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第六章 本戦編Ⅱ
第110話 進化した奥義
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「チーム・ヴァンパイアロード、三日月梓! チーム・ショート同盟、悠木小梅!」
ステージにて向かい合う、二人の魔法少女。最後の一人となり後が無い小梅は元より、梓もまた負けられない理由がある。
「宜しくお願いします」
「うん、こちらこそ!」
緊張感が漂う中、互いに挨拶を交わす。魔法少女用の観戦席では、小梅の姉である歳三がそれをじっと見ていた。
「どうだべか? 妹さん、勝てそうだべか?」
実里が不安そうに言った。
「一人で三人倒さなければならないのは厳しいわね」
あえて感情を出さず、客観的な視点からの分析。
「相手のメガネっ子は前回の試合圧勝してたよね。かなり強いんじゃない?」
「そうね。恐らく一番強いであろう小鳥遊さんを事前に落とせたのはよかったけれど、三日月さんもそれに劣らぬ実力者なのは間違いないわ」
ひよのが尋ねると、歳三は冷静に答えた。
「あとの二人は未知数ね。雨戸さんは勿論のこと、鈴村さんも一昨日は初見殺しに負けただけ。油断のできる相手ではないわ」
皆が見守る中、試合開始が告げられる。梓は弓を引き、小梅は駆け出した。
真正面から飛んでくる黄金の光の矢を、小梅は体を軽く傾けて避ける。矢は後ろの床に刺さった。
と、その時、梓の衣装を突き破り、狐の尾が一本生えた。
「シッポ!?」
一昨日の試合では見られなかった変化に驚いた小梅。集中が途切れて速度が落ちたパンチを、梓は素早く躱した。
「おっとっと」
梓を通り過ぎた小梅はブレーキをかけ、すぐさま切り返した。高速ダッシュと共に繰り出される、ソニックブームを纏ったパンチ。一度目は避けられたが、二度目はそうはいかない。梓は避けようとするが間に合わず、腹に一撃を喰らった。
「うぐっ……!」
瞬間、脳裏に浮かぶのは拳凰戦の顛末。小梅の戦闘スタイルは拳凰と似ている。遠距離からの狙撃を得意とする梓にとって、一瞬で距離を詰められ格闘戦を仕掛けてくる相手は天敵だ。しかしだからこそこの戦いに勝つことができれば、拳凰へのリベンジを果たすことができたと同義ともいえる。
小梅は高速で移動しながら、すれ違いざまにソニックブームをぶつける攻撃を繰り返す。梓は攻撃を受けながらも、虎視眈々とチャンスを狙っていた。
(このスピード……目で追いかけるのは至難の業ね。これを回避する手段があるとすれば……)
何を思ったか、梓は目を閉じる。ここぞとばかりに小梅は攻撃の手を早めるが、力一杯放った拳は空を切った。
「!?」
予想せぬ事態に、小梅は目を丸くした。すぐに振り返り、追撃を畳み掛ける。だがそれも、宙を舞う木の葉が如き動きで躱された。
「ど、どうなってるんだ!?」
何度攻撃を繰り出しても、まるで当たらない。相手は目を閉じており隙だらけに見えるのに、その方がかえって避けられるようになる。小梅は困惑した。
「そうか、心の目で見るとかそういうやつだな! カッコいいことするじゃん!」
が、少し考えたところでそういった結論に達した。
実際、当たらずとも遠からずといったところであった。梓は目を閉じて神経を集中させ、空気の流れを読んで攻撃の方向を察知したのである。集中力を研ぎ澄ますことを弓道によって鍛えてきた梓であればこその回避技である。
攻撃の手が止んだところで、梓は黄金の光の矢を弓に番える。
「喰らいなさい!」
カッと目を見開き、目一杯引き絞って放たれた一矢。
「させるか!」
小梅は裏拳で矢を弾いて逸らした。矢は小梅の背後で軌道が曲がり、小梅の真後ろの床に刺さった。すると梓にもう一本尾が生える。
流石に二度目は小梅も驚かない。今度は構わず正面から突っ込む。梓はまた目を閉じ、感覚で回避。直後に目を開けてもう一発射る。だが矢は小梅を大きく外れた場所に刺さった。そしてまた尾が一本生える。
(何だあのシッポ。何か秘密があるのか?)
これで梓の尾は三本目。黄金の矢を射る度生えてくるのは小梅でも解るが、それに何の意味があるのかまではわからない。身体能力や矢の威力が上がっているわけでもなく、本当にただ飾りが増えただけにしか見えなかった。
(余計なこと考えてたら隙を突かれる! 今は攻撃に集中だ!)
小梅は一度距離を取って高く跳び上がる。その間に小梅の真下を黄金の矢が通り抜けていった。小梅は空中で一回転すると、右足を突き出して梓に向かって超加速。
「スーパー小梅キーック!!」
対する梓は目を見開いたままどっしり構え、回避の姿勢は見せない。軽く弓を引き自身の足元の床に矢を放ち、バリアを生成。だが小梅の足はそれを容易く蹴り壊した。
あわや必殺技を喰らうかに思われたその時、梓は小梅の足首を掴んだ。バリアはしっかりと蹴りのパワーを殺しており、今ならば素手でも十分掴める。梓は小梅の脚を引き弓に番えると、しっかりと引き絞って射出した。
「うええっ!?」
まさか自分自身が矢にされるとは思っていなかった小梅は、驚嘆の声を上げながら吹っ飛ぶ。
「流石は三日月君、私の教えた技をしっかりと使いこなしているな」
システムルームではホーレンソーが相槌を打つ。先日レバーを倒した技を今日、弟子が使う。なかなか感慨深い思いがあった。
結界に背中を叩きつけられた小梅。梓は三本の矢を弓に番え、追撃を狙う。その内二本は黄金の矢で、一本が普通の光の矢である。真っ直ぐ小梅を狙う光の矢は、小梅の超加速で瞬時に避けられる。二本の黄金の矢はシンメトリーを描くように軌道が曲がり、小梅を大きく外れた位置に刺さる。そして五本目と六本目の尾が生えた。
「委員長め、俺と戦った時より遥かに強くなってやがる。あのカウンター技、俺との勝負で使ってこられたら危なかったな」
観戦する拳凰は、そんな感想を述べた。
「俺も彼女とは最終予選で戦っているが、あれは本当に強い魔法少女だ」
デスサイズが返す。
「彼女には一撃必殺の大技がある。だが俺と戦った時のそれは溜めに隙がありすぎて、仲間のサポート無しでは使い物にならない技だった」
「だったら一対一の試合で使ってくることはねーんじゃねーのか?」
「ああ、確かにそうだが……今彼女に生えている尻尾、あれは大技を使う時に使用するものだ。とはいえ俺の時は一度に九本生えてきたが、今回は少しずつ数を増やしている。もしや一対一向けにあの技を改良したのかもしれん」
「やべーな。チビ助のチームが勝つには、そいつを使われる前にあのハイレグベリショが勝つしかねーってことだろ」
だが梓の奥義を知らぬ小梅は、尻尾の意味を深く考えることなくひたすら攻撃を畳み掛ける。
黄金の矢を生成するには、僅かながら溜めが要る。小梅はその隙を狙ってパンチを打った。梓は回避しつつも溜めの姿勢を崩さず、更に二本黄金の矢を生成。上空に向けて放ち、それぞれが弧を描いて別々の場所に刺さった。
「あと一つ、か……」
梓の尾が八本目になったところで、デスサイズが呟く。
「見ろ拳凰、矢の刺さった位置を」
ステージに刺さった黄金の矢は、まるで何かを描くように一定の法則性に沿って配置されている。そして後一箇所に矢を刺せば、全ての点を繋いで図形が完成するのだ。
「来るぞ、大技が」
小梅は決着を急ごうと大振りのラッシュを繰り出す。
(何だかよくわかんないけど、これ以上シッポ生やさせたらヤバい気がする! 多分何か凄い技の準備してるんだ!)
野生的な本能で察した小梅は、次にまた黄金の矢が放たれるのを防ごうと弓の破壊を狙う。梓もまたそれを読み、小梅の手首に弓の弦を引っ掛けた。
「二度も同じ手が効くか!」
小梅の右腕を弓に番えようとする梓に対し、小梅は左のフックを打ち込む。吹っ飛んだ梓は怯まず弓を構えるも、小梅は再び超加速ダッシュで接近。
「ブーストナックル!」
超高速のストレートが梓の鳩尾を抉った。
「く……!」
苦悶の声を漏らす梓。奥義発動に向けての準備を整え優勢に見える梓であったが、既にHPは満身創痍。攻撃を受けた回数では梓の方が圧倒的に多く、一発逆転を狙う劣勢というのが現状であった。
(ここで私が負けたら、朝香ちゃんが出てくる可能性がある……そうなれば彼女の命が危険に……)
それは先日のことである。フォアグラ大聖堂より帰還したホーレンソーは、王立アンドロメダホテル内のレストランに梓を呼び出していた。
「まずはお帰りなさい、と言えばいいかしら」
「うむ、ただいまなのだよ」
ホーレンソーはきざったらしくウインク。
「それで、わざわざ呼びつけて何の用かしら」
「いやあ、戦い疲れて戻ってきたのでね。君を見て癒されたいと思ったのだよ。さあ、私の奢りだ。好きなものを頼みたまえ」
つい先程までフォアグラ教団と死闘を繰り広げてきたとは思えぬほどの軽い調子で、ホーレンソーは言う。
「昨日、ホテルの窓から貴方が戦う姿を見たわ。敵の攻撃がこちらに当たることがないよう立ち回りつつ、敵を手玉に取っての圧勝。貴方が強いということは知っていたけど、あの戦いぶりには見入ってしまったわ」
「それは嬉しいね。どうだい、私に惚れてしまったかね?」
「人の気を引きたいのならそういう仕事のできるとこでもアピールすればいいのに、どうして貴方ってすぐセクハラに走るのかしら」
「それで三日月君、明日の試合はどうするつもりかね」
まるで話題を逸らすように、ホーレンソーは試合の話を振る。
「昨日の試合で補欠にした雨戸朝香を使うのだろう?」
「いいえ、朝香ちゃんを出すつもりは無いわ」
「ふむ、だがそうやって引き伸ばしたところで、明日の試合には出さざるを得ないのだよ」
「わかっているわ。それでもできる限り彼女が試合に出る回数を減らしたいの」
「そういう考えならば、昨日の試合に出さなかったのは失策かもしれないな。ショート同盟も桜吹雪も強いチームだ。相手が強ければそれだけ雨戸朝香が覚醒するリスクも高くなる。それならば戦力で劣るラブリープリンセス戦に登板させるべきだったのではないか」
「……確かにそうかもしれないわね。でも昨日は初戦で他チームの情報も無かったから。それに終わったことをどうこう言っても仕方が無いし、明日以降でどう朝香ちゃんの覚醒を防ぐかが大事よ」
「フッ、雨戸朝香のことも大事だが、君自身が勝つこともちゃんと考えたまえよ」
「抜かりは無いわ。今日の試合が延期になったから、その分特訓に費やしたの。あの奥義を実戦で使えるようにするために」
「ほう、それは素晴らしい。これは明日の試合にも期待が持てるのだよ」
ピンチの最中、ホーレンソーとの会話を思い出していた梓。
(そうよ……私は負けられない!)
梓は歯を食い縛り、小梅を蹴っ飛ばした。
「なっ!?」
反動で吹き飛んで小梅から大きく距離を取り、黄金の矢を生成して弓を引く。小梅は追ってくるが、梓は目を閉じ木の葉の動きで回避。そしてその瞬間に目を開き弦から手を離した。
黄金の矢は最短距離を一直線で目標地点に突き進む。矢がステージに刺さった瞬間、九本の矢を結ぶようにしてステージ全体に巨大な魔法陣が現れた。
「な、何だこれ!?」
足の下で光る魔法陣に目を奪われる小梅。梓にも最後の尾が生え、遂に九尾モードが完成。
梓がジャンプで空中に上がり再び弓を引くと、ステージに刺さった九本の矢が九つの尾にそれぞれ一つずつ吸い込まれた。
「狐烈天破弓・弐式!」
技名を叫ぶと共に、空中から地上に向けて矢を放つ。弓矢と九つの尾から同時に放たれたビームが収束し、小梅に降り注いだ。
ステージ上は強い光に包まれた。大爆発が巻き起こり、後には球状のバリアに包まれた小梅が残された。
「勝者、三日月梓! そしてこの試合、チーム・ヴァンパイアロードの勝利です!!」
勝利者が読み上げられると共に、大歓声が巻き起こった。
「見事なものだよ三日月君。ずっと使うのを嫌がっていた奥義を、よくぞ改良したものだ」
システムルームでは、ホーレンソーが拍手を贈っていた。
梓の進化した奥義、それは奥義発動のための魔力を戦いながら溜められるというものである。自分自身に溜めるのではなく、魔力のタンクを黄金の矢の形にして外側に設置しておく。これにより膨大な溜め時間による隙を無くすことが可能となったのだ。
梓は両手でお尻を隠しながら着地すると、すぐに変身を解いた。衣装のお尻の部分が尻尾によって突き破られ、尻尾が消えたらお尻が丸見えになる問題は改善できなかったのである。
「やったね梓! 凄かったよー!」
ベンチに戻った梓に、智恵理が飛びつき抱きしめた。
「一先ずは上手くいったわね。でもまだ完成とは言いがたいわ。撃つ際の隙は無くせたけれど、矢を九本も設置しなければならないのは手間がかかりすぎる」
「確かに、時間でいえば普通に溜めるよりずっとかかるよね」
「ええ、更なる改良を重ねて、この技を完成に近づけてみせるわ」
ヴァンパイアロードの面々が勝利を喜ぶ中、小梅は肩を落としてベンチに戻った。
「ごめん、負けちゃった」
「ドンマイドンマイ、たまにはこういうこともあるよ」
夏樹が小梅を励ました。
そんな様子を魔法少女用の観戦席から見ていた歳三は、小さく拍手を贈る。
(いい戦いだったわ小梅。これは私も負けてられないわね)
そして同じくショート同盟を応援していた拳凰もまた、この戦いに賞賛を贈った。
(いいチームじゃねーかチビ助。今回は負けたがまだ終わりじゃねー。明日の試合が終わるまで結果はわかんねーぞ)
拳凰からの無言のエール。花梨は一瞬だけ拳凰の姿を見た後、また小梅に顔を向けた。
「まだ終わりじゃないよ。明日勝てば、まだ決勝トーナメントに行ける可能性はあるよ!」
奇しくも拳凰の思ったことと同じことを、花梨は言った。
「そうだね……明日の試合、絶対勝とう!」
小梅は掌で自分の両頬を軽く叩いて闘魂注入。
「と、その前に次は姉ちゃんのチームが試合するからさ、応援しないとね!」
一方で実況席。
「いやぁ凄い技でした。ショート同盟も善戦しましたが、結果は選手を二人残してヴァンパイアロードの圧勝です。如何でしたかカクテルさん」
「ショート同盟にはもう少し頑張って貰いたかったですねー。まあそれはそれとして明日のヴァンパイアロードの試合は今大会一盛り上がることは間違いないでしょう。何てったってこの私が本命に選んだ魔法少女が出場するのですからね」
最早本音を隠す気すらない。カクテルは例によって既にこの試合への興味を失っていた。
(とはいえ明日のAブロックは王立競技場の方なんですよねぇ。ここは一つ手を打っておきますかね)
<キャラクター紹介>
名前:白藤和義
性別:男
年齢:享年37
身長:176
髪色:黒
星座:牡牛座
趣味:釣り
ステージにて向かい合う、二人の魔法少女。最後の一人となり後が無い小梅は元より、梓もまた負けられない理由がある。
「宜しくお願いします」
「うん、こちらこそ!」
緊張感が漂う中、互いに挨拶を交わす。魔法少女用の観戦席では、小梅の姉である歳三がそれをじっと見ていた。
「どうだべか? 妹さん、勝てそうだべか?」
実里が不安そうに言った。
「一人で三人倒さなければならないのは厳しいわね」
あえて感情を出さず、客観的な視点からの分析。
「相手のメガネっ子は前回の試合圧勝してたよね。かなり強いんじゃない?」
「そうね。恐らく一番強いであろう小鳥遊さんを事前に落とせたのはよかったけれど、三日月さんもそれに劣らぬ実力者なのは間違いないわ」
ひよのが尋ねると、歳三は冷静に答えた。
「あとの二人は未知数ね。雨戸さんは勿論のこと、鈴村さんも一昨日は初見殺しに負けただけ。油断のできる相手ではないわ」
皆が見守る中、試合開始が告げられる。梓は弓を引き、小梅は駆け出した。
真正面から飛んでくる黄金の光の矢を、小梅は体を軽く傾けて避ける。矢は後ろの床に刺さった。
と、その時、梓の衣装を突き破り、狐の尾が一本生えた。
「シッポ!?」
一昨日の試合では見られなかった変化に驚いた小梅。集中が途切れて速度が落ちたパンチを、梓は素早く躱した。
「おっとっと」
梓を通り過ぎた小梅はブレーキをかけ、すぐさま切り返した。高速ダッシュと共に繰り出される、ソニックブームを纏ったパンチ。一度目は避けられたが、二度目はそうはいかない。梓は避けようとするが間に合わず、腹に一撃を喰らった。
「うぐっ……!」
瞬間、脳裏に浮かぶのは拳凰戦の顛末。小梅の戦闘スタイルは拳凰と似ている。遠距離からの狙撃を得意とする梓にとって、一瞬で距離を詰められ格闘戦を仕掛けてくる相手は天敵だ。しかしだからこそこの戦いに勝つことができれば、拳凰へのリベンジを果たすことができたと同義ともいえる。
小梅は高速で移動しながら、すれ違いざまにソニックブームをぶつける攻撃を繰り返す。梓は攻撃を受けながらも、虎視眈々とチャンスを狙っていた。
(このスピード……目で追いかけるのは至難の業ね。これを回避する手段があるとすれば……)
何を思ったか、梓は目を閉じる。ここぞとばかりに小梅は攻撃の手を早めるが、力一杯放った拳は空を切った。
「!?」
予想せぬ事態に、小梅は目を丸くした。すぐに振り返り、追撃を畳み掛ける。だがそれも、宙を舞う木の葉が如き動きで躱された。
「ど、どうなってるんだ!?」
何度攻撃を繰り出しても、まるで当たらない。相手は目を閉じており隙だらけに見えるのに、その方がかえって避けられるようになる。小梅は困惑した。
「そうか、心の目で見るとかそういうやつだな! カッコいいことするじゃん!」
が、少し考えたところでそういった結論に達した。
実際、当たらずとも遠からずといったところであった。梓は目を閉じて神経を集中させ、空気の流れを読んで攻撃の方向を察知したのである。集中力を研ぎ澄ますことを弓道によって鍛えてきた梓であればこその回避技である。
攻撃の手が止んだところで、梓は黄金の光の矢を弓に番える。
「喰らいなさい!」
カッと目を見開き、目一杯引き絞って放たれた一矢。
「させるか!」
小梅は裏拳で矢を弾いて逸らした。矢は小梅の背後で軌道が曲がり、小梅の真後ろの床に刺さった。すると梓にもう一本尾が生える。
流石に二度目は小梅も驚かない。今度は構わず正面から突っ込む。梓はまた目を閉じ、感覚で回避。直後に目を開けてもう一発射る。だが矢は小梅を大きく外れた場所に刺さった。そしてまた尾が一本生える。
(何だあのシッポ。何か秘密があるのか?)
これで梓の尾は三本目。黄金の矢を射る度生えてくるのは小梅でも解るが、それに何の意味があるのかまではわからない。身体能力や矢の威力が上がっているわけでもなく、本当にただ飾りが増えただけにしか見えなかった。
(余計なこと考えてたら隙を突かれる! 今は攻撃に集中だ!)
小梅は一度距離を取って高く跳び上がる。その間に小梅の真下を黄金の矢が通り抜けていった。小梅は空中で一回転すると、右足を突き出して梓に向かって超加速。
「スーパー小梅キーック!!」
対する梓は目を見開いたままどっしり構え、回避の姿勢は見せない。軽く弓を引き自身の足元の床に矢を放ち、バリアを生成。だが小梅の足はそれを容易く蹴り壊した。
あわや必殺技を喰らうかに思われたその時、梓は小梅の足首を掴んだ。バリアはしっかりと蹴りのパワーを殺しており、今ならば素手でも十分掴める。梓は小梅の脚を引き弓に番えると、しっかりと引き絞って射出した。
「うええっ!?」
まさか自分自身が矢にされるとは思っていなかった小梅は、驚嘆の声を上げながら吹っ飛ぶ。
「流石は三日月君、私の教えた技をしっかりと使いこなしているな」
システムルームではホーレンソーが相槌を打つ。先日レバーを倒した技を今日、弟子が使う。なかなか感慨深い思いがあった。
結界に背中を叩きつけられた小梅。梓は三本の矢を弓に番え、追撃を狙う。その内二本は黄金の矢で、一本が普通の光の矢である。真っ直ぐ小梅を狙う光の矢は、小梅の超加速で瞬時に避けられる。二本の黄金の矢はシンメトリーを描くように軌道が曲がり、小梅を大きく外れた位置に刺さる。そして五本目と六本目の尾が生えた。
「委員長め、俺と戦った時より遥かに強くなってやがる。あのカウンター技、俺との勝負で使ってこられたら危なかったな」
観戦する拳凰は、そんな感想を述べた。
「俺も彼女とは最終予選で戦っているが、あれは本当に強い魔法少女だ」
デスサイズが返す。
「彼女には一撃必殺の大技がある。だが俺と戦った時のそれは溜めに隙がありすぎて、仲間のサポート無しでは使い物にならない技だった」
「だったら一対一の試合で使ってくることはねーんじゃねーのか?」
「ああ、確かにそうだが……今彼女に生えている尻尾、あれは大技を使う時に使用するものだ。とはいえ俺の時は一度に九本生えてきたが、今回は少しずつ数を増やしている。もしや一対一向けにあの技を改良したのかもしれん」
「やべーな。チビ助のチームが勝つには、そいつを使われる前にあのハイレグベリショが勝つしかねーってことだろ」
だが梓の奥義を知らぬ小梅は、尻尾の意味を深く考えることなくひたすら攻撃を畳み掛ける。
黄金の矢を生成するには、僅かながら溜めが要る。小梅はその隙を狙ってパンチを打った。梓は回避しつつも溜めの姿勢を崩さず、更に二本黄金の矢を生成。上空に向けて放ち、それぞれが弧を描いて別々の場所に刺さった。
「あと一つ、か……」
梓の尾が八本目になったところで、デスサイズが呟く。
「見ろ拳凰、矢の刺さった位置を」
ステージに刺さった黄金の矢は、まるで何かを描くように一定の法則性に沿って配置されている。そして後一箇所に矢を刺せば、全ての点を繋いで図形が完成するのだ。
「来るぞ、大技が」
小梅は決着を急ごうと大振りのラッシュを繰り出す。
(何だかよくわかんないけど、これ以上シッポ生やさせたらヤバい気がする! 多分何か凄い技の準備してるんだ!)
野生的な本能で察した小梅は、次にまた黄金の矢が放たれるのを防ごうと弓の破壊を狙う。梓もまたそれを読み、小梅の手首に弓の弦を引っ掛けた。
「二度も同じ手が効くか!」
小梅の右腕を弓に番えようとする梓に対し、小梅は左のフックを打ち込む。吹っ飛んだ梓は怯まず弓を構えるも、小梅は再び超加速ダッシュで接近。
「ブーストナックル!」
超高速のストレートが梓の鳩尾を抉った。
「く……!」
苦悶の声を漏らす梓。奥義発動に向けての準備を整え優勢に見える梓であったが、既にHPは満身創痍。攻撃を受けた回数では梓の方が圧倒的に多く、一発逆転を狙う劣勢というのが現状であった。
(ここで私が負けたら、朝香ちゃんが出てくる可能性がある……そうなれば彼女の命が危険に……)
それは先日のことである。フォアグラ大聖堂より帰還したホーレンソーは、王立アンドロメダホテル内のレストランに梓を呼び出していた。
「まずはお帰りなさい、と言えばいいかしら」
「うむ、ただいまなのだよ」
ホーレンソーはきざったらしくウインク。
「それで、わざわざ呼びつけて何の用かしら」
「いやあ、戦い疲れて戻ってきたのでね。君を見て癒されたいと思ったのだよ。さあ、私の奢りだ。好きなものを頼みたまえ」
つい先程までフォアグラ教団と死闘を繰り広げてきたとは思えぬほどの軽い調子で、ホーレンソーは言う。
「昨日、ホテルの窓から貴方が戦う姿を見たわ。敵の攻撃がこちらに当たることがないよう立ち回りつつ、敵を手玉に取っての圧勝。貴方が強いということは知っていたけど、あの戦いぶりには見入ってしまったわ」
「それは嬉しいね。どうだい、私に惚れてしまったかね?」
「人の気を引きたいのならそういう仕事のできるとこでもアピールすればいいのに、どうして貴方ってすぐセクハラに走るのかしら」
「それで三日月君、明日の試合はどうするつもりかね」
まるで話題を逸らすように、ホーレンソーは試合の話を振る。
「昨日の試合で補欠にした雨戸朝香を使うのだろう?」
「いいえ、朝香ちゃんを出すつもりは無いわ」
「ふむ、だがそうやって引き伸ばしたところで、明日の試合には出さざるを得ないのだよ」
「わかっているわ。それでもできる限り彼女が試合に出る回数を減らしたいの」
「そういう考えならば、昨日の試合に出さなかったのは失策かもしれないな。ショート同盟も桜吹雪も強いチームだ。相手が強ければそれだけ雨戸朝香が覚醒するリスクも高くなる。それならば戦力で劣るラブリープリンセス戦に登板させるべきだったのではないか」
「……確かにそうかもしれないわね。でも昨日は初戦で他チームの情報も無かったから。それに終わったことをどうこう言っても仕方が無いし、明日以降でどう朝香ちゃんの覚醒を防ぐかが大事よ」
「フッ、雨戸朝香のことも大事だが、君自身が勝つこともちゃんと考えたまえよ」
「抜かりは無いわ。今日の試合が延期になったから、その分特訓に費やしたの。あの奥義を実戦で使えるようにするために」
「ほう、それは素晴らしい。これは明日の試合にも期待が持てるのだよ」
ピンチの最中、ホーレンソーとの会話を思い出していた梓。
(そうよ……私は負けられない!)
梓は歯を食い縛り、小梅を蹴っ飛ばした。
「なっ!?」
反動で吹き飛んで小梅から大きく距離を取り、黄金の矢を生成して弓を引く。小梅は追ってくるが、梓は目を閉じ木の葉の動きで回避。そしてその瞬間に目を開き弦から手を離した。
黄金の矢は最短距離を一直線で目標地点に突き進む。矢がステージに刺さった瞬間、九本の矢を結ぶようにしてステージ全体に巨大な魔法陣が現れた。
「な、何だこれ!?」
足の下で光る魔法陣に目を奪われる小梅。梓にも最後の尾が生え、遂に九尾モードが完成。
梓がジャンプで空中に上がり再び弓を引くと、ステージに刺さった九本の矢が九つの尾にそれぞれ一つずつ吸い込まれた。
「狐烈天破弓・弐式!」
技名を叫ぶと共に、空中から地上に向けて矢を放つ。弓矢と九つの尾から同時に放たれたビームが収束し、小梅に降り注いだ。
ステージ上は強い光に包まれた。大爆発が巻き起こり、後には球状のバリアに包まれた小梅が残された。
「勝者、三日月梓! そしてこの試合、チーム・ヴァンパイアロードの勝利です!!」
勝利者が読み上げられると共に、大歓声が巻き起こった。
「見事なものだよ三日月君。ずっと使うのを嫌がっていた奥義を、よくぞ改良したものだ」
システムルームでは、ホーレンソーが拍手を贈っていた。
梓の進化した奥義、それは奥義発動のための魔力を戦いながら溜められるというものである。自分自身に溜めるのではなく、魔力のタンクを黄金の矢の形にして外側に設置しておく。これにより膨大な溜め時間による隙を無くすことが可能となったのだ。
梓は両手でお尻を隠しながら着地すると、すぐに変身を解いた。衣装のお尻の部分が尻尾によって突き破られ、尻尾が消えたらお尻が丸見えになる問題は改善できなかったのである。
「やったね梓! 凄かったよー!」
ベンチに戻った梓に、智恵理が飛びつき抱きしめた。
「一先ずは上手くいったわね。でもまだ完成とは言いがたいわ。撃つ際の隙は無くせたけれど、矢を九本も設置しなければならないのは手間がかかりすぎる」
「確かに、時間でいえば普通に溜めるよりずっとかかるよね」
「ええ、更なる改良を重ねて、この技を完成に近づけてみせるわ」
ヴァンパイアロードの面々が勝利を喜ぶ中、小梅は肩を落としてベンチに戻った。
「ごめん、負けちゃった」
「ドンマイドンマイ、たまにはこういうこともあるよ」
夏樹が小梅を励ました。
そんな様子を魔法少女用の観戦席から見ていた歳三は、小さく拍手を贈る。
(いい戦いだったわ小梅。これは私も負けてられないわね)
そして同じくショート同盟を応援していた拳凰もまた、この戦いに賞賛を贈った。
(いいチームじゃねーかチビ助。今回は負けたがまだ終わりじゃねー。明日の試合が終わるまで結果はわかんねーぞ)
拳凰からの無言のエール。花梨は一瞬だけ拳凰の姿を見た後、また小梅に顔を向けた。
「まだ終わりじゃないよ。明日勝てば、まだ決勝トーナメントに行ける可能性はあるよ!」
奇しくも拳凰の思ったことと同じことを、花梨は言った。
「そうだね……明日の試合、絶対勝とう!」
小梅は掌で自分の両頬を軽く叩いて闘魂注入。
「と、その前に次は姉ちゃんのチームが試合するからさ、応援しないとね!」
一方で実況席。
「いやぁ凄い技でした。ショート同盟も善戦しましたが、結果は選手を二人残してヴァンパイアロードの圧勝です。如何でしたかカクテルさん」
「ショート同盟にはもう少し頑張って貰いたかったですねー。まあそれはそれとして明日のヴァンパイアロードの試合は今大会一盛り上がることは間違いないでしょう。何てったってこの私が本命に選んだ魔法少女が出場するのですからね」
最早本音を隠す気すらない。カクテルは例によって既にこの試合への興味を失っていた。
(とはいえ明日のAブロックは王立競技場の方なんですよねぇ。ここは一つ手を打っておきますかね)
<キャラクター紹介>
名前:白藤和義
性別:男
年齢:享年37
身長:176
髪色:黒
星座:牡牛座
趣味:釣り
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