せっかく転生したのに得たスキルは「料理」と「空間厨房」。どちらも外れだそうですが、私は今も生きています。

一章 それから充実した環境を手に入れるまで

一食目 転生、ね。

ああ、死んだんだって思った。
青信号になったら、右、左、右。30年弱前からずっと守っているルール。
よし、歩こうと思った瞬間、右側からものすごい勢いでトラックが突っ込んで来たのだ。
痛みが瞬間から襲ってきた。
死ぬことについて悔いはない。特になにか突出しているものがあるわけでもないし、別に友達もそう多い方ではなかった。つまり、平凡で平均な人間。
職場に彼氏なんていない。営業成績も良いわけじゃないし。
ただ、料理が好きだった。
今日だって、家で自家製のパンにデパ地下でお惣菜系買ってサンドイッチみたいにして、ついでにスイーツも買ってドラマ見ようと思ってたのに。
思うことは、ただそれだけだ。

だんだん、痛みが薄れてきた。
もう、何も思わない。何も感じない。
じゃあね、、、、



耳に風の音が気持ち良い。
何も感じていなかったはずなのに。まさか、病院にいるの？
けれど、まぶたは上がらない。
そう思った瞬間、黒歴史をいくつか思い出した。
作文とか、作文とか。
消去してから死にたかったなと思った。まあ、死んでないかもしれないけど。

そう思って、ガバっと体を起こした。
「うっそ、ココどこ、、、」
わたしが目を覚ましたのは、森の中だった。人も少ない。通りで風の音が心地よく感じられたんだと理解した。
、、、！
首に冷たいものが当たる感じがした。
まだよく動かない体で恐る恐る後ろを見ると、そこには犬、、、いや狼か？の尻尾と耳がついている人がいた。
そして、その人はわたしの首にナイフを当てている。
一瞬遅れて、わたしは行動に移した。
「、、、、いやああああああ！」
そう、叫んだのである。

が。
「いいから黙れ。見つかるとまずい。」
その獣人は恐ろしい声でそう言い、こちらを睨んだ。
「ふむ、見たことがないな。人間領の者にしちゃ珍しいな。銀の髪と金の目、、、さてはお前、ドエ・フルッソか。
それはまずい。本来ならお前は奴隷にして売り飛ばそうと思っていたが、やめにしておこう。その代わり、スキルをいただこう。」
ドエ・フルッソ。意味がわからないのにそんな言葉を言われては困る。
それに、「スキルをいただく」発言。それはもっとよく分からない。
奴隷にされて売り飛ばされるよりはマシなんだけど。
ついでに、わたしは銀の髪と金の目をしているらしい。
地球では見たことがない。
つまり。

わたしは異世界にいる。そしておそらく、80％位の確率で転生した。
よりによって何故わたしなのかと思う。何の取り柄もないのに。
そんな事を考えていると、獣人は注射器か何かを取り出し、わたしの腕に刺した。
ぷす。
音がした。わたしは血を抜かれている。刺されている部分に痛みを感じるから確かにそうなのだろう。
そして、血がメモリまで達すると金色に光った。注射器全体が。
「え、、、？」
そして、もう一つ発見した。
先程の「スキルをいただく」発言と注射器が光ったことを合わせて考えるとおそらくここには魔法がある。
スキル制なら、冒険系ゲームに近いはず。

さて、光った注射器以外にも、獣人は大きな紙と円形の何かを取り出している。
何をするのだろうか。
すると獣人は、やにわに注射器を押して紙の上に血を垂らした。
紙に何が起こっているのかは分からないが、裏側から見たらわたしの血が紙の中心から広がっていって、やがて吸収されたのか止まっているのが見えた。
獣人は何やら期待するような顔から、血が吸収されて止まったのを見た瞬間に無表情になった。
そして、ぎょっとしたようにこちらを見た。
数秒フリーズした後、その獣人はこちらに話しかけてきた。
「実に不思議だな。ドエ・フルッソなのにラムザ・ランクのスキルだなんてなあ、、、哀れな女だ。俺にはんなクズスキル必要ない。奪う気もお前のせいで失せちまったよ。そんな格好じゃあ金目の物も持ってなさそうだし。」
そして、獣人はわたしの目の前に紙を突き出してきた。
けれど、わたしはそこに書いてあった文字を読めなかった。
、、、これでスキルが分かるのかな。

あの人に聞いてみたかったけれど、獣人は、目の前でとんぼ返りをするとどこかへ消えてしまった。