君に溺れてしまうのは僕だから

星野しずく

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君に溺れてしまうのは僕だから.50

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 坂口は歩いて10分ほどの所にある海水浴場へ行くと、海の家で焼きそばやフランクフルトを買った。

 本当は伊織と来るはずだったこの場所も、今日は二人で来ることはできないだろう。

「あ~あ、俺の自制心どっかへ行っちゃったな」

 坂口は後悔を口にしながらも、伊織と結ばれた喜びの方が勝っていて、本気で反省する気にはどうしてもなれなかった。



 別荘に戻ると部屋の中はシンと静まり返っていた。

 ベッドルームを覗くと伊織がスヤスヤと眠っていた。

「だいぶ無理させちゃったかな」

 坂口は買ってきたものをダイニングテーブルに並べると、一人で遅い昼食をとった。

 小さな寝息をたてて眠る伊織の横に寝転んで、坂口は静かに彼女のことを眺めていた。

 しあわせだな。

 こんなことがいつまでも続くなんて思ってない。

 でも、たとえ今日だけでも十分だ。

 いや、でも本当はこんな日々がずっと続いたらいいのにと心のどこかでは思っている。



「んっ…」

 伊織は寝返りを打つとゆっくりと目を開けた。

「目、覚めた?」

「坂口君…」

 伊織はすぐ横にいる坂口に少々驚く。

「昼飯買ってきたから、食べようぜ。って言っても村井気持ちよさそうに寝てたから、俺先に食べちゃったけど」

「う、うん」

「どうした、腹減ってない?」

「どうだろう、よくわかんない…」

「とりあえず起きてみよっか」

 起き上がると身体にかかっていたタオルケットがずり落ちて、裸のままの姿が露わになる。

「あっ…」

 伊織はあわててタオルケットを引っ張り上げた。

「さっきまでお互い裸だったのに、あらてめて見ると超エロいな」

「坂口君ひどい!」

「ゴメンゴメン、つい本音が」

「あっちで脱いだ服持ってきて!」

 伊織はプンプン起こりながら坂口に指示した。

「は~い」

 坂口は能天気に答えると素直に服を持ってきた。



「ちょっと、見ないでよ」

「何で?どうせさっきまで裸で隅から隅まで見せてもらったのに、今さら着替えるのくらいいいでしょ」

「それとこれとは気分的に違うの」

「へえ、そんなもんかな」

 坂口は伊織がそう言うのならと、部屋から出て行ってくれた。

 自分でも何で恥ずかしいのか分からない。

 坂口の言う通り、さっきまでのほうがどれだけ恥ずかしいことをしてたか分からないというのに。

 伊織は服を着るとまだおぼつかない足どりで坂口のところまで歩いた。



「もう平気?」

「まあ、怪我したわけじゃないし…」

 伊織の気持ちは複雑なままだ。

「これ、買ってきたやつ。食べられそう?」

 普段だったら、大好きなものばかりだ。

 しかし今はあまり食べる気がしない。
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