君に溺れてしまうのは僕だから

星野しずく

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君に溺れてしまうのは僕だから.11

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 でも、おじさまはもう完全に私に彼氏がいると信じていらっしゃるのだ。

 おじさまのために嘘をついたと言ったら許してもらえるだろうか。

 だけど、お見合いはどうなるのだろう。

 おじさまは私に彼氏がいると知った途端、お見合いをするとおっしゃった。

 それは、私にもそういう相手ができたからもう私をお払い箱にして、お見合いのお相手とそういうことをなさるおつもりなのだろうか。

 もし、そこまで考えていらっしゃるのだとしたら、今から嘘でしたなどと軽々しく言うことはできない。

 きっと、おじさまはもっとお怒りになるだろう。

 そうしたらもう二度と許してもらえなくなるかもしれない。

 そして、二度と愛していただけなくなるかもしれない。

 そんな恐ろしいことは嫌だ。

 何か良い方法を考えなければ。

 とりあえず仮の彼氏を作るのだ。

 そして、すぐに別れよう。

 そうすれば、おじさまはまた私のところに戻ってきてくださるかもしれない。

 だけど、お見合いは?

 お見合いにお相手のことを気に入られるかもしれない。

 そんなこと絶対に許せない。

 おじさまが私以外の女性に触れるなんて、考えただけでも気が狂いそうだ。

 あの優しい愛撫を他の女性が受けるなんて、絶対に許さない。

 伊織はシャワーを浴びながら、一体どうすれば武彦のお見合いを止められるのか必死で考えた。

 しかし、いくら考えてもうまくいきそうな方法は思いつかなかった。

 おじさま、おじさま、私だけのおじさま。

 伊織は自分の体を抱きしめると、武彦に愛された感触をもう一度なぞるように思い出し、それを自分の体に刻み付けるように閉じ込めてしまいたかった。

 翌日からも、伊織は毎晩のように武彦に愛された。

 しかし、やはりキスマークがつけられることはなくなった。

 武彦に愛されるようになってから、ずっと伊織の体に刻まれていたキスマークは消えてなくなった。

 伊織の体は16歳になる前に戻ってしまった。

 他人が見たらただの気味の悪いうっ血の跡も伊織にとっては大切な印だった。

 もう以前のようには戻れないのだろうか。

 それでも、まだ毎晩愛してもらえるだけましだ。

 伊織はそう考えて、欲張ってはいけないと自分を諫めた。



 おばさまは着々とお見合いの準備を進めているようだ。

 昨日家に帰ると、リビングの机の上には分厚い表紙に挟まれた何枚かの写真が置いてあった。

 昼間に美紀おばさまが来て置いていったのだろう。

 おじさまはもうお相手を決められたのだろうか。

 やっぱり伊織は大人のやることを止めることができないまま、その成り行きを見守ることしかできない。

 それがもどかしくて、苦しくて。

 本当は、今すぐその写真をめちゃくちゃにしてしまいたかった。

 そうだ、本当にそうしてしまおうか。

 一瞬そう考えたけれど、そんな子供じみたことをしても何の意味もない。



 季節は移り替わってもう真夏だ。

 伊織は夏休みで、今日は午後から部活だ。

「伊織、出掛けるのか」

「はい、これから部活に行きます」

「そうか」

 武彦はじっと伊織のことを見つめた。

「今週中に彼氏を家に連れてきなさい」

「えっ」

 おばさまがいらしてお見合いを決めたあの日から一ヶ月、武彦は伊織の彼氏の話は一度もしなかった。

 なぜ突然…。

「私は来週見合いをする。その前に伊織の彼氏に会っておきたい」

「は、はい」

 それはいったいどういう意味だろうか。
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