聖夜戦記サンタロボ

平良野アロウ

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最終話

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 クリスマス当日は、殆どのパイロットが任務での疲れを癒すため昼過ぎまで寝て過ごす。しかし任務の報告書を書くなどやらねばならない仕事はまだ残っているため、一日中寝ているわけにはいかない。
 早めに起床した修二は、シャワーを浴びた後早速机に向かって報告書を書き始める。十代の頃はこんなこと面倒くさくてやってられないと、紙いっぱいの大きな字で「俺最強」とだけ書いて提出したこともあった。しかし現在は至極真面目に書いている。
 丁度その時、修二の携帯が鳴った。
「はい、荒巻です」
「わしじゃよ。起きておるかね荒巻少佐」
 電話の相手は田中将軍である。
「勿論起きております」
「そうか、ならば一度わしの部屋に来てもらえんか」
「了解しました」
 これは天宮の実家の一件がバレたな、と修二は思った。お叱りを受けるのも随分と久しぶりのことである。
 修二は制服に着替え身なりを整えた後、まだ寝ている和樹を置いて部屋を後にした。

「失礼します」
 修二が来ると、司令官執務室の扉が自動で開く。
「おお、来たか荒巻少佐。さあ、座りなさい」
 椅子に通されて、修二は腰掛ける。田中将軍もそれに向かい合って座った。秘書官が二人にお茶を持ってくる。
「先日はよく戦ってくれた。君のお陰で麻田将軍の野望は未然に終わったと言ってもいい。君のような者を部下に持ってわしも鼻が高いというものじゃ」
「私は命令に従って鎮圧したまでです。それよりも、麻田将軍の野望というのは……」
「うむ、端的に言うならば人間界侵略じゃ。サンタクロースを隠れ蓑に、見えない軍隊で人間の街を制圧しようとか考えとったようじゃ」
「それはまた随分と無謀な」
「まったく馬鹿な奴じゃよ。いかに我々の科学力や軍事力が優れていようと、あの巨大生物が操る巨大兵器にはそうそう勝てん。相手が民間人のサンタ狩りだからどうにかなるのであって、軍隊とやり合えば姿が見えないことにもすぐ対策を取られるじゃろうて」
「違いないですね。私でも人間の軍隊とだけは戦いたくありませんよ」
 麻田将軍のあまりに大それた計画に、修二は呆れ果てていた。
「あの後麻田将軍も拘束されてな、今は絶賛投獄中じゃ。しかも取り調べの結果とんでもないことも明らかになった」
「と、言いますと」
「あいつはまず東のエースである久瀬少佐をブラックサンタに乗せたいと考えてな。彼が人間を強く憎むよう、彼の恋人であった佐野大尉の機体に細工を施し謀殺したのじゃ」
「な……!」
「久瀬少佐は結局それにまんまと乗せられ、サンタ狩りへの復讐を胸にブラックサンタのパイロットへと志願したというわけじゃよ」
「彼も被害者だったのですね……」
 久瀬のあの血の涙と悲痛な叫びは、直接戦った修二自身が一番よく知っている。それを考えると、どうにもやりきれない気持ちになった。
「久瀬隊の者達は騙されてやったようなものじゃからな。情状酌量はあるじゃろう」
「そうであって欲しいですね」
「まあ、何にせよ今回は君のお手柄じゃ。胸を張って行くがよい」
 田中将軍は立ち上がって、修二の肩を掌で叩く。
「その、それで話というのはそれだけですか?」
 自分の席に戻ろうとする将軍に、修二が尋ねた。
「む、何じゃ、もしかして怒られると思って来とったんか?」
「あ、いえ、それは……」
「何をやらかしたか知らんが、君は命令無視して勝手なことやったら何故かそれが組織の利になるような奴じゃからな。どうせ今回も結果オーライなんじゃろ」
「そんないい加減な……」
「天宮軍曹にとってもきっといい方向に行ったはずじゃ。胸を張って行きなさい」
「……はい」

 この日の夜からは、中央ホールでクリスマスパーティがある。目を覚ました隊員や職員達が、揃って中央ホールに集まっていた。
 壇上に立つのは、田中将軍である。
「えー、今年のクリスマスミッションは、無事に死者ゼロ名で乗り切ることができました。これも諸君らの頑張りの結果じゃ。わしは大変嬉しく思っておる。それでは今年もクリスマスを祝い、乾杯!」
 その場にいる隊員や職員が、一斉に杯を掲げた。
 今日もこのホールの中心にはあの旧式サンタロボが静かに佇んでいる。普段はピカピカに磨かれているこの機体だが、今日に限っては傷だらけであった。久しぶりにサンタロボとしての職務を全うしたことを示す、勲章の傷跡である。
「よう修二、聞いたぜ活躍は」
 旧式サンタロボを見上げる修二に、海道大佐が声をかける。
「大佐」
「サンタロボで覇天ベースの機体を倒したって、全くお前はどこまでも規格外だな」
「俺一人の功績じゃありませんよ。部下達がいてくれたからです」
「ほう……」
 昔の自己中心的な修二からは信じられないような言葉が出て、海道は感心した。
「そうだ修二、今人間のSNSで話題になってるものがあってな」
 そう言って海道は、携帯を取り出す。その画面に映るページには「サンタクロースが見えない怪獣と戦って町を守っている?」という見出しと共に、デビルモードと戦うサンタロボの動画が載っていた。
「こ、これは……」
「ちょっと派手にやりすぎたな。人間にはこれに映るブラックサンタは見えてなくて、お前が見えない怪獣と戦ってるように見えるんだろう」
 そこに付いた人間達のコメントでは、自分達の命を狙うサンタ狩りさえも救う姿を指して「聖人」と形容するものもある。
「こいつをきっかけにサンタ狩りが減ってくれれば嬉しいんだがな」
「ええ、そうですね」
 そうやって話していると、向こうから修二を呼ぶ声。
「隊長ーーー!」
 ドレス姿の美咲と真琴が、こちらにやってきていた。美咲は胸元を大きく開き、スリットからも脚を覗かせる、露出度の高い紫のドレス。真琴は清楚なパールホワイトで、ミニスカート状のドレスである。
「坂本は?」
 修二は料理の台を指差す。和樹はすっかり料理に夢中の様子だった。
「どうですか隊長、私のドレス」
「ん、ああ。まあ、いいんじゃないか」
 真琴の問いに、修二はそっけない反応で無難に返す。
「さーて、そんじゃあたしもご飯にしてこようかしら」
 美咲は二人に手を振り、料理の台の方へと歩いていった。二人残された修二と真琴は、互いに顔を見合わせる。
「……あ、そうだ天宮。お前、あれ両親にあげて本当によかったのか? あのゲームやりたかったんだろ?」
 少しきまずくなったので、修二はとりあえず話題を切り出す。
「……はい。あれは人間の私が貰うべきプレゼントですから」
 真琴の返答に、修二は沈黙する。
「私、ほんとは覚悟が足りてなかったんです。まだ人間への未練があったんです。でも、お父さんとお母さんに会えてすっきりしました。これで人間の私とはさよならです。これからは小人の私として、サンタさんのお仕事を精一杯がんばっていきます!」
 そう言い切ると、気合を籠めて両手でガッツポーズ。修二の頬が、自然と緩んだ。
「そうか、そいつはよかったな」
「はい! なのでこれからも、ご指導の程、宜しくお願いします!」
「ああ、こちらこそ」
 修二はフッと笑い、真琴と握手を交わした。もう何も心配はいらない。彼女とは上手くやっていけると、そう確信を持ったのだ。
「立派な隊長の顔になったじゃねえか、修二」
 海道はそんな様子を見て、安心した顔。
「それはそれとして隊長、今日はせっかくのクリスマスパーティです。めいっぱい楽しみましょう!」
 テンションの上がった真琴はぴょんぴょんと飛び跳ねていた。
「メリークリスマスですよ、隊長!」
「ああ……メリークリスマス」
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