ヤンキーVS魔法少女

平良野アロウ

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第八章 最終決戦編

第139話 花梨VSポタージュ

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 花梨は戦闘には参加せず回復役に専念する。そう言った矢先に、早くも花梨がステージに上げられていた。
 恐るべき念動力。自分の戦いたい相手をこちらから選んで強制的に戦わせられるアドバンテージは、戦略上とてつもなく大きい。ましてやそれが、一人しかいない回復役を潰すという用途であるならば尚更だ。
「さーて、この娘が脱落すれば君達は回復の手段を絶たれる的な。これであとはもう僕らの圧勝的なー」
 余裕ぶっこいているポタージュとは対照的に、自分の役割を万全に果たすことができないと解った花梨は辛苦の表情。
「花梨!」
 が、そこで拳凰が花梨の名を呼ぶ。
「回復役だからとか気にしねーで、思いっきり全力で戦ってこい!」
「ちょっと最低寺何言ってんの!?」
「いや、拳凰の言うことが正しい。どの道一度ステージに上げられたならもう戦うしかないのだ。ならば消費を気にせず全力で戦って勝つことが、回復役を生き残らせる上で最善と言える」
 拳凰の発言に反論する智恵理だったが、デスサイズが拳凰を支持。
「わかったよケン兄! 私がんばる!」
 花梨は右手に巨大注射器を生成、戦うことに意欲を見せる。
(最強寺さん、いつの間にか白藤さんの呼び方が……)
 そんな中で幸次郎は拳凰が花梨をチビ助ではなく名前で呼んでいたことに気付いたが、今はそういう空気ではないので指摘するにできなかった。

 ポタージュは早速生成したナイフを、ヒュンと風切り音を鳴らして投げる。念動力で操られたナイフは自由自在に軌道を変え、四方八方から花梨を狙う。対する花梨は天女の羽衣のように纏った包帯の防壁で、攻撃に備えた。
 ナイフは包帯の隙間をすり抜けて花梨本体へと迫るが、瞬時に包帯がナイフを縛って掴み塞き止める。だが一度掴んだ後もナイフはピクピクと動き包帯を切り裂こうとしてきた。花梨は包帯に籠める魔力を高めつつ、巨大注射器の先端をポタージュに向ける。
「おや~? 攻撃を躊躇ってる的な?」
 ポタージュは麗羅の吸血ファングに噛みつかれて血を流す右手を見せつけ、くすくすと笑う。
「君達と違って僕らは生身で戦ってるから、当然攻撃されたら傷付くし血も出る的な」
 優しい花梨の精神を揺さぶるかのように、ポタージュは煽る。すると花梨は注射針の先端を動かさぬままポタージュに話しかけた。
「ポタージュさん……貴方に尋ねたいことがあります」
「藪から棒に何的な?」
 突然の質問にぽかんとしつつも、話を聞いてやる姿勢のポタージュ。
「貴方は人間界との戦争に賛成してるんですか?」
 花梨がそう尋ねると一瞬ポタージュの眉が動くも、すぐ不敵な笑みに戻る。
「なーんだ、そんなこと的な。ま、ぶっちゃけできることなら避けたい的な。あんなめんどくさいことこの上ないこと、やりたくないに決まってる的な」
「じゃあどうして!」
「陛下に逆らったらもーっとめんどくさいことになる的な。それに僕ってばこれでも一応騎士だから的な。僕らの仕事は時に割り切りや非情な決断を求められる的だから」
「魔法少女を犠牲にすることも割り切ってるんですか!? 貴方が担当した魔法少女達を犠牲にすることも!」
「だからそれも割り切りだって言ってる的な!」
 ポタージュが声を張り上げて投げたナイフを、花梨は包帯で弾く。
「それなら私は……貴方を倒します!」
 ミサイルの如く巨大注射器を発射しポタージュを狙い撃つが、ポタージュはすぐさま念動力で巨大注射器の軌道を変え回避。
 瞬間、花梨はナイフに掛けられた念動力が弱まったのを感じた。包帯でナイフを握り潰して破壊しつつ、今度は小さな注射器を沢山生成し量で攻める。
 マシンガンのように怒涛の勢いで飛んで行く注射器に、ポタージュは自身の周囲に展開した無数のナイフをぶつけて相殺。花梨の攻撃が止むと、今度は花梨本体に念動力を向けた。
「っ……!」
 金縛りに遭ったような感覚に、花梨から苦しみの声が出る。

「ヤベエ! あの技を喰らったら……」
 実際に先程動きを止められた拳凰が、険しい顔をして言う。
 だがそれはあくまで、肉弾戦しかできない拳凰の場合だ。
 拳凰の不安とは裏腹に、花梨は十分な対抗策を用意していた。花梨の周囲には、再び多数の注射器が展開させる。たとえ体の自由を奪われても、魔法による道具の生成やその操作は可能なのだ。
 麗羅のように体を操作されて結界や床にぶつけられる前に、花梨は注射器を発射。ポタージュは今度は両手に持ったナイフを目にも留まらぬ速さで振り回し、一つ残らず切り捨てた。ムニエルの剣技にも劣らぬ神速のナイフ捌きを見せられて、花梨は愕然とした。
(この人……接近戦もできる!)
「おっ、その顔。びっくりしてる的な?」
 花梨の驚きに反応して、ポタージュは勝ち誇った顔。
「だから僕は天才的ぃ~なんだよね。ジタバタ動いて自分の手で武器振り回すのってめんどくさい的だからあんまやりたくない的だけど、やろうと思えば僕だってできる的な?」
 そう言い放ち、手にしたナイフをだるそうな動きで一本ずつ投げる。対する花梨は包帯でナイフを止めつつ、更に大量の注射器を生成。

「何考えてんの!? 同じ攻撃を三回も! しかもあんな魔力消費多そうな……」
「大丈夫だ! 花梨を信じよう!」
 不安がる智恵理に対し、同じチームで花梨を見てきた小梅は希望に満ちた表情。

(こいつ……もしかして気付いてる的な!?)
 ポタージュは一瞬苦い顔をするもすぐ余裕の表情に戻り、大量のナイフで注射器を破壊にかかる。
 その瞬間、右手に巨大注射器を装備した花梨が低空を飛行しながら瞬時にポタージュへと距離を詰めた。
「くっ、やはり気付いてた的な!」
 横に跳んで避けるポタージュであったが、そこに大量の注射器が飛来。同じ数のナイフをぶつけて打ち消すも、ポタージュの額には汗が流れていた。
「やっぱりそういうことだったんですね。沢山のナイフを操れてるからそれ以外のものも沢山操れるように見えましたけど、実際はそのナイフが特別なだけ。あなたは念動力で操れるものの数に限度がある!」
「ご名答、的な」
 花梨の暴いたポタージュの秘密。ポタージュはそれでも余裕の態度を崩さない。
 大量の注射器を防ぐ際にポタージュは念動力を直接ぶつけて操ることはせず、ナイフを操るか自ら手にしたナイフで防ぐことに徹していた。麗羅との対戦でも蝙蝠の大群相手に念動力を使うことはせず、麗羅が近接主体の戦い方をするようになってから麗羅を直接操る戦法を解禁した。そこから花梨は、ポタージュの魔法の特性を推測したのである。
「このナイフは僕の魔力を通しやすい特注品的な。僕はこれだけはいくらでも操れる的な!」
 次々とナイフを投げて花梨の接近を牽制しつつ、空中に生成された注射器を潰してゆく。念動力による操作は補助的なものに過ぎず、ポタージュの本領はナイフ投げの技術だ。魔力を使わずとも驚異的な命中精度を誇っている。
 ナイフの対応に追われる花梨は、自身の体の自由を奪われる感覚を覚えた。直後、後ろの結界に背を打ち付けられる。念動力をナイフの操作に使わないことで、花梨本体を操ることが可能となったのだ。沢山のものを同時に操ることができなくとも、操るものを瞬時に切り替える技術でカバーする。これぞ天才的な所業である。
 だがポタージュは、花梨が先程まで手にしていた巨大注射器が消えていることに気付いた。念動力を喰らう寸前、花梨が手放して飛ばしたのだ。
 背後から回り込んで飛来する巨大注射器を回避しようとしたポタージュだったが、避けきれず右肩に刺さる。すぐさま念動力で引っこ抜き粉砕するも、その身に生じた違和感に目を見開き片膝をついた。
「ぐ……これは……」
「麻酔薬を打ちました。これでもう動けません!」
「残念、たとえ動けなくとも僕には念動力が……」
 先程の花梨に対する意趣返しのように言うポタージュであったが、自身の周囲に沢山の注射器が展開されたことですっと目を閉じた。
「……降参、的な」
 するとステージを囲う結界が消え、奥の鉄扉が音を立てて開く。
「か、勝った……勝ったよケン兄!」
 花梨はステージを駆け下り、拳凰に飛びついた。
「やったな! 花梨!」
 拳凰は花梨の頭をぽんぽんと撫で、共に勝利を喜び合った。直後、周りの視線に気付いて花梨をばっと手放す。
「……まあ、よくやったじゃねーかチビ助」
「今更つんけんしてももう遅い気がしますよ最強寺さん」
「うるせー」
 幸次郎の指摘に、拳凰は仄かに頬を染めながら突っぱねた。

「あーあ、もうちょっと勝てると思ってた的なんだけどなー」
 まだ体の動かないポタージュは、ステージ上でそう呟いた。
「やっぱトップバッターは損的な……」
 そう言い終わるや否や、ポタージュの姿がすっと消える。
「消えた!?」
「どこかに転送されたか、或いは……」
 デスサイズが顎に手を当て、目を細めた。
「ところで白藤さん、MPはどのくらい残ってる?」
 梓が尋ねると、花梨は表情を曇らせる。
「あと三分の一くらい……」
「大分使ったな……」
 玲がそう言うと、花梨はますます落ち込む。
「白藤さんを責めることなんてないわ。MPを節約しながら戦って負けたら元も子もないもの」
「だが敵一人倒すのにこちらは一人犠牲にした上で二人目はMPを三分の二も消費。しかもそれが回復役ときた。このペースじゃ最後まで戦っていけないぞ」
 梓が花梨を庇うが、玲の指摘も尤もであり反論は出せない。
「あのレベルの敵があと十一人もいるわけでしょ!? 一体どうすんの!?」
「正確に言えば十二人と更に強いのが一人だ。妖精騎士団にはバトル運営には関わらない十三人目が存在するし、最後の最後には妖精王が待ち受けている」
 ただでさえ絶望的な状況に不安がる智恵理に対し、デスサイズが更に辛辣な現実を突きつける。
「それでもとにかくやるしかねーだろ。どっちにしろ戦わなきゃどうにもなんねーんだからな」
 皆が不安に暮れる中、拳凰は扉の先を見据える。次に待ち受けるは金牛宮。それを護るは騎士団最古参にして、拳凰に出生の真実を告げた男、牡牛座タウラスのビフテキである。
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