34 / 107
君に溺れてしまうのは僕だから.34
しおりを挟む
家の中は相変わらずシンと静まりかえっている。
キッチンだけが唯一音を立てている。
伊織は荷物を自室に運び込むとキッチンへ向かった。
「ただいま」
「おかえりなさい。あ、今日は旦那様は編集者の方とお食事だそうで、夕食は食べていらっしゃるそうですから、伊織さんのお好きなスパゲッティにしましたよ」
「わあ、嬉しい」
武彦がいる時は、ほとんど純和風のメニューだ。
こうしてたまに仕事で伊織だけの時は、田所さんが気をきかせて洋風のメニューを作ってくれる。
「おじさま遅くなるのかな」
「さあ、仕事の打ち合わせのついでに食事をしてくるっておっしゃってましたから、あまり早くは帰っていらっしゃらないかもしれませんね」
「そう」
「なにかご用でもあったんですか」
「ええ、実は明日から友達の別荘に泊まりに行くことになって。それも今日決めたもんだから、おじさまにはまだ言ってないの」
「そうですか。でも、伊織さんももう高校生なんですから、そのくらい許してくださいますよ」
「そうだといいんだけど」
「だってせっかくの夏休みなんですし。どうせ旦那様はお仕事で忙しくて伊織さんをどこかに遊びに連れて行くこともできないでしょうからね」
村井家のことは誰よりも知り尽くしている田所さんだからこそ言える言葉だ。
「おじさまはそういうお仕事なんだから、それは仕方ないわ」
武彦と普通のカップルの様にどこかに出かけられたらと思わない訳ではない。
しかし、もし出かけるとしてもあくまで父と娘としてなのであれば、それは魅力的な事ではなかった。
それならば家のベッドで抱き合っている方が余程ましだ。
武彦の帰りを待って泊まりに行くことを伝えたかったが、明日は朝一で出発する予定だ。
伊織は大きめのバッグに荷物を詰め込むと、ベッドに潜り込んだ。
翌朝6時にタイマーの音で目を覚ました。
着替えを済ましキッチンに下りていくと田所さんはまだ朝食づくりの真っ最中だった。
「おはようございます」
伊織は食器棚から食器を取り出しテーブルに並べた。
「おはようございます」
田所さんは手を動かしながら答える。
「おじさまはまだ起きていらっしゃらない?」
武彦は毎朝だいたい7時に朝食をとるのだ。
「それが、今朝は朝食はいらないからと言われて、もう出かけてしまわれたんです。なんでも、昨日の打ち合わせが終わらなかったらしくて、夕べもかなり遅かったらしいですよ。着替えに戻った様なものだっておっしゃってました」
「え、そうなの?どうしよう、私、泊まりに行くこと言ってない」
「私からお伝えしておきますから大丈夫ですよ。念のため宿泊先だけメモしといてください」
「わかりました」
困ったな…、宿泊先は坂口君のおじいさんの別荘なのに…、どうしよう。
でももう時間が無い。
伊織は仕方なく坂口に教えられた別荘の住所と無断で泊まりに行くことを詫びる内容の書置きを田所さんに渡した。
キッチンだけが唯一音を立てている。
伊織は荷物を自室に運び込むとキッチンへ向かった。
「ただいま」
「おかえりなさい。あ、今日は旦那様は編集者の方とお食事だそうで、夕食は食べていらっしゃるそうですから、伊織さんのお好きなスパゲッティにしましたよ」
「わあ、嬉しい」
武彦がいる時は、ほとんど純和風のメニューだ。
こうしてたまに仕事で伊織だけの時は、田所さんが気をきかせて洋風のメニューを作ってくれる。
「おじさま遅くなるのかな」
「さあ、仕事の打ち合わせのついでに食事をしてくるっておっしゃってましたから、あまり早くは帰っていらっしゃらないかもしれませんね」
「そう」
「なにかご用でもあったんですか」
「ええ、実は明日から友達の別荘に泊まりに行くことになって。それも今日決めたもんだから、おじさまにはまだ言ってないの」
「そうですか。でも、伊織さんももう高校生なんですから、そのくらい許してくださいますよ」
「そうだといいんだけど」
「だってせっかくの夏休みなんですし。どうせ旦那様はお仕事で忙しくて伊織さんをどこかに遊びに連れて行くこともできないでしょうからね」
村井家のことは誰よりも知り尽くしている田所さんだからこそ言える言葉だ。
「おじさまはそういうお仕事なんだから、それは仕方ないわ」
武彦と普通のカップルの様にどこかに出かけられたらと思わない訳ではない。
しかし、もし出かけるとしてもあくまで父と娘としてなのであれば、それは魅力的な事ではなかった。
それならば家のベッドで抱き合っている方が余程ましだ。
武彦の帰りを待って泊まりに行くことを伝えたかったが、明日は朝一で出発する予定だ。
伊織は大きめのバッグに荷物を詰め込むと、ベッドに潜り込んだ。
翌朝6時にタイマーの音で目を覚ました。
着替えを済ましキッチンに下りていくと田所さんはまだ朝食づくりの真っ最中だった。
「おはようございます」
伊織は食器棚から食器を取り出しテーブルに並べた。
「おはようございます」
田所さんは手を動かしながら答える。
「おじさまはまだ起きていらっしゃらない?」
武彦は毎朝だいたい7時に朝食をとるのだ。
「それが、今朝は朝食はいらないからと言われて、もう出かけてしまわれたんです。なんでも、昨日の打ち合わせが終わらなかったらしくて、夕べもかなり遅かったらしいですよ。着替えに戻った様なものだっておっしゃってました」
「え、そうなの?どうしよう、私、泊まりに行くこと言ってない」
「私からお伝えしておきますから大丈夫ですよ。念のため宿泊先だけメモしといてください」
「わかりました」
困ったな…、宿泊先は坂口君のおじいさんの別荘なのに…、どうしよう。
でももう時間が無い。
伊織は仕方なく坂口に教えられた別荘の住所と無断で泊まりに行くことを詫びる内容の書置きを田所さんに渡した。
0
お気に入りに追加
207
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる