ヤンキーVS魔法少女

平良野アロウ

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第六章 本戦編Ⅱ

第119話 敗者復活戦

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「えー、ところで竜崎選手、試合を始めるためにまずは変身をお願いします」
 妖精騎士団がステージのメンテナンスをしている中、実況のタコワサが言う。
「ちょ、待ちーや。ここで変身するんか!? うちあの痴女軍団とちゃうねんで!?」
 魔法少女に変身する際には、衣装の変移に一度全裸を伴う。見えてはいけない部分は光で隠れているとはいえ、一般的な女の子にとっては当然とても恥ずかしいものなのである。それをパフォーマンスとしてわざわざステージ上でやってみせるチーム・ウルトラセクシーがおかしいだけなのだ。
 そう考えると、花梨は急に自分も恥ずかしく感じてきた。拳凰の怪我を見ていてもたってもいられず変身してしまったが、観戦席でそれをした以上少なくない人数に裸を見られているわけである。
「えー、それではこちらの中で」
 ステージ上に、最終予選でも使用された変身ボックスが召喚された。大名は渋々とその中に入り、魔法少女に変身。特攻服姿となってボックスから出てくる。ボックスは自動的に消滅した。
「チーム・ショート同盟、白藤花梨! チーム・烈弩哀図、竜崎大名!」
 試合の準備が整ったところで、両チームの代表がステージ上で向き合う。
「せっかく決勝トーナメントに行けるチャンスや。うちは勝つでー!」
「私だって負けません!」
「それでは……試合開始!」
 大名は専用バイク、ブラックドラゴンを生成して跨り、花梨への体当たりを繰り出す。花梨は翼を広げて空中に逃げ、そこから注射器を飛ばして反撃。だが注射器が刺さったのはステージ上のタイヤの跡。大名本体は既に注射器の射線を通り過ぎており、ドリフト走行で切り返して空中の花梨にジャンプ攻撃をかける。高速回転するタイヤからいかにも痛そうな黒い棘が突き出し、花梨を引き裂かんと迫った。花梨は巨大な注射器を手に真っ向からそれを迎え撃ち、注射針の一撃でタイヤを貫きパンクさせた。
「チビ助の奴、空中戦を完全に物にしてやがる」
 昨日の試合中に土壇場で会得したばかりの飛行能力をバッチリ使いこなす姿に、拳凰もガッツポーズ。
 前のタイヤから勢いよく空気が抜けて空中でバランスを崩した大名は、後ろのタイヤで着地。前のタイヤに魔力を送って再生する。
「なかなややるやないか。これならどうや!?」
 ブラックドラゴンが竜の口を開いたかと思うと、そこから黒い火の玉を連射。更に両サイドが展開されて出てきたミサイルポッドから一斉にミサイルを発射した。飛び道具の包囲網が、花梨を打ち落とさんと迫る。花梨は包帯の防壁を展開。だが黒炎は包帯を焼き尽くし、ミサイルは花梨本体に触れた瞬間爆発。白い羽は焼けて散り、花梨は地に落ちた。後はもうバイクで轢き潰すのみ。
「こいつで終いや!」
 エンジン全開、全速力で大名は突っ込む。花梨は仰向けに倒れた姿勢のまま巨大注射器を構えて迎撃。
「二度も同じ手が通用するかい!」
 注射針がタイヤを貫こうとする寸前、大名は両のタイヤを浮かせて大ジャンプ。空中から花梨を押し潰そうとした。が、その時、通常サイズの注射器が空中の大名を取り囲んでいた。
「なんやと!」
 花梨は大名が正面以外から攻撃してきても対応できるよう、事前に魔法陣を設置していた。その策略に嵌まった大名は注射器の一斉攻撃を受ける。空中でバイクが爆発して投げ出された大名は身体を縦に回転させて体勢を立て直し、着地してすぐさまバイクを再生成。眼前に迫る注射針をバイクに跨る動作と共に避けつつ、エンジンをかけ発進。
「こうなったら奥の手使ったる! ダークアームド!!」
 大名がそう言うと、自慢のバイクは突然バラバラに分離した。そしてそのパーツの一つ一つが、大名自身の身体に鎧の如く装着されてゆく。
「バイクと合体した!?」
 いかにもヤンキーらしい特攻服から一転、黒いドラゴンを模した鎧を纏った姿へと変身。右手にはこれまたバイクのパーツが変形した漆黒の剣を手にしており、その姿はさながら暗黒騎士である。
「感謝するで、うちにこの形態出させてくれてな。今日の試合のために特訓して会得したはええんやが、チーム・パラダイスの連中が弱すぎて使わないまま勝ってもうたんや」
 大名は剣を両手で持って上段に構える。
「今のうちは最強無敵の怒羅愚雲悪武烈弩哀図ドラグーンオブレッドアイズや! この姿になったら古竜恋々愛にも負ける気せえへんで!」
 剣から黒炎が噴き出したかと思うと大名はそれを勢いよく振り下ろし、黒炎を纏った斬撃を花梨に向けて飛ばす。花梨は咄嗟に避けるものの、空中に浮かべられた包帯や注射器を悉く焼き尽くされる。
(なんて威力……さっきの火の玉とは比較にならない!)
 ふと花梨はホテル前に大名と会った時、彼女が木刀を持っていたことを思い出した。魔法少女としての戦闘スタイルはギミック満載のバイクを駆るものであったが、不良少女としての戦闘スタイルは剣術。これは言わばバイクの機動力を犠牲にして自分が本来最も得意とする武器を扱える形態なのだ。
「だったらこれで……針千本!」
 花梨はそれでも怯むことなく、魔法陣から大量の注射器を発射。だが強固な装甲によって細い注射針は大名本体まで届かない。
(防御力も凄い!)
 花梨が驚いたところで再び黒炎を纏った斬撃が飛んでくる。素早く横に飛んで回避しながら注射器を投げるも、やはり鎧によって弾かれた。
「無駄や無駄や!」
 相手の攻撃が通じないのをいいことに、大名は花梨に接近して直接切りつけることを試みる。花梨は手にした巨大注射器の針で受け止めるも力負けし、大きく後ずさりさせられた。大名が剣を振り上げた隙を狙って胸の中央を巨大注射器で突くも、やはりこの鎧には通じない。バイクの時は案外脆い印象であったが、鎧に変形しただけでこの強度。エンジンの出力に使っていた魔力を防御力に充てているのだろう。
「だったら私も奥の手!」
 花梨は左手にも巨大注射器を生成。右の注射器で剣を受け止め、左で突く。ムニエル譲りの注射器二刀流だ。
「何度やっても無駄やで!」
 鎧の防御力を頼りに、ノーガードでガンガン攻める大名。たとえ注射器で受け止めても黒い火の粉が降りかかりHPを削ってゆく。だが花梨も負けじと、防戦一方に見えてきちんと反撃はする。相手の剣術はモーションが大振りになりがちのため、意外と隙が大きいのだ。花梨はそれを見逃さず、的確に注射器を打ち込んでゆく。
「無駄や言うとるやろ!」
 注射器を弾きガードを崩したところに繰り出される袈裟斬り。だが花梨はあえて前に踏み込んだ。剣の射程の内側へ。注射器は再び、大名の胸の中央を突く。
 大名自身は、当然効かないものと思っていた。だが本来鳴るはずのない音が耳に入り、大名は顔を下に向ける。太い注射針が刺さった胸の中央から鎧に皹が入り、そして粉々に砕け散った。
「なんやとーーー!?」
 驚愕の事態にカッと目を見開き、大名は飛び退く。
(うちのダークアームドが破られた……んなアホな!)
 彼女自身はその理屈を理解できていなかったが、花梨は勿論狙って破壊しにいっている。他の部位への攻撃を織り交ぜてカモフラージュしつつ、胸の中央部への集中的な攻撃で鎧に皹を入れていったのである。そして最後に気合を籠めた一突きを放ち、遂に鎧を粉砕したのだ。
(今の私なら……ムニちゃんの見せてくれたあの技が使える!)
 花梨は注射器二刀流を構え、流麗な双剣の連撃で大名を滅多切り。最後は二本の注射器でVの字状に斬る。
「王宮剣術・双魚の舞!!」
 反撃する間もバイクを再生成する間も与えることなき猛攻によって、大名は変身解除。
「ま、負けた……」
 大名がバリアの中で呟く。
「勝者、白藤花梨! そして敗者復活戦を制し決勝トーナメント出場を果たしたのは――チーム・ショート同盟!!!」
 実況の叫びに呼応するように、大歓声が巻き起こる。そしてその中には、拳凰の声も含まれていた。
「やったなチビ助!」
「勝ったよ! ケン兄!」
 振り返った花梨はサムズアップする拳凰に満天の笑顔を見せる。そしてステージから降りるなり、花梨は拳凰の胸に飛び込み抱きついた。
「何や見せつけてくれるやんけ」
 ステージ上の大名は、二人の熱さを見てそっと呟いた。
「いやー、見事な試合でした。如何でしたかカクテルさん」
 タコワサは隣のカクテルに話を振るも、返事が無い。それどころか、カクテルは忽然と姿を消していた。椅子の上には一枚のメモ。
『他の仕事が入ったので解説を降ります』
 どうやら試合中にこっそり抜け出したようである。あまりにも自分勝手すぎるカクテルの振る舞いに、タコワサは顔を引き攣らせるしかなかった。


 閉会式の準備が整ったところで、王都球場の側にいた魔法少女全員が王立競技場に転送された。
 不慮の事故により全員人間界に強制送還されたDブロックを除く本戦出場者四十八名が、ステージ上に整列する。
「えー、それでは本日の試合結果を発表致しましょう」
 映し出された試合結果は以下の通り。


・Aブロック
○ショート同盟VSラブリープリンセス●
●桜吹雪VSヴァンパイアロード○

・Bブロック
○烈弩哀図VSパラダイス●
○ウルトラセクシーVS余りものⅠ●

・Cブロック
○格闘少女VSにゃんこ大好き●
●ハイパードリルVSたまご○

・Dブロック
○幼馴染VS余りものⅡ●
-ハリケーンVS最強無敵絶対優勝-

・敗者復活戦
○ショート同盟VS烈弩哀図●


「そして決勝トーナメント出場選手を発表致します。まずはAブロック優勝、チーム・ヴァンパイアロード! 小鳥遊麗羅選手! 三日月梓選手! 鈴村智恵理選手! 雨戸朝香選手!」
 真っ先に名を呼ばれた麗羅は、観客席に向けて笑顔で手を振る。朝香もそれに続いた。梓も満足そうに微笑む。
 そんな中、一人微妙に気まずそうなのが智恵理である。
(なんかあたし、一回出て負けただけで決勝トーナメント行けちゃったんだけど……)
 完全に味方に恵まれただけの運勝ち。なんとなく素直に喜べない気持ちであった。
「Bブロック優勝、チーム・ウルトラセクシー! 古竜恋々愛選手! 黄金珠子選手! 湯乃花雫選手! 羽間ミチル選手!」
 こちらは四人揃って、セクシーな決めポーズでアピール。恋々愛はこちらの会場に幸次郎がいないのを少し残念に思った。
「Cブロック優勝、チーム・格闘少女! 真田玲選手! 美空寿々菜選手! 水橋香澄選手! レベッカ・シューティングスター選手!」
 腕を組んで鼻で笑う玲、棒立ちのまま微笑む寿々菜、一礼する香澄、両手でピースサインを作り笑顔を振り撒くレベッカ。四人それぞれが違ったリアクション。
「そしてアクシデントにより全員棄権となったDブロックに代わり、敗者復活戦の勝者、チーム・ショート同盟! 悠木小梅選手! 白藤花梨選手! 弥勒寺蓮華選手! 二宮夏樹選手!」
(Dブロックの人達には申し訳ないけれど……やったよ!)
 花梨は両手でガッツポーズを作り、勝利の喜びを噛み締めた。小梅は拳を天に掲げ、蓮華は掌を合わせ仏に祈りを捧げる。夏樹は飛び跳ねて可愛くアピール。
「以上十六名が、決勝トーナメント進出となります。残りの皆さんは敗退となり、人間界にお帰り頂きます」
 夏樹は芽衣、小梅は歳三の方に自然と視線が向いた。
「夏樹ちゃん、今までありがとう。私の分までがんばって」
「小梅、私に勝ったことを誇りに思って。貴方なら決勝トーナメントでもきっと勝てるわ」
 夏樹と小梅はそれぞれの相手からエールを貰い、頷く。
「それでは皆様、本戦を戦い抜いた魔法少女達の健闘を称え拍手をお願いします!」
 会場全体から巻き起こる拍手喝采に包まれながら、敗退した魔法少女達は妖精界を去る。ステージ上に残されたのは、決勝トーナメント出場権を得た十六名のみとなった。
「決勝トーナメントからは個人戦となりますので、チームは解散となります。とはいえ今晩はチーム四人同室で寝泊りして頂き、明日から個室に移って頂きます。明日以降のスケジュールについてですが、明日は個室への引越し作業の後自由行動。明後日は決勝トーナメント出場者全員を王宮でのパーティーにご招待致します。そして明々後日から、決勝トーナメント開催です。より詳細なスケジュールは魔法少女バトルアプリをご確認下さい。それでは魔法少女の皆様、本日はごゆっくりお休み下さい」
 そうしてステージ上に残った魔法少女達も、ホテルへと転送された。


<キャラクター紹介>
名前:ザンギ
性別:男
年齢:30
身長:190
髪色:青
星座:牡牛座
階級:中佐
趣味:登山
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