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君に溺れてしまうのは僕だから.05

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「お~い、村井、こっちこっち」

 土曜の十時、約束どおり伊織は佐多川公園のテニスコートに現れた。

 ポロシャツにスコートを身につけた伊織はスラリと伸びた足も、か細い腕も美しく、坂口にはすべてが眩しすぎた。

 しかし、そんな美しい姿を運よく独り占め出来たことを神に感謝する。

「軽く走る?」

「あ、うん」

 伊織の姿に見とれていた坂口は慌てて答えた。

 公園のランニングコースを二人で走った。

 すぐ隣で伊織が走っている。

 もちろん彼女の息遣いが聞こえる距離だ。

 それだけで、坂口の胸はいっぱいになる。

 心臓がひどく苦しい。

 ランニング中に胸が高鳴るということは、結構危険なことだと坂口は思い知る。

 しかし、そんな苦しみも、伊織と一緒にいられるという喜びが全て消し去ってくれる。

「じゃあ、ちょっとラリーしようか」

「うわ~、いきなりラリーか~。続けられるかな」

「今の実力を見るから、無理しないでやって」

「うん、分かった」

 伊織はテキパキと坂口に指示を出す。

 二人はラリーを始めた。

 ボールのコントロールがうまくいかない坂口は、なかなかいいところにボールを返すことができない。

 しかし、伊織は坂口がどこに打っても、たいてい返球してしまうので、一応ラリーは続く。

 ただ、これでは伊織の疲労ばかりが増してしまう。

「今度は、私がボール出しするから、コートの右隅を狙って打ち返して」

「分かった」

 伊織の指導は的確で、坂口のコントロールは徐々に良くなっていった。



「ちょっと休憩しようか」

「うん」

 坂口はいつの間にか本格的なレッスンを受けていた。

 喉はカラカラ、汗ダクだ。

 坂口はタオルで汗をぬぐい、スポーツドリンクで喉を潤した。

 季節は初夏をとうに過ぎ、もう7月だ。

 照りつける日差しは二人の肌をジリジリと焦がすように暑かった。

 伊織は首筋の汗をタオルで拭った。

 公園の中心にある大きな時計塔を眺めるふりをして、坂口は伊織の姿を盗み見た。

 タオルがポロシャツの首元に引っかかり、ほんの一瞬、胸元の素肌が露わになった。

「っ!!」

 坂口は最初はそれが何か分からなかった。

 伊織の胸元にある無数の傷のようなものが。

 しかし、ありったけの情報を頭の中でこねくり回した結果、あるひとつの結論に達した。

 その結論はおそらく間違いないだろう。

 坂口は動揺を悟られないよう、タオルで顔の汗をぬぐうふりをした。

 汗をかくことが自然な状況で助かった。

 なぜなら、今吹き出している汗の量は、テニスをプレーしていたときよりも多いかもしれないのだから。



「結構、うまくなったんじゃない」

 突然話しかけられ、坂口飛び上がる程驚いた。

 しかし、必死でそれを表情をに出さないようにした。

「村井がそう言うんならそうなんだろう」

「なによ、自覚ないの?」

 いや、確かに随分コントロールはうまくなったと思う。

 しかし、今は落ち着いてそんなことを話せない。

 あの跡はいったい誰がつけたものだ?

 普段の村井から、そんな淫らなことをしている姿はまったく想像できない。

 しかし、尋常ではない数のうっ血の跡は、そこを吸われて出来たものとしか考えられない。
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