上 下
5 / 10
一章 マルジュシエールの姫君

ⅴ クレープを作ろう

しおりを挟む
リリアーナから報告を受けたらしく、コンチェッタがやってきた。
紫とピンクの間くらいの髪の色をしていて、目は青。なんともファンタジーな外見だ。
「ファスモーデュ様、お茶会をなされるのですよね?では、持参する菓子類はどうしましょう?」
ここのお菓子は、基本甘い。さっきの朝食で実感したし、記憶でも甘いお菓子ばかりだった。
となると、甘い系のお菓子がやはり良いのではないだろうか。
フィルクガローレは、現在7歳のわたしの5つ上の12歳。それくらいの年代の女子で好きなスイーツと言えば、あれしか無い!
「コンチェッタ、小麦、、、じゃなくてヴィオラーン粉に砂糖と牛乳と卵を混ぜて、焼いた薄い生地に果物を乗せて食べるような菓子は無いかしら?」
ヴィオラーンというのは、こっちで言う小麦。とうもろこしっぽいマイスヌールと並んでテルマジェール二大穀物の一つだ。確か、「ヴァルキューレ・プリンセザ」のデータブックで読んだ。
あったら楽なんだけど、と思ったが、思い虚しく
「、、、そのような菓子は見たことがございません。作り方を知っていれば、紙に書き写してください。エレオノールにお願いすると良いでしょう。字が綺麗ですから。」
なんと、無かったらしい。
残念。ショック極まりない。
、、なら、いっそ作っちゃえば良いんじゃない?
料理でフィルクガローレを仲間にしよう作戦が始動した。

コンチェッタに呼ばれたのだろうか、エレオノールがやってきた。
深緑の髪に、茶色っぽい目。可愛い、というよりは綺麗な感じがする。
「お呼びと聞きましたので参りました。どうなさったのですか?」
「わたしが今から言う菓子の作り方について書き留めてほしいのです。」
「新しい菓子類か何かですか?」
「ええ、そうです。」
「分かりました。」
小学校の頃、わたしは調理クラブに友達に「一緒に入ろ!」と言われて入った時に、クレープを作ったことがあって、それから何度か家でも作ったことがあった。
なので、今でも覚えている。
「最初に、混ぜるための皿に、ヴィオラーン粉一カップと砂糖スプーン一つ分を入れて混ぜる。次に、カップ二杯分の牛乳を入れて、最後に卵を一つ入れて、すべてを合わせて混ぜる。」
するするとエレオノールは紙に書いていく。
いまいちこっちの字は良く分からないけれど。
というのも読んでいくと自動で日本語に変換されていってしまうので、こっちの字を読んでいく時間がないのだ。それに、文字も全く書けないけれどひらがな・カタカナを書いていくと、全てこちらの文字に自動変換されていく。
俗に言う「転生特典」だろうか。
「書けました。」
「では、次です。温めた焼き用薄鍋に油を入れて焼きやすくして、先程混ぜた物を大スプーン二つ分ほど入れて焼きます。円形になっていくので、焦げない程度に焼いてください。」
何故かエレオノールがすごく不可解な顔をしている。
「書けたのですか?」
「書けました。書けましたが、、、ファスモーデュ様は一体どこでこれを知ったのですか?」
普通の貴族は、厨房には出入りしない。
だから、どうやって作るのか知らない。
まさか、開き直って「前に違う場所で生きた記憶があるのです」なんて言えない。
、、、どうする?
、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
「お、お母様が教えてくださったのです。それをたまたま覚えていただけで、、、おそらくセルディールで食べられていたのかと思います。そういえば、お母様は子供の時疎まれていたそうですから、そこで思いついたのかもしれませんし、、、」
一応納得の表情をエレオノールが見せた。
危ないところだった。
「つ、続けて良いですか?」
「あ、はい、、、」
「その後は生地に色々と乗せるのですが、エレオノール。」
個人的には昔食べたシナモン焼きリンゴクレープが食べたい。
「はい?」
「今頃よく取れる果物はないかしら?」
「、、、ボムジュントかブルティート、あとはルミエーメの砂糖漬け辺りでしょうか。」
だめだ。分からない。ホールド・アップ。
「ヴァレリアーナ、果物についての本を持ってきてくださいませ。」
本に頼ろう。
「分かりました」

さっと部屋を出て、二階にある図書室へ行ってくれたのだろうか。
すぐに帰ってきた。
「ありました。」
どうやらこれは植物の載っている図鑑のようなものらしい。
「ありがとう。ボムジュント。ボムジュントね、、、」
パラパラとページを捲っていく。
「あの、オートシャーシと唱えれば、一発で探し当てられますよ?」
なんと、そうだったらしい。
「高度魔術は杖を使わなければ使えませんが、このような日常生活レベルなら指輪を使えばできますよ。」
わたしの右手の薬指に、複雑な色の指輪がついていた。
ただ単にアクセサリーだと思っていたが、実は違ったらしい。
エレオノールの言うとおりに、
「オートシャーシ」ととなえた。
すると、ボムジュントに該当するページがいきなり出てきた。
イラスト付きで。
「りんご?みたいな感じがするけど、黄色、いや金色?どっちにしろ少し違う、、、」
その後調べたブルティートはぶどうだけれど青で少し小さく、ルミエーメはオレンジが近い果物だった。
「チーズはあるのかしら?滑らかで水分の多い物よ。」
クリームチーズが良い。
「ありますよ。」
「そう。なら、ブルティートとそのチーズを生地に載せるよう書いておいてちょうだい。あと、ブルティートのソースはあるかしら?」
「おそらくあると思います」
シュゼットは、騎士。
黒髪・黒目で鎌系の武器が上手なようだ。
、、、死神?

ブルブルと頭を振って、その考えはどこかへ消し飛ばしておく。怖い。
「そうしたら、そのソースを上にかけるよう書いておいてください。そして、誰か地下の厨房に行って、料理長にこのレシピを渡しておいて置くようにしてください。」
「わたくしが行きます。」
レシピを取ると部屋を出て、階段を駆け下りていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界王女に転生したけど、貧乏生活から脱出できるのか

片上尚
ファンタジー
海の事故で命を落とした山田陽子は、女神ロミア様に頼まれて魔法がある世界のとある国、ファルメディアの第三王女アリスティアに転生! 悠々自適の贅沢王女生活やイケメン王子との結婚、もしくは現代知識で無双チートを夢見て目覚めてみると、待っていたのは3食草粥生活でした… アリスティアは現代知識を使って自国を豊かにできるのか? 痩せっぽっちの王女様奮闘記。

この度、お姉様とお母様ができました。しかし、扱いが異常です。

リーゼロッタ
恋愛
リネストリア王国唯一の大公、それが私クラウディア。 この度、私のクズ自称大公の父が後妻を迎える事になったけれど、、、

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜

ワキヤク
ファンタジー
 その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。  そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。  創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。  普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。  魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。  まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。  制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。  これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。

倒すのが一瞬すぎて誰も見えなかった『絶対即死』スキルを持った暗殺者。護衛していた王子から何もしない無能と追放されてしまう

つくも
ファンタジー
「何もしない無能暗殺者は必要ない!お前はクビだ! シン・ヒョウガ」 それはある日突然、皇子の護衛としてパーティーに加わっていた暗殺者——シンに突き付けられた追放宣告。  実際のところ、何もしていなかったのではなく、S級の危険モンスターを一瞬で倒し、皇子の身を守っていたのだが、冗談だと笑われ聞き入れられない。  あえなくシンは宮廷を追放される事となる。  途方に暮れていたシンは、Sランクのモンスターに襲われている少女を助けた。彼女は神託により選ばれた勇者だという。 「あなたの力が必要なんです! 私と一緒に旅をして、この世界を救ってください!」 こうしてシンは彼女のパーティーに入り旅に出る事となる。  ――『絶対即死スキル』で魔王すら即死させる。これは不当な評価で追放された最強暗殺者の冒険譚である。

公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)

音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。 魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。 だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。 見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。 「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。

処理中です...