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「ぼくたちも行きたいいいぃぃっ」
声をそろえて懇願する双子の前で、ユズルは心底困ったように眉を寄せた。
「でもルリたちが行って、みんなが気付いたら大変なことになるんだよ?」
「でもでも行きたいもんっ! たまにはいいじゃないっ。ユズルのけち!」
ルリが頬を膨らませて訴える。その横でリカも同じくむくれて見せる。
「ぼくたち、一生ここから出ることができないの?」
「それは……違うけど……」
「じゃあ、今日でもいいってことでしょう?」
「それはまた違うっていうか……」
生まれてから、子供たちの自由な時間は、この教会の敷地内がほとんどだ。
それは神の生まれ変わりとして、外の世界とは基本的に隔絶されていることが理由。
一年に一度、国王がこの街にやってくるとき以外は、双子が街に出ることはない。王が離宮を構えている湖の城になら赴くことはあっても、他の事情で外に出ることはない。
もう少し成長し、見聞のために外出することはあるにはあるのだが、しかし幼いこの子たちにはまだ早い。それを朝から、ユズルはせがまれていて困り果てているところだった。
国民たちはこの子たちを神の生まれ変わりだと思っている。それはユズルだって同じだ。
神聖な存在である者が、気安く民と関わりすぎることもよくない。今までの慣例的な思考が残る中、どうしても安易に要求を受け入れるわけにはいかない。
「あ、じゃあさ。ヘンソウしていくなんてどう? そしたらぼくたちだって分からないでしょう?」
とても名案を思い付いたようにルリは言う。リカもそれに賛同して、期待に満ちた虹色の瞳でユズルを見上げた。しかし。
「あのね、この国でその目を持っているのはルリとリカしかいないんだよ? すぐにバレちゃうよ……」
この子たちが神の生まれ変わりだという証明は、世界中の色を内包しているだろうその瞳が所以だった。
レーゼの家系からしか生まれてこないこの不思議な瞳。これこそが証明だ。
その大きな美しい瞳が、この言葉で一気に涙を浮かべ始め、ユズルはとてもいけないことをしている気がして思わず数歩後ろに下がった。
「だって、ぼくたちだって少しくらい見たいんだもん……」
ルリが声を震わせると、リカがたまらないとルリの身体を抱きしめた。薔薇色の頬を寄せて、ルリを労わる手が銀色の癖のない髪を撫でる。
「だめだよルリ。もうこれ以上ユズルを困らせないでおこう。もう少し大きくなったら外に行けるんだから……」
言いながら、リカの声も震えている。二人で互いを抱きしめながら慰め合ってる様子は見ているだけでも胸が痛くなる。
だけど、でも。
そんな思い悩んでいるユズルの背後に声がかかる。
「どうしたの?」
思わぬ声にユズルが驚き振り返ると、思った以上の近さでイチカが立っていた。その後ろにはライアもいて、ますますユズルが驚く。
「二人ともどうしたの!?」
「いやいや、こっちが聞いたんだよ」
イチカはおかしそうに笑う。ライアもユズルの反応が面白かったのか笑っていた。
敷地のいくつかの玄関となる場所には、基本的に警備のものが最小限だが配置されている。レーゼ以外の司祭や使用人、食材などを運んでくる業者や祈りをささげるために訪れる者。教会のある場所は何かと人が多い。
だけどその中で、こうしてここまで入ってくるのはあまりいないので、ましてライアがいることでユズルの心拍数が突如として跳ね上がるのは言うまでもなかった。
若干赤くなった顔で、ユズルはことの成り行きを説明する。
「ああ、そろそろ外の世界に興味を持つお年頃ってことね」
イチカが涙目の双子の頭をそれぞれ撫でながら笑う。
「うん。でも連れて行くわけにはいかないし……」
「確かに、何があるか分からないもんなぁ」
ユズル同様、眉を寄せるイチカの横で、ライアがその深い青の瞳をついと動かした。まっすぐに見つめられて、ユズルが思わず息をのむ。
「……ライア?」
「俺が一緒に行こうか?」
「え?」
「ユズルと俺とで行けば、何とかなるんじゃないかな」
ポロリとこぼれたライアのそれに、ルリとリカの顔がぱあっと明るいものになる。だけど先ほど以上に驚き、目を見開いたユズルはそれどころではない。
「だ、だめだめっ。万が一何かあったらどうするの!?」
「そうだよライア。さすがに俺でもそこまで冒険できないわ……」
「そうかな? 帽子でもかぶってればそんなに気づかれないと思うけど。それにもし気づかれて人が集まってきたら、俺が抱えて走ればいいだろう?」
ライアは本当に大したことでもないように言う。
「でも、双子は良いとしてユズルはどうするんだよ」
イチカの言葉にライアは笑う。
「ユズルは頑張って走ってくれ。さすがに俺も三人は抱えられないし」
「いやまぁ、そうだけどさ……」
「とりあえず、レーゼさまに確認してから」
言いながらライアは双子の前にしゃがみ込む。黒髪の間から見える青の瞳がふんわりと笑みを象りルリとリカに向けられる。
「外は人がたくさんいるし、お前たちだって気づいたら、みんなが押し掛けてくるかもしれない。そうなったらユズルにも街にも迷惑がかかる。俺とユズルの言うことが聞けるか?」
「うん、聞く。ちゃんとおりこうできる」
「ぼくも。ルリといっしょ。言うこときく」
こくこくと頷き、ライアを見つめる虹色の瞳は真剣そのものだ。やんちゃで困るというほどでもない二人のことだから、約束は守るだろうけれど。
「でも、いいのかな……」
ユズルの言葉にライアが視線を持ちあげて、子供っぽく笑った。
「大丈夫。守るよ」
その短い言葉がユズルの胸に沈み込んでいく。ライアの声に髪の毛の先ほどの不安もない。心配性のユズルの性格だから、両手を上げて賛成もできないけれど、それでも双子が真剣に何かをお願いしてくることも珍しかった。
健やかに成長はしているが、それでも一般的な年齢より規制されていることも多いし、それを嫌がるわけでもない。むしろ小さいながらに受け入れているところを考えると、今回のこともわがままとは思わない。むしろそうさせてあげたい気持ちももちろんある。
「分かった……おとうさまがいいって言ったら。ね」
ユズルは諦め、小さく笑った。レーゼが駄目だと言えばあきらめるだろうとも思ったからだ。
「ええ!? ユズル本気?」
イチカが驚き声を上げた。栗色の瞳が見つめる先で、ユズルは苦笑する。優し気な眉を下げ、愛する双子たちの言うことには結局敵わない自分がおかしいく思える。
「あとはレーゼ様にお任せするよ」
そう言って、小さな二人分の手を取った。
レーゼはユズルが思うよりあっさりと、双子の外出を認めた。
ただし混雑している街の中心地にはいかない。必ずユズルとライアの言うことを聞くこと。この二つだけが条件だった。
「俺も行きたいぃぃ」
二人分の準備をするためにいそいそと動いているユズルを見ながら、イチカは恨めしいばかりの顔でぼやく。
ユズルが器用にルリたちの髪の毛を三つ編みにしていく。白く細い手が子供の艶やかな髪を手早く編んでいくそれを眺めながらライアは呆れた声を投げた。
「お前、これから仕事だろう?」
不規則な勤務はライアだって同じだ。今日はたまたまライアが休日、イチカが午後からという具合だった。
「俺がユズルに会いたくて来たのに、なんでお前がユズルと一緒に過ごすんだよッ」
不満の治まることのないイチカがライアを睨みつける。納得いかないと、ソファに腰を下ろして並んでいる隣のライアの足を軽く蹴った。
「いて。……八つ当たり反対」
「当たりたくもなる。お前にユズルはあげたくないしな」
長い脚を組み、その膝の上に頬づえをつきながらイチカは言った。その言葉にライアが一瞬息をのんだが、それから視線をユズルに戻し微笑した。
「俺は、そんなんじゃない」
「ん?」
呟くその声にイチカが片方の眉をくいと上げた。少し意地悪っぽく笑いながら、ライアと同じように視線をユズルに流す。
「意地張ってもいいことなんかないぞ」
「そんなもん張ってない」
「張ってる」
「張ってない」
「……意地じゃないならなんなんだよ」
イチカの言葉に、深い海の瞳をライアは動かす。視界の端にユズルを捉えながら、決してユズルと視線が交わらないように。それはまるで気持ちを重ねないとでも言うように。
ほんの少しの――加減だ。
「俺とユズルは友達だよ。これからだってそれは変わらない」
重ねようとはしないが、それでもユズルを追い出そうとしないその視線の奥底に、何かを秘めていた。イチカはそれが何かを理解することはできないが、ライアは冗談でそんなこと言う性格ではないことも分かっている。
「お前の考えることはよく分からないや」
今は何をどうしたってライアのそれを読み解くことはできなさそうだと、イチカは小さくため息を落とした。
「俺も、よく分かってないんだ」
ライアは小さく笑った。子供っぽくなる笑顔は昔から何一つ変わっていない。まじめで器用なのだが、それでも自分や近しいものに対しては妙に不器用な性格だ。
「分かったら教えてくれ」
イチカが少しぶっきらぼうに言うと、ライアはますます子供みたいに笑った。
そのあとは二人とも特に何を話すでもなく、身支度を整えるユズルと双子を眺めていた。
白のシャツに紺色のズボンをはいた双子は、薄青いベールを巻いてもらっている。早く外に出たくてワクワクしている様子が手に取るように感じられる。
その世話をしていたユズルと言えば、自室に戻って着替えをしていたのだろう、いつもの司祭服ではなく、襟もとに花の刺繍が施された白いシャツに濃い紫のズボンを着用していた。
「やば。ユズル可愛い」
思わずイチカが零した。確かにいつも見慣れているものとは違う服装をしているから、とても新鮮だ。
しかもユズルの華奢さから言えば、男性用のシャルワールはサイズが厳しい。だからきっとこれは女性用なのだろう。が、それが似合いすぎている。
ユズルには決して言わないでおこうと、二人が固く誓うほどに。
「へん、かな?」
あまり二人が見つめて来るので、ユズルが不安そうに眉を寄せた。長いプラチナブロンドの髪を片側の耳の下で緩く束ねている様子でさえ、可憐さを増しているように見えた。
「よく似合ってるよ」
イチカとライアがほぼ同時に言うと、ユズルはふんわりと花が咲くように微笑した。春の陽ざしに溶けるようにあどけなく。
声をそろえて懇願する双子の前で、ユズルは心底困ったように眉を寄せた。
「でもルリたちが行って、みんなが気付いたら大変なことになるんだよ?」
「でもでも行きたいもんっ! たまにはいいじゃないっ。ユズルのけち!」
ルリが頬を膨らませて訴える。その横でリカも同じくむくれて見せる。
「ぼくたち、一生ここから出ることができないの?」
「それは……違うけど……」
「じゃあ、今日でもいいってことでしょう?」
「それはまた違うっていうか……」
生まれてから、子供たちの自由な時間は、この教会の敷地内がほとんどだ。
それは神の生まれ変わりとして、外の世界とは基本的に隔絶されていることが理由。
一年に一度、国王がこの街にやってくるとき以外は、双子が街に出ることはない。王が離宮を構えている湖の城になら赴くことはあっても、他の事情で外に出ることはない。
もう少し成長し、見聞のために外出することはあるにはあるのだが、しかし幼いこの子たちにはまだ早い。それを朝から、ユズルはせがまれていて困り果てているところだった。
国民たちはこの子たちを神の生まれ変わりだと思っている。それはユズルだって同じだ。
神聖な存在である者が、気安く民と関わりすぎることもよくない。今までの慣例的な思考が残る中、どうしても安易に要求を受け入れるわけにはいかない。
「あ、じゃあさ。ヘンソウしていくなんてどう? そしたらぼくたちだって分からないでしょう?」
とても名案を思い付いたようにルリは言う。リカもそれに賛同して、期待に満ちた虹色の瞳でユズルを見上げた。しかし。
「あのね、この国でその目を持っているのはルリとリカしかいないんだよ? すぐにバレちゃうよ……」
この子たちが神の生まれ変わりだという証明は、世界中の色を内包しているだろうその瞳が所以だった。
レーゼの家系からしか生まれてこないこの不思議な瞳。これこそが証明だ。
その大きな美しい瞳が、この言葉で一気に涙を浮かべ始め、ユズルはとてもいけないことをしている気がして思わず数歩後ろに下がった。
「だって、ぼくたちだって少しくらい見たいんだもん……」
ルリが声を震わせると、リカがたまらないとルリの身体を抱きしめた。薔薇色の頬を寄せて、ルリを労わる手が銀色の癖のない髪を撫でる。
「だめだよルリ。もうこれ以上ユズルを困らせないでおこう。もう少し大きくなったら外に行けるんだから……」
言いながら、リカの声も震えている。二人で互いを抱きしめながら慰め合ってる様子は見ているだけでも胸が痛くなる。
だけど、でも。
そんな思い悩んでいるユズルの背後に声がかかる。
「どうしたの?」
思わぬ声にユズルが驚き振り返ると、思った以上の近さでイチカが立っていた。その後ろにはライアもいて、ますますユズルが驚く。
「二人ともどうしたの!?」
「いやいや、こっちが聞いたんだよ」
イチカはおかしそうに笑う。ライアもユズルの反応が面白かったのか笑っていた。
敷地のいくつかの玄関となる場所には、基本的に警備のものが最小限だが配置されている。レーゼ以外の司祭や使用人、食材などを運んでくる業者や祈りをささげるために訪れる者。教会のある場所は何かと人が多い。
だけどその中で、こうしてここまで入ってくるのはあまりいないので、ましてライアがいることでユズルの心拍数が突如として跳ね上がるのは言うまでもなかった。
若干赤くなった顔で、ユズルはことの成り行きを説明する。
「ああ、そろそろ外の世界に興味を持つお年頃ってことね」
イチカが涙目の双子の頭をそれぞれ撫でながら笑う。
「うん。でも連れて行くわけにはいかないし……」
「確かに、何があるか分からないもんなぁ」
ユズル同様、眉を寄せるイチカの横で、ライアがその深い青の瞳をついと動かした。まっすぐに見つめられて、ユズルが思わず息をのむ。
「……ライア?」
「俺が一緒に行こうか?」
「え?」
「ユズルと俺とで行けば、何とかなるんじゃないかな」
ポロリとこぼれたライアのそれに、ルリとリカの顔がぱあっと明るいものになる。だけど先ほど以上に驚き、目を見開いたユズルはそれどころではない。
「だ、だめだめっ。万が一何かあったらどうするの!?」
「そうだよライア。さすがに俺でもそこまで冒険できないわ……」
「そうかな? 帽子でもかぶってればそんなに気づかれないと思うけど。それにもし気づかれて人が集まってきたら、俺が抱えて走ればいいだろう?」
ライアは本当に大したことでもないように言う。
「でも、双子は良いとしてユズルはどうするんだよ」
イチカの言葉にライアは笑う。
「ユズルは頑張って走ってくれ。さすがに俺も三人は抱えられないし」
「いやまぁ、そうだけどさ……」
「とりあえず、レーゼさまに確認してから」
言いながらライアは双子の前にしゃがみ込む。黒髪の間から見える青の瞳がふんわりと笑みを象りルリとリカに向けられる。
「外は人がたくさんいるし、お前たちだって気づいたら、みんなが押し掛けてくるかもしれない。そうなったらユズルにも街にも迷惑がかかる。俺とユズルの言うことが聞けるか?」
「うん、聞く。ちゃんとおりこうできる」
「ぼくも。ルリといっしょ。言うこときく」
こくこくと頷き、ライアを見つめる虹色の瞳は真剣そのものだ。やんちゃで困るというほどでもない二人のことだから、約束は守るだろうけれど。
「でも、いいのかな……」
ユズルの言葉にライアが視線を持ちあげて、子供っぽく笑った。
「大丈夫。守るよ」
その短い言葉がユズルの胸に沈み込んでいく。ライアの声に髪の毛の先ほどの不安もない。心配性のユズルの性格だから、両手を上げて賛成もできないけれど、それでも双子が真剣に何かをお願いしてくることも珍しかった。
健やかに成長はしているが、それでも一般的な年齢より規制されていることも多いし、それを嫌がるわけでもない。むしろ小さいながらに受け入れているところを考えると、今回のこともわがままとは思わない。むしろそうさせてあげたい気持ちももちろんある。
「分かった……おとうさまがいいって言ったら。ね」
ユズルは諦め、小さく笑った。レーゼが駄目だと言えばあきらめるだろうとも思ったからだ。
「ええ!? ユズル本気?」
イチカが驚き声を上げた。栗色の瞳が見つめる先で、ユズルは苦笑する。優し気な眉を下げ、愛する双子たちの言うことには結局敵わない自分がおかしいく思える。
「あとはレーゼ様にお任せするよ」
そう言って、小さな二人分の手を取った。
レーゼはユズルが思うよりあっさりと、双子の外出を認めた。
ただし混雑している街の中心地にはいかない。必ずユズルとライアの言うことを聞くこと。この二つだけが条件だった。
「俺も行きたいぃぃ」
二人分の準備をするためにいそいそと動いているユズルを見ながら、イチカは恨めしいばかりの顔でぼやく。
ユズルが器用にルリたちの髪の毛を三つ編みにしていく。白く細い手が子供の艶やかな髪を手早く編んでいくそれを眺めながらライアは呆れた声を投げた。
「お前、これから仕事だろう?」
不規則な勤務はライアだって同じだ。今日はたまたまライアが休日、イチカが午後からという具合だった。
「俺がユズルに会いたくて来たのに、なんでお前がユズルと一緒に過ごすんだよッ」
不満の治まることのないイチカがライアを睨みつける。納得いかないと、ソファに腰を下ろして並んでいる隣のライアの足を軽く蹴った。
「いて。……八つ当たり反対」
「当たりたくもなる。お前にユズルはあげたくないしな」
長い脚を組み、その膝の上に頬づえをつきながらイチカは言った。その言葉にライアが一瞬息をのんだが、それから視線をユズルに戻し微笑した。
「俺は、そんなんじゃない」
「ん?」
呟くその声にイチカが片方の眉をくいと上げた。少し意地悪っぽく笑いながら、ライアと同じように視線をユズルに流す。
「意地張ってもいいことなんかないぞ」
「そんなもん張ってない」
「張ってる」
「張ってない」
「……意地じゃないならなんなんだよ」
イチカの言葉に、深い海の瞳をライアは動かす。視界の端にユズルを捉えながら、決してユズルと視線が交わらないように。それはまるで気持ちを重ねないとでも言うように。
ほんの少しの――加減だ。
「俺とユズルは友達だよ。これからだってそれは変わらない」
重ねようとはしないが、それでもユズルを追い出そうとしないその視線の奥底に、何かを秘めていた。イチカはそれが何かを理解することはできないが、ライアは冗談でそんなこと言う性格ではないことも分かっている。
「お前の考えることはよく分からないや」
今は何をどうしたってライアのそれを読み解くことはできなさそうだと、イチカは小さくため息を落とした。
「俺も、よく分かってないんだ」
ライアは小さく笑った。子供っぽくなる笑顔は昔から何一つ変わっていない。まじめで器用なのだが、それでも自分や近しいものに対しては妙に不器用な性格だ。
「分かったら教えてくれ」
イチカが少しぶっきらぼうに言うと、ライアはますます子供みたいに笑った。
そのあとは二人とも特に何を話すでもなく、身支度を整えるユズルと双子を眺めていた。
白のシャツに紺色のズボンをはいた双子は、薄青いベールを巻いてもらっている。早く外に出たくてワクワクしている様子が手に取るように感じられる。
その世話をしていたユズルと言えば、自室に戻って着替えをしていたのだろう、いつもの司祭服ではなく、襟もとに花の刺繍が施された白いシャツに濃い紫のズボンを着用していた。
「やば。ユズル可愛い」
思わずイチカが零した。確かにいつも見慣れているものとは違う服装をしているから、とても新鮮だ。
しかもユズルの華奢さから言えば、男性用のシャルワールはサイズが厳しい。だからきっとこれは女性用なのだろう。が、それが似合いすぎている。
ユズルには決して言わないでおこうと、二人が固く誓うほどに。
「へん、かな?」
あまり二人が見つめて来るので、ユズルが不安そうに眉を寄せた。長いプラチナブロンドの髪を片側の耳の下で緩く束ねている様子でさえ、可憐さを増しているように見えた。
「よく似合ってるよ」
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