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ドSな彼のイジワルな愛し方.02

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「え、えっと…。どなたでしょうか。」

 怯えた表情の琴乃に困ったなという顔になる。

「君を保健室に連れて行かせていだだいた佐野と申します。」

 佐野君はちょっとふざけた口調で言った。

「え、あなたが佐野君!あ、あの、今日は助けていただいて、ありがとうございました。」

 琴乃がテンパった様子でそう言うと、佐野君はクスッと笑った。

「助けたなんて大げさだよ。人が倒れてたら、ほっとかないでしょ普通。」

「だけど、見ず知らずの私なんかを…。その、保健室までなんて重かったでしょうし…。」

「俺、そんなに軟弱そうに見えるかな?君を抱き上げるくらい大したことじゃないよ。」

「そ、そ、そういう意味じゃないけど…。とにかく、ほんとにありがとうございました。」

 必死に頭を下げる琴乃に、佐野君はあくまでクールに答える。

「まあ、元気になったみたいでよかったよ。それじゃ。」

 そう言うと佐野君は校門を後にした。

「ありがとうございました!」

 佐野君の背中に向かって琴乃は精一杯の声で感謝の気持ちを伝えた。

 佐野君は振り返ることなく、片手を上げる。

(か、カッコイイ…。)

 琴乃の心は一瞬にして奪われてしまった。

 まあ、ミーハーな理由と言われればその通りなんだけれど、普通の女子高生だったらそうならない方がおかしい位の出来事で、それをきっかけに、琴乃は彼に思いを募らせていったのだ。

 それから今日までの一年間、琴乃は遠くから彼の事を見つめているだけで幸せだった。 

 琴乃のリサーチでは、彼は無口でクール、でもスポーツは万能、勉強も出来る。顔ももちろんかっこいい。

 切れ長の一重にスッと通った鼻筋、唇はちょっと薄めだけど、それがまた彼の表情をキリッと引き締めている。

 身長は180センチくらいで、体の線は細めだけど、肩幅は広く、程よい筋肉がバランスよく付いた四肢という申し分ない容姿の持ち主だ。

 そんなあこがれの彼と二年の今日から同じクラス。

 くじ引きで決まった席順は、何と彼が琴乃の前の席というこれまた夢の様に幸運な状況だ。

 前から配られる資料が後ろに回される度、彼が振り向いて琴乃に資料を渡す。

 そんな何の変哲もない一連の動作にもドキドキしてしまう。
 
 そう、琴乃は憧れの彼の後ろの席でこの一学期を過ごすのだ。

 はっきり言って、勉強に身が入るはずがない。

 恐らく一日中見ていても飽きないであろう彼の広い背中を眺める時間が黒板を見る時間をはるかにしのぐ事は間違いない。

 サッカー部に入っている彼は日に焼けた肌に、透き通るような茶色の髪がキラキラとまぶしい。

 窓からの風で髪がふわっとなびくたび、彼の香りがほんのり届いて…。

 琴乃は悶え死にそうになる。

 そんな彼だから、安藤君が言ったようにライバルは多い。

 こんなベストポジションをゲット出来たことで、ファンたちからの視線が痛い。

 でも、あくまでくじ引きで決まったのだから文句は言わせないと心の中で反撃してみるものの、とりたてて美人でもない自分が、彼女になれるなんて天と地がひっくり返っても無理な話だと思うと、ついため息が漏れる。


 放課後、委員会活動が終わって教室に戻ると校庭から運動部の掛け声が聞こえてくる。

 彼は、1年からレギュラーに選ばれる程の腕前だ。練習だというのに、ファンの女の子たちの黄色い声援が校舎まで届いてくる。

 琴乃の口から「はぁ~」と思わずため息がもれる。

 告白する前から失恋したような失望を感じながら帰る準備をした。

 へこんでてもしょうがない、同じクラスで後ろの席になれただけでも幸せじゃんと自分をはげまし、バイト先に向かう。
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