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エロ.36
しおりを挟む「指輪をはめ忘れることだってある」
高広はそんな独り言をつぶやいていた。
それなのに、心の中に広がる不穏な感覚をとめることができない。
正月は美世から初詣に誘ってもらい、そのあとは初めて家に泊めてもらったというのに。
美世との関係が深まったと思った途端に、そんなことはまるで意味をなさなかった様に感じてしまう出来事が起こったのだ。
いや、まだハッキリしていることなど何もない。
そもそも美世と服部が不倫していることさえ確かじゃないのに。
こんなことを考えるのは馬鹿げたことだと思っても、自分の感情のコントロールができないのだ。
早く美世に会いたい・・・。
高広はいつもよりも随分早かったけれど、美世のアパートに向かった。
合鍵で部屋に入ってテレビを見るともなしに見ていた。
すると部屋のチャイムが鳴った。
美世だったらチャイムを押すはずはない。
もしかしたらまた元貴が?
高広は足音を立てないように玄関に行くと、覗き穴から外を見た。
そこに立っていたのは服部だった。
「美世、いるんだろ?」
呼び捨て?
いや、今はそんなこと言ってる場合じゃない。
そうこうするうちに鍵穴に鍵が差し込まれる音がした。
嘘だろ?
服部も合鍵を・・・。
どうすればいい?
考える前に身体が動いていた。
高広はカバンを掴むと思いきり玄関の扉を開けて、全速力で飛び出した。
「うわっ!!」
顔は見られていないだろう。
幸いなことに美世のアパートの外灯は全体的に薄暗い。
高広はそのまま階段を駆け下り、停めてあった自転車にまたがると全速力で自宅に向かった。
もうこれで確定だ。
美世と服部は不倫している。
だが、そうと分かっても美世を問い詰めて別れを切り出されるのは絶対に嫌だった。
たとえ元貴の家庭教師役のためだけに美世が高広との関係を持ったのだとしてもだ。
美世が別れたいと言い出すまで、決して自分から別れる原因にになるような行動など起こすまいと高広は思った。
そんなのはめちゃくちゃ格好悪い。
だけど格好悪くても何でもいい。
これで美世との関係が終わるのなら、一分一秒でも長くこの状況が続けられる方法を高広は選びたかったから。
自分が去った部屋で美世と服部は今頃どんな会話をしているのだろう。
そして、自分がいない部屋で二人は肌を合わせているのだろうか。
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『分かりました』とだけ返事があり、それ以外は何も記されていなかった。
起きていれば余計なことを考えるだけだ。
高広は布団を頭までかぶると、ぎゅっと目を閉じた。
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