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君に溺れてしまうのは僕だから.25
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「何話してたの?」
伊織は武彦が坂口に話した内容など知るはずもなく、ごく自然に尋ねた。
「まだ挨拶をしただけだ。坂口君からはこれから色々と聞かせてもらうよ」
「そうなの?何だか盛り上がってたみたいだけど、私の勘違いかな」
いや、盛り上がっていたっていうより、盛り下がったよ。
いきなりあんな話するなんて、見かけとは違って随分常識はずれな父親だな。
坂口の中で武彦のイメージはすっかり最悪のものになった。
だけど、伊織はそんなことなど知らない。
不愛想な態度を取れば、坂口の印象が悪くなるだけだ。
坂口はこれは彼氏に与えられる試練だと我慢する覚悟を決めた。
「ねえ、これねすっごい人気店のケーキなのよ。すぐに売り切れちゃうんだから」
「へえ、気を遣ってもらって悪いね」
「そういう訳じゃないけど。お父さんが大切なお客さんだからここのお店のお菓子にしようって言ってくれたの」
「そ、それはどうも、ありがとうございます」
じゃあ、さっきの失礼な態度はなんだったんだ。
坂口は伊織たちにはいい顔をして、自分にはあんな態度を取るというのが余計にしゃくにさわった。
裏表がある大人なんて最低だ。
伊織のことは好きだが、この父親とは気が合いそうにない。
「坂口君と伊織は同じテニス部なんだって」
「はい。男子テニスと女子テニスは一緒に練習はしないんですけどね。一緒になるのは大会のときくらいですね」
「で、坂口君は伊織のことが気に入ったわけだ」
普通そういうことを本人たちの前で言うものだろうか?
武彦に対する坂口の評価はどんどん下がっていくばかりだ。
「ま、まあ、そうですね」
「なんだ、まあそうですねって。その程度か、君の伊織に対する気持ちは」
はあ?大丈夫か、この親父。
坂口はもうこれは完全に我慢大会だと思った。
「お父さん、ちょっとそんな言い方は…」
ふだん伊織は武彦に逆らった事も口答えをすることもほとんどない。
というか、その必要がないだけの話だが。
だから、あきらかに坂口が困っているこの状況でいったいどう振る舞えばいいのかが分からない。
「ああ、すまん。だめだな父親っていうのは。可愛い娘の彼氏なのに、つい尋問のようなことをしたくなってしまう」
武彦の表情からは悪いと思っているとは到底思えない。
「坂口君、ケーキ食べて。アイスコーヒーも氷が溶けちゃうわ」
「じゃあ、遠慮なくいただきます」
坂口は一口頬張ると思わず「うまい!」と声をあげた。
「よかった、お口に合って。ね、お父さん」
「ああ、そうだな」
そんなこと思ってないくせに。
坂口の心はすっかりねじ曲がってしまった。
表面上はなんとか平和に過ぎているけれど、とても和やかな雰囲気とは程遠い空気が流れる。
「ピンポーン」そんな重苦しさを破って玄関のチャイムが鳴った。
武彦以外の誰もが助かったと思った。
田所さんがインターフォンで応える。
「私よ、美紀」
「旦那様、美紀さんがおいでです」
「なんで美紀が?」
武彦は立ち上がるとインターフォンに向かった。
「今は来客中だ」
「分かってるわよ。伊織の彼氏がきてるんでしょ。だから来たの」
「なんで美紀が知ってるんだ」
「うふ、この間田所さんと話してたらその話になって。せっかくだから私も会ってみたいなって、田所さんに日にちが分かったら教えてねって言っておいたの」
武彦は田所さんに鋭い視線を向けた。
「す、すみません。おめでたい事なのでつい…」
「来てしまったものは仕方ない。入りなさい」
「は~い」
田所さんが玄関の鍵を開けると、美紀が小走りでリビングに入って来た。
伊織は武彦が坂口に話した内容など知るはずもなく、ごく自然に尋ねた。
「まだ挨拶をしただけだ。坂口君からはこれから色々と聞かせてもらうよ」
「そうなの?何だか盛り上がってたみたいだけど、私の勘違いかな」
いや、盛り上がっていたっていうより、盛り下がったよ。
いきなりあんな話するなんて、見かけとは違って随分常識はずれな父親だな。
坂口の中で武彦のイメージはすっかり最悪のものになった。
だけど、伊織はそんなことなど知らない。
不愛想な態度を取れば、坂口の印象が悪くなるだけだ。
坂口はこれは彼氏に与えられる試練だと我慢する覚悟を決めた。
「ねえ、これねすっごい人気店のケーキなのよ。すぐに売り切れちゃうんだから」
「へえ、気を遣ってもらって悪いね」
「そういう訳じゃないけど。お父さんが大切なお客さんだからここのお店のお菓子にしようって言ってくれたの」
「そ、それはどうも、ありがとうございます」
じゃあ、さっきの失礼な態度はなんだったんだ。
坂口は伊織たちにはいい顔をして、自分にはあんな態度を取るというのが余計にしゃくにさわった。
裏表がある大人なんて最低だ。
伊織のことは好きだが、この父親とは気が合いそうにない。
「坂口君と伊織は同じテニス部なんだって」
「はい。男子テニスと女子テニスは一緒に練習はしないんですけどね。一緒になるのは大会のときくらいですね」
「で、坂口君は伊織のことが気に入ったわけだ」
普通そういうことを本人たちの前で言うものだろうか?
武彦に対する坂口の評価はどんどん下がっていくばかりだ。
「ま、まあ、そうですね」
「なんだ、まあそうですねって。その程度か、君の伊織に対する気持ちは」
はあ?大丈夫か、この親父。
坂口はもうこれは完全に我慢大会だと思った。
「お父さん、ちょっとそんな言い方は…」
ふだん伊織は武彦に逆らった事も口答えをすることもほとんどない。
というか、その必要がないだけの話だが。
だから、あきらかに坂口が困っているこの状況でいったいどう振る舞えばいいのかが分からない。
「ああ、すまん。だめだな父親っていうのは。可愛い娘の彼氏なのに、つい尋問のようなことをしたくなってしまう」
武彦の表情からは悪いと思っているとは到底思えない。
「坂口君、ケーキ食べて。アイスコーヒーも氷が溶けちゃうわ」
「じゃあ、遠慮なくいただきます」
坂口は一口頬張ると思わず「うまい!」と声をあげた。
「よかった、お口に合って。ね、お父さん」
「ああ、そうだな」
そんなこと思ってないくせに。
坂口の心はすっかりねじ曲がってしまった。
表面上はなんとか平和に過ぎているけれど、とても和やかな雰囲気とは程遠い空気が流れる。
「ピンポーン」そんな重苦しさを破って玄関のチャイムが鳴った。
武彦以外の誰もが助かったと思った。
田所さんがインターフォンで応える。
「私よ、美紀」
「旦那様、美紀さんがおいでです」
「なんで美紀が?」
武彦は立ち上がるとインターフォンに向かった。
「今は来客中だ」
「分かってるわよ。伊織の彼氏がきてるんでしょ。だから来たの」
「なんで美紀が知ってるんだ」
「うふ、この間田所さんと話してたらその話になって。せっかくだから私も会ってみたいなって、田所さんに日にちが分かったら教えてねって言っておいたの」
武彦は田所さんに鋭い視線を向けた。
「す、すみません。おめでたい事なのでつい…」
「来てしまったものは仕方ない。入りなさい」
「は~い」
田所さんが玄関の鍵を開けると、美紀が小走りでリビングに入って来た。
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