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第11話
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基地に戻って修二達は報告書を書き上げた後、黒柳に手渡す。
「報告は以上です」
「お疲れ様です、荒巻隊の皆さん。天宮軍曹は初めての調査任務、いかがでしたか?」
「はい、とても良い経験になりました!」
「そうですか、それはよかった。今はこうして卓越した操縦技術の軍人さんが直接出向いて調査して下さるから、我々としてもとても助かりますよ。人間から認識されない機体で人間の住居に行くだなんて、私だったら怖くてとてもできませんから」
「黒柳さん、以前はパイロットだったんですか?」
「ええ、民間時代には旧式サンタロボに乗ってプレゼント配達をしていました。パイロットが全て軍人に置き換わる際に、こちらの部署に異動しましたがね」
「そうなんですかー」
「直接子供達にプレゼントを配ることができなくなったことには寂しくも感じますが、結果的に今の形になって良かったと思いますよ。私がパイロットをやってた頃は、手紙を出さない子には推測でプレゼントを決めるしかなかった。手紙の内容が疑わしい場合もそれをあげるしかなかったんですよ」
パイロットが軍人に置き換わった直接の理由はサンタ狩りに対抗するためであるが、結果としてそれはサンタクロース協会に大きな躍進をもたらすこととなった。軍の技術がサンタクロース協会にも使われるようになったのである。
バトルロボをベースとして作られた新型サンタロボと、戦闘機をベースとして作られたトナファイターの導入。それによってプレゼント配達も手紙の回収も安全性や効率が段違いに上昇し、トナファイターの機能を使った情報収集によって子供が本当に欲しがっている物をプレゼントすることが可能となった。
軍がサンタクロース協会に介入したことは市民からネガティブに見られがちであるが、その恩恵は非常に大きかったのである。
「ああ、そういえば天宮軍曹、貴方の過去については田中将軍から聞いておりまして」
「そうなんですか」
「実は貴方に渡しておきたい物があったのですよ」
黒柳はそう言って、机の引き出しを開けて何かを取り出す。
「あっ、それ……!」
真琴は身を乗り出して驚く。それは一本のゲームソフトであった。それも人間製のもの。発売は三年前であり、今はもう旬を過ぎた作品である。
だが真琴にとって、それは特別なものであった。
「それ……私が十二歳のクリスマスに頼んだソフトですよね? 事故で死んじゃって結局貰えなかった……」
「ええ、貴方がイブ当日に亡くなられたため配達されず倉庫に眠っていたものです。名前を聞いてピンときましたよ」
「わぁー、ありがとうございます!」
感動のあまり目を輝かせながら、真琴はゲームソフトを受け取る。
「よかったわね真琴ちゃん」
「はい!」
真琴はソフトを胸に当てて、満点の笑み。
「それにしても、三年前のプレゼントをよく取ってありましたね」
和樹が尋ねる。
「ええ、一応在庫として置いておくという形ではあったのですが、亡くなった子へのプレゼントを他の子にあげるというのも気が引けて。翌年以降にこのソフトを頼んだ子には別のものを買い直してあげていたんですよ。まさかこうして本人に渡せる日が来るとまでは思っていませんでしたが」
「流石は黒柳部長、こういう人の良さが評価されて出世するんスね」
「いえいえ、勤務年数が長いから勝手に上に上がっちゃっただけですよ」
和樹と黒柳が和気藹々と話し真琴と美咲も笑顔でいる中、修二は一人しかめ面。
「……とりあえず今日はここで解散だ。各自自分で寮に戻れ。俺はバーで飲んでくる」
「りょーかーい。飲みすぎないように注意してくださいよ隊長」
去ってゆく修二を部下達は見送る。
「なんか隊長って、未だに私に対して距離ありますよね。私としてはもっと仲良くしたいと思ってるんですが……」
「あー……」
真琴がそう言うと、美咲と和樹は互いに目を逸らした。
「去年亡くなった矢野君には結構フレンドリーで、弟みたいに可愛がってたんだけどねー」
「隊長は自分のせいでタカシ君が死んだって思ってるから、そのことに負い目があって新人と仲良くするのを怖がってるのよ」
「まあ口が悪くて言葉に棘があるのは元からだし、そんなに気にしなくていいんじゃない?」
「そうですか……矢野准尉の件に関しては私も田中将軍から聞いて知っていましたが……デリケートなことですから不用意には触れられないですよね。どうしたら隊長に元気になってもらえるんでしょう?」
「うーん、じゃあこういうのはどうかしら」
何か悪戯を考え付いた表情で、美咲が微笑んだ。
一方、プレゼント管理部を出たところで、修二はスマートフォンを手に取る。
「あ、大佐、俺です。こんな遅くにすみません。今からバーに来てもらってもいいですか」
修二がバーのカウンターで一人待っていると、海道大佐が入ってきて隣に腰掛けた。
「よう修二。さっき立川が杉内に引きずられてたが、あいつ何やらかした?」
「盗撮らしいですよ。このバーで酔って暴露してたとか」
「ふーん。で、こんな遅くにどうした。さっきの任務で何かあったのか」
「それが……まずどこから話していいか……」
「天宮軍曹の出生についてか?」
「大佐、知ってらしたんですか?」
「前に田中将軍から聞かされた」
(あの将軍、秘密守る気無いんじゃないのか)
とはいえ黒柳は一部署を任された重役であり、海道は修二の良き相談相手と見込まれてのことである。田中将軍とて無節操に秘密をバラしているわけではないのだ。
「まあ、知っているなら話は早いです」
前提として真琴が元人間であることを話す必要がなくなったので、修二は早速本題に入る。
「天宮は凄く優秀で、今のところ命令無視も無い。完璧と言ってもいい状態です。しかし一つ気になることがありまして……」
「天宮のケツに欲情して仕事が身に入らないと。いいケツしてるもんなあガキのくせに」
「違いますよ。何言ってるんですか」
「お前が前に酔って言ってたことだぞ」
「……話を戻します。普段の訓練中には問題が無かったのですが、人間の町に行った際に異変がありまして……」
修二は人間界ミッションでの真琴の様子について話す。
「天宮はまだ人間として生きることに未練がある……そう感じられるんです。うちの隊はクリスマスミッションでは天宮の住んでいた町も管轄に入ります。そうなれば当然、天宮は自分の住んでいた町に下りることになります。そこで彼女が暴走してあらぬ行動に出る可能性が考えられるんです」
「考えすぎじゃあないのか。誰だって故郷の町を久々に見たら懐かしい気持ちになる。俺だってそうだ」
海道も和樹と同じことを言う。
「それは普通の場合です。彼女は一度死んで全く違う環境に来た。家族や友達と突然別れて、二度と会えなくなったんですよ。常識で考えられる話じゃない」
修二はグラスを握り締め、一気に飲み干す。
(こいつまた自棄飲みしてんな)
海道は修二の肝臓が心配になった。
「それにあいつはガキだ。子供の感情を大人の思考で考えられるものか」
「ああ、十代の頃のお前を知る分それはよくわかる。だがあの素直な優等生の天宮が、お前や矢野のようにおかしなことをするもんかね?」
「だが突然命令無視して暴走し出す可能性も……」
「矢野の件がトラウマなのはわかるが、お前は命令無視を恐れすぎだ。これは俺がここの隊員で一番命令無視されることに慣れきってるからかもしれんが、そこまで過度に気にし過ぎるほどのものじゃない。もっとふてぶてしく行けよ、昔のお前みたいに」
海道はそう言って修二の背中を掌で叩いた。
「……それができれば苦労はしませんよ」
翌日の午後。今日は一日訓練であり、修二の懸念である人間界ミッションも無かった。
訓練を終えて自販機でジュースを飲んでいると、真琴が修二に話しかけてきた。
「あのー隊長、今度の日曜日って何か予定ありますか?」
「いや、特に無いが……」
「だったら、私と二人で街に行ってみませんか?」
上目遣いで言ってくる真琴。突然の打診に、修二は目を丸くした。
小人の社会でも、日曜日は休日である。普段は基地に押し込められて訓練に明け暮れている隊員達も、この日は街に出て羽を伸ばす者が多い。
「……まあ、別に構わんが。急にどうした?」
「せっかく隊長の部下になったんですから、もっと隊長と仲良くなりたくって。その日一日、私が隊長の妹になりますね!」
「は?」
あまりに意味不明な言葉に、修二は素でそんな声が出た。
「報告は以上です」
「お疲れ様です、荒巻隊の皆さん。天宮軍曹は初めての調査任務、いかがでしたか?」
「はい、とても良い経験になりました!」
「そうですか、それはよかった。今はこうして卓越した操縦技術の軍人さんが直接出向いて調査して下さるから、我々としてもとても助かりますよ。人間から認識されない機体で人間の住居に行くだなんて、私だったら怖くてとてもできませんから」
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「ええ、民間時代には旧式サンタロボに乗ってプレゼント配達をしていました。パイロットが全て軍人に置き換わる際に、こちらの部署に異動しましたがね」
「そうなんですかー」
「直接子供達にプレゼントを配ることができなくなったことには寂しくも感じますが、結果的に今の形になって良かったと思いますよ。私がパイロットをやってた頃は、手紙を出さない子には推測でプレゼントを決めるしかなかった。手紙の内容が疑わしい場合もそれをあげるしかなかったんですよ」
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バトルロボをベースとして作られた新型サンタロボと、戦闘機をベースとして作られたトナファイターの導入。それによってプレゼント配達も手紙の回収も安全性や効率が段違いに上昇し、トナファイターの機能を使った情報収集によって子供が本当に欲しがっている物をプレゼントすることが可能となった。
軍がサンタクロース協会に介入したことは市民からネガティブに見られがちであるが、その恩恵は非常に大きかったのである。
「ああ、そういえば天宮軍曹、貴方の過去については田中将軍から聞いておりまして」
「そうなんですか」
「実は貴方に渡しておきたい物があったのですよ」
黒柳はそう言って、机の引き出しを開けて何かを取り出す。
「あっ、それ……!」
真琴は身を乗り出して驚く。それは一本のゲームソフトであった。それも人間製のもの。発売は三年前であり、今はもう旬を過ぎた作品である。
だが真琴にとって、それは特別なものであった。
「それ……私が十二歳のクリスマスに頼んだソフトですよね? 事故で死んじゃって結局貰えなかった……」
「ええ、貴方がイブ当日に亡くなられたため配達されず倉庫に眠っていたものです。名前を聞いてピンときましたよ」
「わぁー、ありがとうございます!」
感動のあまり目を輝かせながら、真琴はゲームソフトを受け取る。
「よかったわね真琴ちゃん」
「はい!」
真琴はソフトを胸に当てて、満点の笑み。
「それにしても、三年前のプレゼントをよく取ってありましたね」
和樹が尋ねる。
「ええ、一応在庫として置いておくという形ではあったのですが、亡くなった子へのプレゼントを他の子にあげるというのも気が引けて。翌年以降にこのソフトを頼んだ子には別のものを買い直してあげていたんですよ。まさかこうして本人に渡せる日が来るとまでは思っていませんでしたが」
「流石は黒柳部長、こういう人の良さが評価されて出世するんスね」
「いえいえ、勤務年数が長いから勝手に上に上がっちゃっただけですよ」
和樹と黒柳が和気藹々と話し真琴と美咲も笑顔でいる中、修二は一人しかめ面。
「……とりあえず今日はここで解散だ。各自自分で寮に戻れ。俺はバーで飲んでくる」
「りょーかーい。飲みすぎないように注意してくださいよ隊長」
去ってゆく修二を部下達は見送る。
「なんか隊長って、未だに私に対して距離ありますよね。私としてはもっと仲良くしたいと思ってるんですが……」
「あー……」
真琴がそう言うと、美咲と和樹は互いに目を逸らした。
「去年亡くなった矢野君には結構フレンドリーで、弟みたいに可愛がってたんだけどねー」
「隊長は自分のせいでタカシ君が死んだって思ってるから、そのことに負い目があって新人と仲良くするのを怖がってるのよ」
「まあ口が悪くて言葉に棘があるのは元からだし、そんなに気にしなくていいんじゃない?」
「そうですか……矢野准尉の件に関しては私も田中将軍から聞いて知っていましたが……デリケートなことですから不用意には触れられないですよね。どうしたら隊長に元気になってもらえるんでしょう?」
「うーん、じゃあこういうのはどうかしら」
何か悪戯を考え付いた表情で、美咲が微笑んだ。
一方、プレゼント管理部を出たところで、修二はスマートフォンを手に取る。
「あ、大佐、俺です。こんな遅くにすみません。今からバーに来てもらってもいいですか」
修二がバーのカウンターで一人待っていると、海道大佐が入ってきて隣に腰掛けた。
「よう修二。さっき立川が杉内に引きずられてたが、あいつ何やらかした?」
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「ふーん。で、こんな遅くにどうした。さっきの任務で何かあったのか」
「それが……まずどこから話していいか……」
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「前に田中将軍から聞かされた」
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「天宮は凄く優秀で、今のところ命令無視も無い。完璧と言ってもいい状態です。しかし一つ気になることがありまして……」
「天宮のケツに欲情して仕事が身に入らないと。いいケツしてるもんなあガキのくせに」
「違いますよ。何言ってるんですか」
「お前が前に酔って言ってたことだぞ」
「……話を戻します。普段の訓練中には問題が無かったのですが、人間の町に行った際に異変がありまして……」
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「天宮はまだ人間として生きることに未練がある……そう感じられるんです。うちの隊はクリスマスミッションでは天宮の住んでいた町も管轄に入ります。そうなれば当然、天宮は自分の住んでいた町に下りることになります。そこで彼女が暴走してあらぬ行動に出る可能性が考えられるんです」
「考えすぎじゃあないのか。誰だって故郷の町を久々に見たら懐かしい気持ちになる。俺だってそうだ」
海道も和樹と同じことを言う。
「それは普通の場合です。彼女は一度死んで全く違う環境に来た。家族や友達と突然別れて、二度と会えなくなったんですよ。常識で考えられる話じゃない」
修二はグラスを握り締め、一気に飲み干す。
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海道は修二の肝臓が心配になった。
「それにあいつはガキだ。子供の感情を大人の思考で考えられるものか」
「ああ、十代の頃のお前を知る分それはよくわかる。だがあの素直な優等生の天宮が、お前や矢野のようにおかしなことをするもんかね?」
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「……それができれば苦労はしませんよ」
翌日の午後。今日は一日訓練であり、修二の懸念である人間界ミッションも無かった。
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「あのー隊長、今度の日曜日って何か予定ありますか?」
「いや、特に無いが……」
「だったら、私と二人で街に行ってみませんか?」
上目遣いで言ってくる真琴。突然の打診に、修二は目を丸くした。
小人の社会でも、日曜日は休日である。普段は基地に押し込められて訓練に明け暮れている隊員達も、この日は街に出て羽を伸ばす者が多い。
「……まあ、別に構わんが。急にどうした?」
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