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もう君を絶対に離さない.61
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普段はあまり感情をあらわにしない野崎が、今日ばかりはなりふり構わずその思いを吐き出していた。
それを間近で見られることに、密かな優越感を抱いてしまう。
「ほら、そろそろ始まるから、中に入ろう」
「あ、ああ、そうだな・・・。あ~、緊張する~」
こうやって心が動く瞬間をともにすることで、自分の存在がもっともっと野崎の中でなくてはならないものになって欲しい。
そんな美子の想いとは裏腹に、野崎は純粋に今日という日を心から楽しみにしていた。
講演がはじまると、野崎はそれこそ身を乗り出し、眼を輝かせて土居監督の一語一句を聞き逃さない勢いで聞いていた。
講演会の後半の質疑応答も一番に手を上げて質問をぶつけていた。
「はぁ~・・・、凄かった~」
野崎は精も根も尽きた様子で講堂をあとにした。
「気合入りすぎだよ~」
「仕方ないだろう・・・、憧れの土居監督が目の前にいるんだぜ。これが興奮しないでいられるわけないよ・・・」
「まあ、そうなんだけど・・・」
美子は自分が提案した講演にすっかり夢中になった野崎の様子に満足気だ。
「ねえ、何だかこのまま家に帰る気分じゃないから、一緒にご飯食べに行かない?」
興奮冷めやらない野崎をこのまま夜の街に誘えば何かが起こるかもしれない。
「いやあ、俺、金ないから・・・」
「じゃあ、ノンアルコールでも買って家飲みしよ」
「まあ、それならいいけど・・・」
「今日は土居監督に出会えた日記念!」
「なんだその記念日」
そんな他愛もない話をしながら、二人は野崎の家に向かった。
野崎には全くその気がなくても、美子は下心の塊なのだ。
二人の気持ちの温度差はかなりあるが、今の野崎は土居監督のおかげで普段よりかなりテンションが上がっている。
こういう盛り上がった気分のままなし崩し的に落としてしまえないかと、美子は密かに期待していた。
こんなやり方は、普通男性が女性に対して行いがちなのだが、今はそんなことに構ってなどいられない。
手段は選んでいられないのだ。
美子の頭の片隅には常に、野崎の作品の中の瑠璃子がライバルとして存在しているのだから。
野崎の家に上がり込み、テーブルの上にノンアルコールとつまみの総菜を並べた。
「じゃあ、土居監督に出会た今日に乾杯!」
「何だかよく分からないけど、乾杯!」
二人は勢いよく一杯目を飲み干した。
「そう言えばこうやって二人で飲むの初めてだよね」
「ああ、そうだったか?」
インカレサークルの仲間では何度か飲み会をしたことはあった。
今は急性アルコール中毒に対するチェックも厳しくて、未成年が無理やり飲まされることもないため、もちろん飲むのはノンアルコールだ。
しかし、普段バイトと課題、そして作品作りに追われている野崎を飲みに誘っても、断られるばかりだった。
だから、今日という日はまたとないチャンスなのだ。
それを間近で見られることに、密かな優越感を抱いてしまう。
「ほら、そろそろ始まるから、中に入ろう」
「あ、ああ、そうだな・・・。あ~、緊張する~」
こうやって心が動く瞬間をともにすることで、自分の存在がもっともっと野崎の中でなくてはならないものになって欲しい。
そんな美子の想いとは裏腹に、野崎は純粋に今日という日を心から楽しみにしていた。
講演がはじまると、野崎はそれこそ身を乗り出し、眼を輝かせて土居監督の一語一句を聞き逃さない勢いで聞いていた。
講演会の後半の質疑応答も一番に手を上げて質問をぶつけていた。
「はぁ~・・・、凄かった~」
野崎は精も根も尽きた様子で講堂をあとにした。
「気合入りすぎだよ~」
「仕方ないだろう・・・、憧れの土居監督が目の前にいるんだぜ。これが興奮しないでいられるわけないよ・・・」
「まあ、そうなんだけど・・・」
美子は自分が提案した講演にすっかり夢中になった野崎の様子に満足気だ。
「ねえ、何だかこのまま家に帰る気分じゃないから、一緒にご飯食べに行かない?」
興奮冷めやらない野崎をこのまま夜の街に誘えば何かが起こるかもしれない。
「いやあ、俺、金ないから・・・」
「じゃあ、ノンアルコールでも買って家飲みしよ」
「まあ、それならいいけど・・・」
「今日は土居監督に出会えた日記念!」
「なんだその記念日」
そんな他愛もない話をしながら、二人は野崎の家に向かった。
野崎には全くその気がなくても、美子は下心の塊なのだ。
二人の気持ちの温度差はかなりあるが、今の野崎は土居監督のおかげで普段よりかなりテンションが上がっている。
こういう盛り上がった気分のままなし崩し的に落としてしまえないかと、美子は密かに期待していた。
こんなやり方は、普通男性が女性に対して行いがちなのだが、今はそんなことに構ってなどいられない。
手段は選んでいられないのだ。
美子の頭の片隅には常に、野崎の作品の中の瑠璃子がライバルとして存在しているのだから。
野崎の家に上がり込み、テーブルの上にノンアルコールとつまみの総菜を並べた。
「じゃあ、土居監督に出会た今日に乾杯!」
「何だかよく分からないけど、乾杯!」
二人は勢いよく一杯目を飲み干した。
「そう言えばこうやって二人で飲むの初めてだよね」
「ああ、そうだったか?」
インカレサークルの仲間では何度か飲み会をしたことはあった。
今は急性アルコール中毒に対するチェックも厳しくて、未成年が無理やり飲まされることもないため、もちろん飲むのはノンアルコールだ。
しかし、普段バイトと課題、そして作品作りに追われている野崎を飲みに誘っても、断られるばかりだった。
だから、今日という日はまたとないチャンスなのだ。
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