上 下
71 / 106

御曹司のやんごとなき恋愛事情.71

しおりを挟む
「海外視察もあっという間だったな・・・」

「そうでございますね」

 一方の俊介もアメリカから帰国してからというもの、あまり仕事に身が入らない。

 これからの自分の未来が分かりすぎていて、まったく面白味がないからだ。

 もちろん一番面白くないのは、優子が伊波と一緒に暮らしていることだけれど・・・。



「なあ、栗本君・・・、俺、社長に向いてると思う?」

「どうでしょうか・・・。そういうものは、段々とそれらしくなっていくのではないでしょうか」

 賢い栗本の言うことはもっともだと思う。



 俊介は、このままだと、自分は社長になり、優子は専務あたりに落ち着き、それこそ実生活の方も伊波と落ち着くのだと思うと、本当に自分の人生を生きている気がしないのだった。

 親父には悪いが、優子が自分の妻というのが無理なら妾でも何でもいいから、とにかく自分のものにしたいのだ。

 そうでなければ、社長になろうが、遺産ががっぽり入ろうが、そんなことは何の意味もなかった。

 いくら人が羨もうとそんなことは関係ない。

 自分の人生には、それくらい優子が大きな存在なのだから。



「社長はさ、やれって言われればやるよ?だけど、一度きりの人生なのにさ、後悔したくないんだよね」

「後悔ですか・・・?」

 全ての事情を知っている栗本は、そんな風に言われては、『いい大人なんですから』などという簡単な言葉で片づけるわけにはいかなくなる。

 俊介がどれほど優子のことを愛しているか、そばにいる栗本が一番よく分かっているのだから。



「俺さ・・・、社長になる前に一度優子とちゃんと話がしたいと思ってるんだ。だけど、あいつ社内では鬼みたいな顔して俺のこと寄せ付けないし、俺からの電話には絶対でないからさ。栗本君からうまいこと言って、食事の席を設けてもらえないかな」

「そうですね・・・、やってみましょう・・・」



 栗本はいったいどうやって優子のことを口説いたのか分からないが、それから一週間もしないうちに、優子と夕食をする約束をとりつけることができた。



「優子はいつも忙しそうだな」

 会社では鬼の様な形相(これは俊介の前だけの話なのだが)でいつも足早に目の前を通り過ぎる姿しか見たことがない。

「副社長はいつも余裕がおありで羨ましい限りです」

「嫌味かよ・・・」

「まあいい・・・。飯食いながら話そうぜ」

 俊介はオーダーを済ませると、本題に入った。



「俺さ・・・、別に親父の跡をつぐのとか、嫌な訳じゃないんだ。社長っていう職業も向いてないわけじゃないと思う。だけどさ、どうしてもお前のこと考えちゃんだよ」

「副社長・・・」

「なんか、いよいよだなって思ったら、社長になるってことより、優子が俺のものにならないって事の方が俺にはショックでさ・・・。今さらかよって感じなんだけど・・・でも、本当なんだから仕方ないよな」

「そんなこと・・・、今さらおっしゃるなんてどういうおつもりですか?もう何もかも決まっているっていうのに・・・。そんな心構えで社長業が務まると・・・」

「あ~、やっぱいい。それ以上言わなくて。だけどさ、俺、優子が俺のものにならないなら、社長になっても生きてる意味ないなって最近思うんだ」

 思いがけない真剣な告白に、優子は何と答えればいいのか分からない。



「副社長らしくありませんね・・・」

「だろ?俺、どうしちゃったんだろうな。らしくないよな~」

 自分からそんなことを言うなんて、本当に俊介らしくない。

 しかし、そんなことを聞かされた優子の胸は痛いほどに締め付けられる。

 俊介が自分のことをそんなにも思ってくれている。

 それは女としてこの上ない喜びだった。

 だけど、そのせいで社長になることが無意味に思えてしまうとしたら自分はいったいどうすればいいのだろう・・・。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

社長の奴隷

星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

秘密 〜官能短編集〜

槙璃人
恋愛
不定期に更新していく官能小説です。 まだまだ下手なので優しい目で見てくれればうれしいです。 小さなことでもいいので感想くれたら喜びます。 こここうしたらいいんじゃない?などもお願いします。

×一夜の過ち→◎毎晩大正解!

名乃坂
恋愛
一夜の過ちを犯した相手が不幸にもたまたまヤンデレストーカー男だったヒロインのお話です。

今、夫と私の浮気相手の二人に侵されている

ヘロディア
恋愛
浮気がバレた主人公。 夫の提案で、主人公、夫、浮気相手の三人で面会することとなる。 そこで主人公は男同士の自分の取り合いを目の当たりにし、最後に男たちが選んだのは、先に主人公を絶頂に導いたものの勝ち、という道だった。 主人公は絶望的な状況で喘ぎ始め…

処理中です...