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君に溺れてしまうのは僕だから.85

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「はい」

 おじさま…?

「伊織、部屋に来なさい」

 まさかそんなことは…、ないはず…。

 そう思いながらも、期待してしまう気持ちは抑えきれない。

 伊織は部屋を出てさっきまでいた武彦の部屋へと再び入った。



「伊織…」

 武彦は伊織のことを抱きしめた。

 え、えっ…。

 それは伊織が望んでいたことで…。

 だけど、そんなことは起こるはずがないと思っていたから…。

 武彦は伊織にくちづけをすると、そのまま奥の寝室へ移動した。

 そして武彦はさっきまでのことなどまるでなかったかのように伊織を抱いた。

 いつもしていたように濃厚な愛撫が与えられた。

 伊織の身体は素直に反応し、武彦を受け入れた。

 こんな抱かれ方は人に言わせれば性欲のはけ口でしかないのかもしれない。

 それでも武彦に愛撫を与えられ、体の中に受け入れてしまえば、色々な疑問や説明のつかない気持ちなどはすぐに情欲に凌駕された。

 それほどに伊織の武彦に対する気持ちは絶対的なものだった。



 理由などないのだ。

 ただ好き。

 それだけなのだ。

 だから、抱かれたら幸せ。

 伊織の気持ちも身体も武彦のものにして欲しいのだ。

 武彦が絶頂を迎え伊織の身体を優しく抱きしめてくれた。

 キスを交わし武彦は伊織の中から出ていった。

 そうやって伊織と武彦の夜は再開された。
 


 次の日の昼、伊織は坂口とファミレスにいた。

 坂口は昨晩の伊織と武彦のやり取りなど知る由もなく、久々に伊織に会えた喜びで舞い上がっている。

「ね、夏フェス行けそう?」

 この間のことで叱られたばかりであることを知っているのに、誘ってくるのは坂口も伊織のことが好きなのだから仕方がないことは分かっている。

 それでも、こちらの事情というものを少しだけでも気にかけて話してもらいたいなどと思ってしまうのは、やはり武彦と愛美のことがすっきりしていないせいなのだろう。

「うん、大丈夫」

「ほんと?よかった~!絶対楽しいからさ!保証するよ」

「そうなんだ」

 坂口がそう言うのなら、きっとそうなのだろう。



 坂口は普通の家庭で育った普通の男の子で、その中でも恵まれた環境ですくすくと育った方だと今の伊織なら理解できる。

 そんな坂口だから、色々と興味があることにはどんどん挑戦してきて、人生の楽しみ方を知っているのだと思う。

「村井の持ち物は着替えくらいでいいよ。あとは俺に任せといて」

「うん、お任せします」

「なんだよ素っ気ない返事だな。やっぱあんまり乗り気じゃない?」

「そういう訳じゃなけど…、私も色々あるの。いいでしょ、ちゃんと行くんだから」

「うへぇ、なんか怖いな。また何か悩んでるんだったら聞いてあげるよ」

「平気」

「平気ってことは、やっぱ何か悩んでるんだ」

「いいから、ねえ、フェスのスケジュールとか教えてよ」

「そ、そうだよな」
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