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第五章 フォアグラ教団編
第99話 教祖フォアグラ
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戦闘開始と同時に、拳凰はジェラートの顔面目掛けて右ストレートを打つ。まともに当たれば鼻を折り顔面を凹ます必殺の一撃。ジェラートは防御も回避もすることなく、棒立ちでそれを受けた。
その行動を見た時点で、拳凰はこの男に自分の攻撃を防ぐ手段があることを察した。だがそれでも、迷わず突っ込んだのである。
顔面の中心を的確に打ち抜いた一発。だがそれは顔面を凹ますばかりか当たった位置から微塵も先に進まず、パンチの衝撃は全て拳凰自身に帰ってきた。
「ぐああっ! 痛ってえ~!」
左手で右の拳を押さえながら、拳凰は飛び退く。
「こ、こいつ、何て硬さだ!」
ジェラートの顔の前面は氷の防壁に覆われていた。膜のように薄い防壁だが、その防御力は信じ難いほどに高い。
奇しくも下級幹部最強の地位を持つ第八使徒トリガラも、己の防御力に絶対的な自信を持つ男であった。鋼の肉体を自称し、事実肉体を鋼に変える魔法を使っていた。しかしそのトリガラにさえ、あれと比べたら自分はあまりにも脆いと言わしめた。それこそが、鋼よりも硬い氷の防壁。絶対零度のジェラートなのである。
拳凰は防壁の無いこめかみ目掛けてハイキックを放つが、すぐ防壁がそこにも生成されて足を阻んだ。
「痛え! それに冷てえ!」
拳も足も、触れたのは一瞬ながらそれだけで凍りつきそうなほど冷たかった。
「つーかこいつの体だけじゃねー。この部屋自体がさっきよりも寒くなってやがる!」
「それも私の魔法だ。この部屋の気温は少しずつ下がっていっている。そしていずれは、絶対零度に到達する」
「そうかよ、つまりそうなる前にお前を倒せってことだな!」
「残念だが……そうなる前にお前は戦えなくなる」
ジェラートは異常に長い腕で、不意打ち気味に掌底を繰り出す。拳凰は地面を蹴って後ろに跳び、かろうじて避けた。
「その手に触られたら凍るんだろ? お前そんな感じだろうしな」
拳凰よりも長身の上、圧倒的なリーチを誇る腕。単純な格闘戦であったとしても強敵になることは間違いない相手。しかも番号からして第四使徒プルコギよりも強いことが約束されている。これほどの相手と戦えることに、拳凰の胸は高鳴った。
拳凰が距離を取ると、ジェラートは右掌を前に出し魔法陣を展開。氷柱を発射した。
「そんなもんが効くかよ!」
氷柱を裏拳で粉砕しながら、拳凰は進撃。
「てめーがどんだけ硬かろうと、俺の拳で粉砕するだけだ!」
一方で、大聖堂最上部。
気体と化したフォアグラに対し、ハンバーグはパンチの連打で畳み掛ける。拳が突き抜ける度突風が巻き起こり、気体化したフォアグラは吹き飛び霧散する。だがそれはただ拳がすり抜けたに過ぎず、何のダメージにもならなかった。あらゆる攻撃を無効化する、無敵の気体化魔法。フォアグラを最強たらしめる所以の一つである。
(ちっ、厄介な魔法使いやがる)
物理攻撃が通用しないことは十分に理解したので、ハンバーグは攻撃をやめて距離を取る。敵はまるでこちらを嘲笑うかのように、何の反撃もせずただ気体化魔法を見せつけていた。
出方を窺うハンバーグであったが、フォアグラは煙のように部屋全体に広がるのみで、攻撃してくる気配が無い。
「どうしたよ? 無敵の教祖様は守りだけか?」
軽く煽ってみるも、特に反応は無い。
煙はだんだんと濃くなり、ハンバーグの視界を遮る。
(こいつ……何か仕掛けてくる気だ!)
そう思った矢先のことだった。突然、ハンバーグを眠気が襲った。
(何だ、急に……)
どこか心地よい感覚。まるで暖かく抱擁されているような気分。何故だかフォアグラが、本物の神様に見えてきた。精神の全てが、フォアグラに侵食されてゆく。
自身の肉体が変化した煙を使った洗脳魔法。第十一使徒フリッターの使う言葉による洗脳や第七使徒ヨーグルトの使う羽根による洗脳よりも遥かに効率的に洗脳を行える、フォアグラの得意技である。これによって一度に大量の洗脳兵士を作り出すことができ、教団の兵力を支えてきたのだ。
「うおあああッ!!!」
ハンバーグは気合を籠めて叫ぶ。全身から溢れ出る魔力が煙を吹き飛ばし、フォアグラの呪縛を振り切った。
「ほう、我が洗脳に打ち勝つか。せっかく手駒として使ってやろうと思ったものを」
「生憎、精神攻撃使いとの戦いには慣れてるんでな。それに俺が忠誠を誓うのは生涯ムニエル様ただ一人。間違ってもてめえの手下になんざならねえ!」
「せっかく苦しまずに終わらせてやろうとしたものを。その選択、後悔するがよい」
フォアグラが円を描くように右手を動かすと、その周囲で煙が渦を巻いた。
「エアブレード」
渦の中から空気の刃が高速で射出され、ハンバーグを狙う。その軌道を瞬時に見極めたハンバーグは、サイドステップで避ける。だが地面に当たって炸裂した空気の刃が、ハンバーグの右足を切り裂いた。
「ぐっ!?」
傷は浅い。だが足の負傷は動きを鈍らせるには十分。
「さて、どこから切り落としてやろうか」
フォアグラは渦を手でかき混ぜながら、邪悪な笑みを見せる。
己を気体化する魔法が防御面での最強能力ならば、己の周囲の気体を操る魔法は攻撃面での最強能力。空気ある限り強力な斬撃を幾らでも繰り出せる、フォアグラを最強たらしめる所以の一つ。
一先ず様子見とばかりに、フォアグラはエアブレードを三発打ち出す。これをハンバーグは先程より大きく跳んで回避。今度はノーダメージで避け切った。
「視界が悪い中でよく避けられたものだ。同じ獅子座として誇りに思うぞ」
「こちとら元盗賊。夜目も直感も他の奴らより優れてるんでな」
「我が教団は、戦力となるならば犯罪者とて歓迎する。我々と共に来ていれば良き使徒となったろうに、勿体無いことだ」
「さっきも言ったろ。俺が忠誠を誓うのは、生涯ムニエル様ただ一人だ!」
再び飛んできた刃を避けて、ハンバーグは着地。その間も空中に浮かぶフォアグラからは目を離さない。
ふと、渦を纏うフォアグラの右手がこちらを向いていないことに気付いた。狙う先は、倒れているソーセージ。
「野郎!」
ハンバーグはソーセージの方に駆け出し、千切れた手足はやむを得ず放置し本体だけを抱えた。ハンバーグが拾い上げた直後、先程までソーセージのいた位置でエアブレードが炸裂。ソーセージの手足をバラバラに切り刻んだ。
ソーセージはまだ脈がある。かろうじて生きているようだ。一先ずは安心――そう思った矢先、空気の動く感覚をハンバーグは肌で感じた。エアブレードが、眼前に迫る。ソーセージを攻撃したのは、庇うことを狙った囮。その先に本命の一撃が待っていたのだ。
瞬時にそれを理解したハンバーグは右手にソーセージを抱えたまま、左手に魔力を集中。真正面からエアブレードに拳で立ち向かった。拳で触れる瞬間に、エアブレードは炸裂。無数の斬撃が拳を切り裂く。たとえ魔力でコートしても、相手の魔力の方が高い以上は完璧には防ぎきれず。かろうじて指は付いたままだが左手はズタズタに引き裂かれた。それでも命に関わる敵の必殺技を、利き手じゃない方の手一つの犠牲で防げたならば上々である。
「仲間を庇うか……見かけに寄らず優しいのだな」
「こいつはいつもいつも意味不明なことばかり言ってるわけのわからん奴だが、一応なりにも騎士団の一員だ。死なれるわけにはいかねえんだよ」
ハンバーグは自分の入ってきた扉を開けると、部屋の外にソーセージを投げ出す。ここならばフォアグラの攻撃に巻き込まれることもないし、後から来た仲間に手当てして貰えるだろうと思ってのことである。
「あの男は私に手も足も出ずに倒された。実に弱い。尤も、拷問にかけても決して情報を吐かなかったことだけは立派だったがな」
ハンバーグが仲間を想った行動を取ったのを見ると、途端フォアグラはソーセージの四肢を切り落としたまま生かしておいた理由を嬉々として語る。
「そいつは俺を挑発して逆上させようって魂胆か?」
口汚い挑発で敵の逆上を狙う戦術はハンバーグの十八番。だが今は、それを自分がされる立場。
「今の騎士団は随分と弱くなったものだ。私がいた頃はもっと強かったぞ。何故なら私がいたのだからな」
「騎士フォアグラは決して自分を驕らず何時如何なる時も謙遜している男だと聞いたが、随分と違うな」
「自分を偽るのはやめたのだ。今の私は神・フォアグラ。神には神に相応しい振る舞いがある」
「お前が神に相応しいとは思えねえな」
挑発に挑発で返すハンバーグは、依然冷静さを失っていない。その様子を見て、フォアグラはふっと笑った。
「しかし私はここまでお前の攻撃を一度も喰らっていない。そんなざまでどうやって私を倒す気かね?」
渦巻く煙の中からまた打ち出されたエアブレードを、ハンバーグは避ける。
フォアグラの指摘通り、ハンバーグは防戦一方だ。どうにかして敵にダメージを与える手段を見つけないことには、ただこちらが一方的に消耗するのみである。
(まあここは俺の直感を信じてやってみるしかねえな)
既に使い物にならなくなっている左手を気合で開き、ハンバーグは両掌に魔力を集める。溜めの隙目掛けてエアブレードが飛んできたが、それは完璧に見切って避ける。
ある程度魔力が溜まったところでハンバーグは両手首を合わせて作った砲口をフォアグラに向ける。
「こっちも必殺技で行かせてもらう! デス・アンド・デスキャノン!」
魔力によって形成された獅子の頭部から、咆哮と共に発射される破壊光線。大聖堂をも揺るがす衝撃。一瞬にして煙を晴らす超威力が、フォアグラを穿つ。
「ククク……何かと思えばただのビームか。物理攻撃でなければ効くとでも思ったか?」
確かに破壊光線はフォアグラを貫いた。だがどこからともなく聞こえる余裕の声が、ノーダメージを物語っている。
「当然、これが効くとは思っちゃいねえよ」
ハンバーグの言葉を聞いて、フォアグラは異変に気が付いた。光線は壁を貫通し、上空を高速で飛行するこの大聖堂に穴を開けていたのである。そしてそこから、自分自身の一部である煙が漏れ出しているのだ。
「外側は強固な結界も、内側からなら壊せる。空中に飛び出してバラバラになりやがれ!」
気体であるが故の弱点。密室の中では無敵だが、外に出してしまえばあっという間に分散してしまう。それがハンバーグの考えであった。しかし。
「ハーッハッハッハ! そんなものか!」
一度外に出た煙はすぐ部屋の中に吸い込まれ戻ってきた。そして全ての煙が一箇所に寄り集まり、実体のフォアグラを形作ったのである。
「この程度の浅はかな考えしか浮かばぬとは、頭の程が知れる」
渾身の作戦が不発に終わり、ハンバーグは動揺。その表情を待っていたとばかりに、フォアグラは目を見開いて笑った。
「ああ、いい表情だ。この男には何をやっても勝てない、そう思っている顔だ。私は敵のそういう顔を見るのが本当に大好きでね」
ハンバーグは歯を食いしばって駆け出し、右手でぶん殴る。しかしフォアグラは瞬時に実体から気体に体の構成を変え、拳をすり抜けた。
「もう一ついいことを教えてやろう。外に出た“私”は残らず全て回収したが、今の私は“私”の全てを回収しきったわけではない。この意味がわかるか?」
「知るかそんなもん!」
「私がエアブレードを連発していたのは、お前を走り回らせ激しく呼吸させるためだ。そう言えばわかるか?」
フォアグラは畳み掛ける。ハンバーグははっとした。
「てめえまさか……!」
フォアグラは手で銃を形作るようにして、人差し指でハンバーグを指す。
「今、お前の肺は“私”で一杯だ」
ハンバーグの顔が一瞬青ざめた。慌てて肺から出そうと咳き込むも、全く出てくる気配が無い。
「お前の身体能力は素晴らしかった。負傷した足で駆け回り、負傷した手で魔力砲を撃つ。私のしもべとして欲しい人材だったよ。だがお前が私の敵である以上、殺さねばなるまい」
肺の中で何かが蠢いているのを、ハンバーグは感じた。
「神に挑んだ愚か者に、神罰を与える」
フォアグラは右手を上げて、天井を指差す。
「ドグマブレード」
次の瞬間、ハンバーグの胸を切り裂き、煙と共にエアブレードが飛び出した。
「ゴフッ……」
ハンバーグは吐血し、床に膝を突く。
(い、息ができねえ……!)
肺の傷口から空気が抜けてゆく。これがフォアグラが本当に狙っていた、真の必殺技。
胸から出た煙は全てフォアグラが回収し、自らの身体に戻した。
「言っただろう、私の洗脳を受け入れていれば苦しまずに済んだと。お前の死に方は窒息死だ。苦しみながら死ぬといい」
<キャラクター紹介>
名前:ラザニア
性別:男
年齢:享年59
身長:186
髪色:金
星座:天秤座
趣味:映画鑑賞
その行動を見た時点で、拳凰はこの男に自分の攻撃を防ぐ手段があることを察した。だがそれでも、迷わず突っ込んだのである。
顔面の中心を的確に打ち抜いた一発。だがそれは顔面を凹ますばかりか当たった位置から微塵も先に進まず、パンチの衝撃は全て拳凰自身に帰ってきた。
「ぐああっ! 痛ってえ~!」
左手で右の拳を押さえながら、拳凰は飛び退く。
「こ、こいつ、何て硬さだ!」
ジェラートの顔の前面は氷の防壁に覆われていた。膜のように薄い防壁だが、その防御力は信じ難いほどに高い。
奇しくも下級幹部最強の地位を持つ第八使徒トリガラも、己の防御力に絶対的な自信を持つ男であった。鋼の肉体を自称し、事実肉体を鋼に変える魔法を使っていた。しかしそのトリガラにさえ、あれと比べたら自分はあまりにも脆いと言わしめた。それこそが、鋼よりも硬い氷の防壁。絶対零度のジェラートなのである。
拳凰は防壁の無いこめかみ目掛けてハイキックを放つが、すぐ防壁がそこにも生成されて足を阻んだ。
「痛え! それに冷てえ!」
拳も足も、触れたのは一瞬ながらそれだけで凍りつきそうなほど冷たかった。
「つーかこいつの体だけじゃねー。この部屋自体がさっきよりも寒くなってやがる!」
「それも私の魔法だ。この部屋の気温は少しずつ下がっていっている。そしていずれは、絶対零度に到達する」
「そうかよ、つまりそうなる前にお前を倒せってことだな!」
「残念だが……そうなる前にお前は戦えなくなる」
ジェラートは異常に長い腕で、不意打ち気味に掌底を繰り出す。拳凰は地面を蹴って後ろに跳び、かろうじて避けた。
「その手に触られたら凍るんだろ? お前そんな感じだろうしな」
拳凰よりも長身の上、圧倒的なリーチを誇る腕。単純な格闘戦であったとしても強敵になることは間違いない相手。しかも番号からして第四使徒プルコギよりも強いことが約束されている。これほどの相手と戦えることに、拳凰の胸は高鳴った。
拳凰が距離を取ると、ジェラートは右掌を前に出し魔法陣を展開。氷柱を発射した。
「そんなもんが効くかよ!」
氷柱を裏拳で粉砕しながら、拳凰は進撃。
「てめーがどんだけ硬かろうと、俺の拳で粉砕するだけだ!」
一方で、大聖堂最上部。
気体と化したフォアグラに対し、ハンバーグはパンチの連打で畳み掛ける。拳が突き抜ける度突風が巻き起こり、気体化したフォアグラは吹き飛び霧散する。だがそれはただ拳がすり抜けたに過ぎず、何のダメージにもならなかった。あらゆる攻撃を無効化する、無敵の気体化魔法。フォアグラを最強たらしめる所以の一つである。
(ちっ、厄介な魔法使いやがる)
物理攻撃が通用しないことは十分に理解したので、ハンバーグは攻撃をやめて距離を取る。敵はまるでこちらを嘲笑うかのように、何の反撃もせずただ気体化魔法を見せつけていた。
出方を窺うハンバーグであったが、フォアグラは煙のように部屋全体に広がるのみで、攻撃してくる気配が無い。
「どうしたよ? 無敵の教祖様は守りだけか?」
軽く煽ってみるも、特に反応は無い。
煙はだんだんと濃くなり、ハンバーグの視界を遮る。
(こいつ……何か仕掛けてくる気だ!)
そう思った矢先のことだった。突然、ハンバーグを眠気が襲った。
(何だ、急に……)
どこか心地よい感覚。まるで暖かく抱擁されているような気分。何故だかフォアグラが、本物の神様に見えてきた。精神の全てが、フォアグラに侵食されてゆく。
自身の肉体が変化した煙を使った洗脳魔法。第十一使徒フリッターの使う言葉による洗脳や第七使徒ヨーグルトの使う羽根による洗脳よりも遥かに効率的に洗脳を行える、フォアグラの得意技である。これによって一度に大量の洗脳兵士を作り出すことができ、教団の兵力を支えてきたのだ。
「うおあああッ!!!」
ハンバーグは気合を籠めて叫ぶ。全身から溢れ出る魔力が煙を吹き飛ばし、フォアグラの呪縛を振り切った。
「ほう、我が洗脳に打ち勝つか。せっかく手駒として使ってやろうと思ったものを」
「生憎、精神攻撃使いとの戦いには慣れてるんでな。それに俺が忠誠を誓うのは生涯ムニエル様ただ一人。間違ってもてめえの手下になんざならねえ!」
「せっかく苦しまずに終わらせてやろうとしたものを。その選択、後悔するがよい」
フォアグラが円を描くように右手を動かすと、その周囲で煙が渦を巻いた。
「エアブレード」
渦の中から空気の刃が高速で射出され、ハンバーグを狙う。その軌道を瞬時に見極めたハンバーグは、サイドステップで避ける。だが地面に当たって炸裂した空気の刃が、ハンバーグの右足を切り裂いた。
「ぐっ!?」
傷は浅い。だが足の負傷は動きを鈍らせるには十分。
「さて、どこから切り落としてやろうか」
フォアグラは渦を手でかき混ぜながら、邪悪な笑みを見せる。
己を気体化する魔法が防御面での最強能力ならば、己の周囲の気体を操る魔法は攻撃面での最強能力。空気ある限り強力な斬撃を幾らでも繰り出せる、フォアグラを最強たらしめる所以の一つ。
一先ず様子見とばかりに、フォアグラはエアブレードを三発打ち出す。これをハンバーグは先程より大きく跳んで回避。今度はノーダメージで避け切った。
「視界が悪い中でよく避けられたものだ。同じ獅子座として誇りに思うぞ」
「こちとら元盗賊。夜目も直感も他の奴らより優れてるんでな」
「我が教団は、戦力となるならば犯罪者とて歓迎する。我々と共に来ていれば良き使徒となったろうに、勿体無いことだ」
「さっきも言ったろ。俺が忠誠を誓うのは、生涯ムニエル様ただ一人だ!」
再び飛んできた刃を避けて、ハンバーグは着地。その間も空中に浮かぶフォアグラからは目を離さない。
ふと、渦を纏うフォアグラの右手がこちらを向いていないことに気付いた。狙う先は、倒れているソーセージ。
「野郎!」
ハンバーグはソーセージの方に駆け出し、千切れた手足はやむを得ず放置し本体だけを抱えた。ハンバーグが拾い上げた直後、先程までソーセージのいた位置でエアブレードが炸裂。ソーセージの手足をバラバラに切り刻んだ。
ソーセージはまだ脈がある。かろうじて生きているようだ。一先ずは安心――そう思った矢先、空気の動く感覚をハンバーグは肌で感じた。エアブレードが、眼前に迫る。ソーセージを攻撃したのは、庇うことを狙った囮。その先に本命の一撃が待っていたのだ。
瞬時にそれを理解したハンバーグは右手にソーセージを抱えたまま、左手に魔力を集中。真正面からエアブレードに拳で立ち向かった。拳で触れる瞬間に、エアブレードは炸裂。無数の斬撃が拳を切り裂く。たとえ魔力でコートしても、相手の魔力の方が高い以上は完璧には防ぎきれず。かろうじて指は付いたままだが左手はズタズタに引き裂かれた。それでも命に関わる敵の必殺技を、利き手じゃない方の手一つの犠牲で防げたならば上々である。
「仲間を庇うか……見かけに寄らず優しいのだな」
「こいつはいつもいつも意味不明なことばかり言ってるわけのわからん奴だが、一応なりにも騎士団の一員だ。死なれるわけにはいかねえんだよ」
ハンバーグは自分の入ってきた扉を開けると、部屋の外にソーセージを投げ出す。ここならばフォアグラの攻撃に巻き込まれることもないし、後から来た仲間に手当てして貰えるだろうと思ってのことである。
「あの男は私に手も足も出ずに倒された。実に弱い。尤も、拷問にかけても決して情報を吐かなかったことだけは立派だったがな」
ハンバーグが仲間を想った行動を取ったのを見ると、途端フォアグラはソーセージの四肢を切り落としたまま生かしておいた理由を嬉々として語る。
「そいつは俺を挑発して逆上させようって魂胆か?」
口汚い挑発で敵の逆上を狙う戦術はハンバーグの十八番。だが今は、それを自分がされる立場。
「今の騎士団は随分と弱くなったものだ。私がいた頃はもっと強かったぞ。何故なら私がいたのだからな」
「騎士フォアグラは決して自分を驕らず何時如何なる時も謙遜している男だと聞いたが、随分と違うな」
「自分を偽るのはやめたのだ。今の私は神・フォアグラ。神には神に相応しい振る舞いがある」
「お前が神に相応しいとは思えねえな」
挑発に挑発で返すハンバーグは、依然冷静さを失っていない。その様子を見て、フォアグラはふっと笑った。
「しかし私はここまでお前の攻撃を一度も喰らっていない。そんなざまでどうやって私を倒す気かね?」
渦巻く煙の中からまた打ち出されたエアブレードを、ハンバーグは避ける。
フォアグラの指摘通り、ハンバーグは防戦一方だ。どうにかして敵にダメージを与える手段を見つけないことには、ただこちらが一方的に消耗するのみである。
(まあここは俺の直感を信じてやってみるしかねえな)
既に使い物にならなくなっている左手を気合で開き、ハンバーグは両掌に魔力を集める。溜めの隙目掛けてエアブレードが飛んできたが、それは完璧に見切って避ける。
ある程度魔力が溜まったところでハンバーグは両手首を合わせて作った砲口をフォアグラに向ける。
「こっちも必殺技で行かせてもらう! デス・アンド・デスキャノン!」
魔力によって形成された獅子の頭部から、咆哮と共に発射される破壊光線。大聖堂をも揺るがす衝撃。一瞬にして煙を晴らす超威力が、フォアグラを穿つ。
「ククク……何かと思えばただのビームか。物理攻撃でなければ効くとでも思ったか?」
確かに破壊光線はフォアグラを貫いた。だがどこからともなく聞こえる余裕の声が、ノーダメージを物語っている。
「当然、これが効くとは思っちゃいねえよ」
ハンバーグの言葉を聞いて、フォアグラは異変に気が付いた。光線は壁を貫通し、上空を高速で飛行するこの大聖堂に穴を開けていたのである。そしてそこから、自分自身の一部である煙が漏れ出しているのだ。
「外側は強固な結界も、内側からなら壊せる。空中に飛び出してバラバラになりやがれ!」
気体であるが故の弱点。密室の中では無敵だが、外に出してしまえばあっという間に分散してしまう。それがハンバーグの考えであった。しかし。
「ハーッハッハッハ! そんなものか!」
一度外に出た煙はすぐ部屋の中に吸い込まれ戻ってきた。そして全ての煙が一箇所に寄り集まり、実体のフォアグラを形作ったのである。
「この程度の浅はかな考えしか浮かばぬとは、頭の程が知れる」
渾身の作戦が不発に終わり、ハンバーグは動揺。その表情を待っていたとばかりに、フォアグラは目を見開いて笑った。
「ああ、いい表情だ。この男には何をやっても勝てない、そう思っている顔だ。私は敵のそういう顔を見るのが本当に大好きでね」
ハンバーグは歯を食いしばって駆け出し、右手でぶん殴る。しかしフォアグラは瞬時に実体から気体に体の構成を変え、拳をすり抜けた。
「もう一ついいことを教えてやろう。外に出た“私”は残らず全て回収したが、今の私は“私”の全てを回収しきったわけではない。この意味がわかるか?」
「知るかそんなもん!」
「私がエアブレードを連発していたのは、お前を走り回らせ激しく呼吸させるためだ。そう言えばわかるか?」
フォアグラは畳み掛ける。ハンバーグははっとした。
「てめえまさか……!」
フォアグラは手で銃を形作るようにして、人差し指でハンバーグを指す。
「今、お前の肺は“私”で一杯だ」
ハンバーグの顔が一瞬青ざめた。慌てて肺から出そうと咳き込むも、全く出てくる気配が無い。
「お前の身体能力は素晴らしかった。負傷した足で駆け回り、負傷した手で魔力砲を撃つ。私のしもべとして欲しい人材だったよ。だがお前が私の敵である以上、殺さねばなるまい」
肺の中で何かが蠢いているのを、ハンバーグは感じた。
「神に挑んだ愚か者に、神罰を与える」
フォアグラは右手を上げて、天井を指差す。
「ドグマブレード」
次の瞬間、ハンバーグの胸を切り裂き、煙と共にエアブレードが飛び出した。
「ゴフッ……」
ハンバーグは吐血し、床に膝を突く。
(い、息ができねえ……!)
肺の傷口から空気が抜けてゆく。これがフォアグラが本当に狙っていた、真の必殺技。
胸から出た煙は全てフォアグラが回収し、自らの身体に戻した。
「言っただろう、私の洗脳を受け入れていれば苦しまずに済んだと。お前の死に方は窒息死だ。苦しみながら死ぬといい」
<キャラクター紹介>
名前:ラザニア
性別:男
年齢:享年59
身長:186
髪色:金
星座:天秤座
趣味:映画鑑賞
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あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
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日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。
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