もう君を絶対に離さない

星野しずく

文字の大きさ
36 / 86

もう君を絶対に離さない.36

しおりを挟む
「え、お金は大丈夫だよ。私の友達だし。遊びにくるついでみたいなもんだから」

 瑠璃子も守も経済的には困っていない部類の人間だから、ついそんな風に軽く考えてしまう。

 しかし、野崎はごく普通の、いやどちらかといえば裕福とは縁がない部類の人間だ。

 だから、そういう気軽さが理解できない。



「あ、ごめん、それだと、野崎君がかえって気を使うのか・・・」

 瑠璃子は野崎と親しくなって、自分と自分のまわりにいる人間は少しばかり世間とズレているという自覚が出来た。

 だから、野崎が何か気まずそうにしているときは、きっと自分がおかしなことを言っているんだと思うようになった。



「じゃあ、まだ聞いてみないと分かんないけど、もし私の友達がOKだったら、出演料、バイトの時給の半分くらいでいいから出してあげてくれる?」

「あ、うん、もちろん!ほんと助かるよ」

 野崎はやっとすっきりとした笑顔になった。

 瑠璃子は野崎を通して、自分のズレを矯正させてもらえて、こちらこそありがたいと思うのだった。



「ねえ、ちなみに写真あったら見せてもらっていい?」

「高校の時のでよければ」

「うん、それでいい」

「えっと・・・、あったあった。はい、これ」

 瑠璃子はスマホの画面を野崎の前に差し出した。



「へえ・・・、こんな格好いい人・・・。出てもらえるのかな」

 瑠璃子にとっては見慣れた顔の守も、野崎の目にはかなりハイスペックな男性に映る様だった。

「格好いいのかな・・・。身近にいるとよく分かんないや・・・」

「ええっ!充分美形でしょ」



 野崎が言うのなら、そうなのだろう。

 守はもはや姉弟のような存在で・・・、確かに不細工ではないけれど、とりたてて格好いいと思うこともない。

 でも、この考えにも、もしかしたら自分の無意識の力が働いているのかもしれない。

 自分とつき合う人間は、自分と同じようにある程度お金に余裕があり、見た目も平均以上といった具合に、友だちになる人物の選定基準にしていた可能性が高い。



「と、とにかく一度聞いてみるから・・・。ね、野崎君」

「そ、そうだね。よろしく頼むよ」

 瑠璃子が裕福な家庭に生まれたのも、友人が美形なのも、なにも瑠璃子が悪いわけじゃない。

 だけど、そういうことに恵まれなかった野崎には、やはり少し捻くれた考えが生まれてしまうのは仕方のないことなのかもしれない。

 それでも、そんな瑠璃子が今は野崎にとっては欠くことのできない人物になりつつある。

 瑠璃子の立派な家を出て電車に揺られながら、野崎はそんなことをぼんやり考えていた。



 野崎が帰った後、瑠璃子はさっそく守に連絡を入れた。

 込み入った話になることが予想されたため、ラインではなく電話をした。



「守、今話せる?」

「うん、今ちょうどゼミが終わったところだから」

「ゼミ?」

「うん、俺の尊敬する門脇先生のゼミ!すごく有名な教授でさ、ゼミに入るのも面接があったんだ」

「へえ~!ゼミってだれでも入れるもんだと思ってた」

「まあ、俺の話は置いといて、なにか急用?」

「あ、昨日話したショートムービーのことなんだけど、私の相手役でちょこっと出てもらうとかできないかな~って」

「ええ~、俺が~?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

処理中です...