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エロ.35
しおりを挟む「ごめんね、急かして」
「ううん、そんなことより元貴が大人しく帰ってくれてよかったよ」
「そうだね」
ただ、美世が店に行ってから二人の間でどんな会話が展開されるのかと思うと気が気ではない。
美世の言った通り元貴が何か勘づいたのなら、姉である美世に尋ねないはずはないだろう。
さっきは高広がいたせいで、気を遣った可能性があるから。
「じゃあ、またね」
「うん、また」
高広はひと悶着あったというのに、相変わらず美世を求める気持ちは消えなくて、美世が去って行くのを見届けてから自転車にまたがった。
結局、美世からも元貴からも連絡がないまま四日を迎えた。
今日からはまたいつものように元貴との勉強を再開することになっている。
いつものファミレスに行くと元貴はもうやって来ていた。
「あ~、正月はよく寝た。もうしばらく寝なくても平気だ」
「そんなわけないだろ」
冗談から始まり、いつも通りの時間が過ぎていった。
元貴はこの間のことには全く触れて来ない。
それがかえって不自然に感じられたが、こっちから尋ねてわざわざ墓穴を掘る必要などない。
高広はすっきりしない気持ちのままファミレスでの勉強を終えた。
美世の店に行ってからも元貴の様子は特に変わったところはなかった。
高広がいつまでもこだわっている方がよくない結果を招くかもしれない。
何もなかったことにはできないが、とりあえずこの間のことは一旦脇に置いておくことにした。
そうこうしているうちに、例の男、服部がやってきた。
「明けましておめでとうございます」
美世は生ビールを差し出しながら言った。
服部も仕事始めだったのか、休みボケだとぼやいている。
コートを脱いでネクタイを緩める姿がいかにも大人の男というのを主張しているようで鼻につくが、ちゃんと様になっているのが憎らしい。
そんな些細なことに目くじらを立てているうちはまだよかったと思うようなことが、次の瞬間高広の目に飛び込んできた。
美世が差し出した料理を受けとろうと差し出した服部の手を何気なく見ていた時、高広は気づいたのだ。
その左手の薬指にこの間まであった指輪が無い。
ただそれだけで、決定的なことがあったという証拠など何もない。
美世の行動を全て監視できるはずもなく、正月休みの間に二人が会っていなかったという保証などない。
特に、昨日は丸一日店は休みで、服部も休みだったはずで、会うことは可能だ。
勝手な妄想がどんどん膨らんでいく。
「高広~、この問題の解き方なんだけど、この公式使えばいいかな?」
真面目に問題を解いていた元貴に話しかけられ、高広は現実に引き戻された。
「あ、ああ・・・、えっと・・・、それは違うな」
もっと服部と美世のことを観察していたかったが、心ここにあらずでは元貴に申し訳ない。
高広は何とか勉強に集中しようとした。
しかし、途切れ途切れに聞こえてくる服部の声が気になって、高広の頭はフル回転する羽目になった。
勉強を終え高広は店をあとにした。
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