君に溺れてしまうのは僕だから

星野しずく

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君に溺れてしまうのは僕だから.18

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「暑いところ申し訳ないけど、当日はこれを着て家に来てくれるかな」

「なんのなんの、そんな大したことじゃないよ。甲子園の球児なんて見てみなよ。長袖長ズボンにヘルメットをかぶって炎天下なんだぜ。そのこと思ったら、こんなの屁でもないよ」

「例えがおかしいんだけど、まあいいや。じゃあ、約束ね」

「わっかりました~」

 全てが軽いのが気になるが、服くらいはちゃんと着てくれるだろう。

「じゃあ、さっき言った事もお願いね。おじさまに聞かれたらちゃんと私が言ったとおりに答えてよ」

「分かってるって。村井は心配性だな」

 坂口はカラカラと笑っている。

「じゃあ私そろそろ帰るね」

「え、もう帰るの?一緒にゲーセン行かない?俺UFOキャッチャーめっちゃうまいんだぜ。好きなぬいぐるみとか取ってやるよ」

 自分の用事だけ済ましてさようなら、なんてやっぱり自分勝手すぎるだろうか。

「じゃあ、少しだけ」

「よおし、じゃあ行こ」

 坂口はさり気なく伊織の手を取った。

 振り払うのも何だか申し訳なくて、伊織は手をつないだままゲームセンターまで歩いた。

 宣言どおり、坂口はUFOキャッチャーが得意で、伊織のリクエストするぬいぐるみはほぼ全てゲットしてしまった。

 おかげですごい荷物を持って帰るはめになる。

「どうだ、俺様の腕前は?」

「す、すごいね」

「だろう?」

 ぬいぐるみを集める趣味などない伊織にとっては、あまり有り難くないプレゼントだが、坂口は精一杯のおもてなしのつもりなのだ。

 その気持ちを無下にすることはできない。

「私そろそろ帰るね。今日はありがとう」

「俺の方こそ、村井と偶然会ってデートなんて最高の一日だったよ」

 伊織は苦笑いするしかない。

「じゃあまた」

「あ、ちょっと待って。連絡先交換しようよ」

 坂口に言われ伊織は一瞬考えた。

「そうだね」

 おじさまの気分次第で何がどうなるか分からない。

 そんなとき学校で言えないことがあると困るだろう。

 坂口は伊織と連絡先を交換するとご機嫌で帰っていった。

 ふぅ~、何だかすごく疲れた。

 伊織はこれで何とか日曜日は乗り切れそうだと思う反面、坂口を扱うのは想像以上に疲れることに今更ながら気づかされたのだった。



 大量のぬいぐるみを持って家に帰ると、美紀が訪ねて来ていた。

「おかえり伊織。あらすごい荷物。そんなに何を買ったの?」

「えっと、ぬいぐるみ…」

「ぬいぐるみ?伊織ぬいぐるみを集める趣味なんてあったの」

「そういう訳じゃないんだけど」

「あっ、例の彼氏にプレゼントされたんでしょ」

 高校生にもなって彼氏が彼女にぬいぐるみをプレゼントするなんて、今時ないと思うんだけど、おばさまたちの世代からすれば普通のことなのだろうか。

「ま、まあ、そんなところです」

「へえ~、優しい彼氏ね~。ね、兄さま」

「くだらない」

 武彦の表情は氷の様に冷たかった。

「兄さまったら、そんな言い方ないじゃないですか」

「わ、私着替えてきます」
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