覚悟をしなければならないということだ。
優子の本当の願いは社員として一生俊介のそばで、彼を支えていくということだった。
しかし、身体の関係を続けるなら、仕事はきっぱりと辞めるつもりだ。
どちらもという選択肢は優子にはなかった。
桑原商事に入って十年以上、優子はこの会社で働くことにずっとやりがいを感じていた。
だから、会社を辞めることは本意ではない。
だが、優子は俊介を選んだ。
この自分が仕事よりも男を、しかも正式な恋人にも妻にもなれない関係を選ぶことになるなんて・・・。
優子は人は追い込まれないと自分の本心さえも分からないものなんだな・・・、などと、やけに冷静に自分の気持ちを分析していた。
「ただいま・・・」
優子はマンションの玄関を開けるのを今日ほど苦痛に感じたことはなかった。
「おかえり~、今日は遅かったね」
伊波はソファに腰掛けてくつろいだ様子でテレビを観ていた。
「・・・うん、ちょっと色々あって・・・」
優子はあえて意味深な言葉を使った。
「何かトラブルでもあったの?」
伊波はテレビから視線を外し、優子の方に向き直った。
「・・・うん、まあね。あ~、お腹すいちゃった」
優子は冷蔵庫を開けて伊波が作ってくれた夕食を取り出すとレンジで温めた。
「いつもごめんね。最近はほとんど夕食作ってもらってる」
「そんなの別に構わないよ。どうせ一人暮らしの時だって作ってたんだから」
『今は佐竹さんに会う事しか頭にないようですので、具体的なことは私が手配することになると思います。その前に、一応佐竹さんのご了承を取っておきたいというのが、私が今日お電話した目的です』
今度は単刀直入にその目的を明示してきた。
『その・・・、何とか副社長を説得するのは・・・』
『・・・できる限りお話させていただきましたが、やはり無理でした・・・』
栗本がそう言うのなら、万策尽きたのだろう。
『分かりました。詳しいことが決まったらまた連絡ください』
『はい・・・、私の力不足で、ご迷惑をおかけして申し訳ありません』
『栗本さんが悪いんじゃないわ。誰の手にも負えないのよ。あの人が一度言い出したら・・・』
『佐竹さんなら分かってくださると思ってました』
まったく、栗本は要領がいい。
『では、詳細が決まり次第ご連絡させていただきます』
そう言って電話は切れた。
優子はやっと俊介のいない日々に慣れたと思った矢先にこのタイミングで帰ってきてしまうという俊介の予想外の行動に戸惑いを隠せない。
だが、そんな俊介の感情剥き出しの行動こそが、優子が求めていたものだということをまざまざと思い知らされる。
離れたくなかった・・・。
本当に無茶苦茶で、困らされてばかりなのに、それくらい俊介が自分を求めているという事実が、優子の心を満たす。
フロアに戻り残りの仕事を片付ける間も、頭の中は常に俊介の顔がチラついて仕方がなかった。
会社から帰る道すがら、優子はこれからのことを考えていた。
俊介の望みを受け入れ、これからも彼との関係を続けるのなら、もうこれ以上伊波を巻きこむわけにはいかないということを・・・。
そして、俊介とそういう関係に戻るということは、遅かれ早かれ桑原商事を辞める覚悟をしなければならないということだ。
優子の本当の願いは社員として一生俊介のそばで、彼を支えていくということだった。
しかし、身体の関係を続けるなら、仕事はきっぱりと辞めるつもりだ。
どちらもという選択肢は優子にはなかった。
桑原商事に入って十年以上、優子はこの会社で働くことにずっとやりがいを感じていた。
だから、会社を辞めることは本意ではない。
だが、優子は俊介を選んだ。
この自分が仕事よりも男を、しかも正式な恋人にも妻にもなれない関係を選ぶことになるなんて・・・。
優子は人は追い込まれないと自分の本心さえも分からないものなんだな・・・、などと、やけに冷静に自分の気持ちを分析していた。
「ただいま・・・」
優子はマンションの玄関を開けるのを今日ほど苦痛に感じたことはなかった。
「おかえり~、今日は遅かったね」
伊波はソファに腰掛けてくつろいだ様子でテレビを観ていた。
「・・・うん、ちょっと色々あって・・・」
優子はあえて意味深な言葉を使った。
「何かトラブルでもあったの?」
伊波はテレビから視線を外し、優子の方に向き直った。
「・・・うん、まあね。あ~、お腹すいちゃった」
優子は冷蔵庫を開けて伊波が作ってくれた夕食を取り出すとレンジで温めた。
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