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君に溺れてしまうのは僕だから.99

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「もっとこっちへ来なさい」

 武彦は伊織の手首を握ると自分の横に引っ張った。

 ただでさえ暑いのに、武彦との距離が縮まって、伊織の体温はぐんと上昇した。

 私ばっかり浮かれて、ドキドキして、バカみたい。

 そう思うけれど、好きな気持ちがそうさせるのだから仕方のないことだった。



 二十分程歩いたところに小さな公園がある。

 この暑さで公園には人っ子一人いなかった。

 そこにあるベンチがちょうど木陰になっていた。

「ひと休みしよう」

 武彦に言われ、二人でそのベンチに腰をおろした。



「愛美さんとの話は、さっき美紀が言った通り断ったよ」

 武彦は突然話を切り出した。

「ど、どうしてですか?ついこの間まではうまくやれそうだって…」

 伊織は二人の話が破談になったことが嬉しくて仕方ないけれど、それを前面に出すわけにはいかなくて、ついわざとらしい質問をしてしまった。

「まあ、色々あってな…」

 その色々が気になるんだってば…。

 だって、ほんの数日前まではてっきり愛美さんと結婚するとばかり思ってたのに…。

 こうなったのは嬉しいけれど、その詳細が分からないままこの話が終わるのはとても耐えられない。



「私にそれを聞く権利はないんですか」

 伊織のもっともな質問にだんまりを決め込むつもりだった武彦も困り顔になる。

「愛美さんとは結婚しないっていうだけじゃ駄目か?」

「おじさまには私の気持ちをちゃんと伝えたつもりです。それなのにおじさまはご自分の気持ちを話してくださらないのは不公平です…」

「そうだな…」

 そう言ったまま武彦は随分と考え込んでしまい、なかなか口を開かなかった。



「伊織は私が一生結婚しなくても家にいてくれるのか?」

「当たり前じゃないですか。私はおじさまさえいてくれたらそれで十分なんです。いいえ…、私の人生におじさまがいないなんて考えられないんです」

 何を言い出すかと思えば、伊織にとっては当然のことだった。

「そ、それは、その…、父親としてか?」

「違います…。おじさまのことは一人の男性として好きです」

 さんざん伊織のことを抱いておいて今さら武彦のことを父親と思えるはずなんてないのに。

 武彦はいったい自分のことをどういうつもりで抱いていたのかと思うと、伊織はひどくショックだった。



「だけど、俺はお前の伯父だ」

「そんなこと分かってます。でも好きなんです。どうしようもないくらい…」

 伊織はまた泣きそうになるのを必死でこらえた。

「伊織…」

「そういうおじさまは、私のことをどう思っているんですか」

 ついに聞いてしまった。

 ずっと聞きたくても怖くて聞けなかったことを。

 武彦は答えてくれるだろうか…。

「伊織は…、伊織は…、私のかわいい娘だ…」

「だったらどうしてあんな風に私のことを抱くんですか?私のことを女として見れないのに、おじさまは私のことが抱けるんですか」

 もうどうにでもなれと思った。

 自分ばっかりが武彦のことを好きで、好きで仕方なくて。

 いつもいつもドキドキして。

 抱いてもらうたびに、いつかは武彦から好きと言ってもらえるんじゃないかと期待して…。
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