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君に溺れてしまうのは僕だから.98
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「兄さま、何が気に入らないんですか?この間まではこのまましばらくお付き合いするって言ってらしたのに…」
「そんなことを一々お前に言う義務はない」
「それはそうですけど、あんなにいいお嬢さん中々見つかりませんよ」
「別にかまわない」
「ようやく兄さまもご自分の将来のことを真剣に考えてくださるようになったと思ったのに…、がっかりです」
美紀は深いため息をついた。
えっ…、おじさまが愛美さんとうまくいってるって言ってたのは嘘だったの?
リビングの外の廊下で立ち聞きをしていた伊織は、入るなら今しかないと思って扉を開けた。
「ただいま帰りました…。美紀おばさま、こんにちは」
「ああ、伊織、おかえりなさい」
美紀はすっかり憔悴しきった様子で言った。
きっとすでに愛美の方に出向いて嫌な役割を果たしてきたのだろう。
「いったいどうしたんですか?」
ここまで聞いた内容で大体のことは分かるけれど、やはり美紀の口から聞きたい。
「兄さまったら、勝手にこの間のお見合い断ってたの。私に内緒でよ。先方から連絡があって、慌てて飛んでったんだから」
美紀は自分がいかに大変だったかを必死でアピールしてくる。
だが、伊織が確認したかったのは武彦が見合いを断っのが事実かどうかということだ。
「おじさま…、本当にお見合い断ったんですか」
「そうよ。それも、私には言わないで直接先方に言うんだもの。私の面目丸つぶれよ…」
美紀は自分の面子のことしか頭にないようだ。
「もういいだろう、終わったことだ」
武彦はお茶を一口すすった。
「そうですね、もう終わりました…。私は疲れたので今日のところは帰ります」
美紀はタクシーに乗って帰っていった。
玄関まで見送った伊織がリビングに戻ると、武彦がソファに腰掛けていた。
「とんだ邪魔が入ったな。伊織、散歩に行こうか」
「はい…」
騒がしい美紀が来たことで機嫌が悪くなっていないかが心配だったけれど、武彦はいたって普通だった。
普通にカッコよかった。
そんなわけで、武彦にとってはただの散歩でしかなくても、伊織にとってはデートと変わらないドキドキで胸がいっぱいだった。
しかも、詳しいことはわからなけれど、今回の愛美さんとの話は無くなったようだ。
ただ、美紀の性格を考えると、これであきらめるとは思えない。
夕方になっても気温はまだ三十度近くあって、日差しがないだけ幾分暑さが和らいだ程度だった。
村井家のある住宅街のそばには川が流れており、その川に沿って遊歩道が作られている。
ところどころに林がありその木陰だけが少し暑さをしのげるといったところだ。
「暑いな」
「はい…」
暑いことも、そこが何の変哲もない遊歩道であっても、武彦と一緒に堂々と外を歩けることが伊織には嬉しかった。
それでも何となくすぐ隣を歩くのは気が引けて、伊織は武彦の少し後ろを歩いていた。
「そんなことを一々お前に言う義務はない」
「それはそうですけど、あんなにいいお嬢さん中々見つかりませんよ」
「別にかまわない」
「ようやく兄さまもご自分の将来のことを真剣に考えてくださるようになったと思ったのに…、がっかりです」
美紀は深いため息をついた。
えっ…、おじさまが愛美さんとうまくいってるって言ってたのは嘘だったの?
リビングの外の廊下で立ち聞きをしていた伊織は、入るなら今しかないと思って扉を開けた。
「ただいま帰りました…。美紀おばさま、こんにちは」
「ああ、伊織、おかえりなさい」
美紀はすっかり憔悴しきった様子で言った。
きっとすでに愛美の方に出向いて嫌な役割を果たしてきたのだろう。
「いったいどうしたんですか?」
ここまで聞いた内容で大体のことは分かるけれど、やはり美紀の口から聞きたい。
「兄さまったら、勝手にこの間のお見合い断ってたの。私に内緒でよ。先方から連絡があって、慌てて飛んでったんだから」
美紀は自分がいかに大変だったかを必死でアピールしてくる。
だが、伊織が確認したかったのは武彦が見合いを断っのが事実かどうかということだ。
「おじさま…、本当にお見合い断ったんですか」
「そうよ。それも、私には言わないで直接先方に言うんだもの。私の面目丸つぶれよ…」
美紀は自分の面子のことしか頭にないようだ。
「もういいだろう、終わったことだ」
武彦はお茶を一口すすった。
「そうですね、もう終わりました…。私は疲れたので今日のところは帰ります」
美紀はタクシーに乗って帰っていった。
玄関まで見送った伊織がリビングに戻ると、武彦がソファに腰掛けていた。
「とんだ邪魔が入ったな。伊織、散歩に行こうか」
「はい…」
騒がしい美紀が来たことで機嫌が悪くなっていないかが心配だったけれど、武彦はいたって普通だった。
普通にカッコよかった。
そんなわけで、武彦にとってはただの散歩でしかなくても、伊織にとってはデートと変わらないドキドキで胸がいっぱいだった。
しかも、詳しいことはわからなけれど、今回の愛美さんとの話は無くなったようだ。
ただ、美紀の性格を考えると、これであきらめるとは思えない。
夕方になっても気温はまだ三十度近くあって、日差しがないだけ幾分暑さが和らいだ程度だった。
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ところどころに林がありその木陰だけが少し暑さをしのげるといったところだ。
「暑いな」
「はい…」
暑いことも、そこが何の変哲もない遊歩道であっても、武彦と一緒に堂々と外を歩けることが伊織には嬉しかった。
それでも何となくすぐ隣を歩くのは気が引けて、伊織は武彦の少し後ろを歩いていた。
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