君に溺れてしまうのは僕だから

星野しずく

文字の大きさ
上 下
1 / 107

君に溺れてしまうのは僕だから.01

しおりを挟む
「さあ、こっちへ来なさい」

 武彦はその端整な横顔を伊織の方に向けて言った。

「はい…」

「どうした?」

「いえ…、なんでもありません」

「なんだ、また誰かに陰口を叩かれたのか」

 伊織はそんなつもりはなかったけれど、昼間近所の人に言われた言葉が無意識のうちに彼女の動きを不自然なものにしていたのかもしれない。

「そ、そんなことはありません」

「お前は嘘が下手だな」

「…」

「気にすることはない。お前はれっきとした私の娘だ。他人にとやかく言われる筋合いは無い」

「…はい」

 それは事実だが、村井武彦と村井伊織の関係は普通のおじと姪のそれとは明らかに違うものだった。



 近所付き合いをほとんどしない武彦は、町内では変わり者で通っている。

 立派な邸宅にお手伝いさんまでいることがやっかみの種でもあった。

 伊織は小さい頃からそんなご近所さんに謂れのない陰口を叩かれてきた。

 武彦は小説を書くことを生業としている。

 仕事場はホテルを利用することもあるが、主に自宅だ。



 伊織は武彦の姉である杏樹の娘だ。

 杏樹は未婚の母として伊織を産んだ。
 
 そして周りの反対を押し切って女手一つで伊織を育てた。

 しかし無理がたたったのか、体調を崩し25歳という若さで亡くなった。

 両親からは勘当同然だった杏樹を陰ながら支えていたのが武彦だった。

 武彦の下には妹の美紀がいるが、杏樹が亡くなった時美紀はまだ20歳の大学生だった。

 そんなわけで、5歳になったばかりの小さな伊織は武彦が引き取った。

 当時武彦はまだ23歳の若さだったが、19歳の時に文壇デビューを果たしており、生活には困っていなかった。

 武彦は現在35歳だが、一度も結婚したことはない。

 家事全般は家政婦の田所靖子さんに任せている。

 伊織が小さい頃は、乳母の鹿島桃子という女性を雇っていたが、小学校高学年になった頃からはそれも必要なくなった。

 今伊織は高校二年生、17歳だ。

 母が亡くなった当時5歳だった伊織の母の記憶はいつも疲れた表情だけだ。

 乳母の鹿島桃子も家政婦の田所さんも優しい人で、伊織は至極大切に育てられた。



 ただ、伊織が16歳になった日から、武彦と伊織の関係は一変した。

 二人はおじと姪ではなく、男と女の関係になったのだ。



「おじさま…」

「おいで、私のかわいい伊織」

 武彦の言うことに伊織は逆らうことが出来ない。

 それは武彦のことが怖いからということではない。

 つまり、伊織は武彦のことを男性として愛しているのだ。

 伊織が武彦のことを男性として見るようになったのはいつの頃からだったのか、はっきりとは覚えていない。

 しかし、伊織にとって武彦は初恋の相手であることは確かだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

ナースコール

wawabubu
青春
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

処理中です...