ヤンキーVS魔法少女

平良野アロウ

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第四章 本戦編Ⅰ

第79話 奴らが来る

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 Bブロック一回戦第二試合は、二対二の対戦ルールで行われた。善戦するチーム・余りものⅠであったが、一歩及ばず。チーム・パラダイスが一勝を手にした。
 その後、王立競技場で試合を行った三十二名の魔法少女達は、再びステージ上に整列していた。
 堂々と立つ者、笑顔で観客に手を振る者、悔しさを噛み締める者。一同に並ぶ魔法少女達も、表情は人それぞれ。
「これにて、王立競技場における本日の全試合が終了致しました。それでは本日の試合結果を振り返ってみましょう」
 タコワサの合図によって、モニターに結果が表示される。

・Aブロック
○ヴァンパイアロードVSラブリープリンセス●
○ショート同盟VS桜吹雪●

・Bブロック
○ウルトラセクシーVS烈弩哀図●
○パラダイスVS余りものⅠ●

・Cブロック
○格闘少女VSハイパードリル●
●たまごVSにゃんこ大好き○

・Dブロック
○幼馴染VSハリケーン●
●最強無敵絶対優勝VS余りものⅡ○

 既に王都球場の方でも全試合終了していたようで、向こうでの対戦結果も一緒に表示されていた。
「本日勝利した皆さんはおめでとうございます。負けてしまった皆さんも、まだまだ諦めずに頑張って下さい」
(勿論そのつもりよ……)
 タコワサのアナウンスに、歳三は闘志を燃やしながら心の中で返事をする。
「ところでザルソバさん、今回の結果については如何ですか?」
「ええ、今回は優勝候補と呼ばれるレベルの選手同士による対戦も複数回あり、とても見応えのある試合を楽しめました。明日の試合も好カードが目白押しで今から楽しみですね」
「さて、明日の試合の話題が出たところで、明日の対戦カードも発表致しましょう」
 モニターの表示が切り替わる。

・王立競技場
Bブロック二回戦第一試合 余りものⅠVS烈弩哀図
Bブロック二回戦第二試合 ウルトラセクシーVSパラダイス

Dブロック二回戦第一試合 幼馴染VS最強無敵絶対優勝
Dブロック二回戦第二試合 余りものⅡVSハリケーン

・王都球場
Aブロック二回戦第一試合 ヴァンパイアロードVSショート同盟
Aブロック二回戦第二試合 桜吹雪VSラブリープリンセス

Cブロック二回戦第一試合 ハイパードリルVSにゃんこ大好き
Cブロック二回戦第二試合 たまごVS格闘少女

「Bブロックは引き続きこちらの王立競技場で。Aブロックは王都球場での対戦となります」
 対戦チームの名前を見て、花梨ははっとする。
(ヴァンパイアロード……ケン兄の同級生の二人がいるチームだよね。それにアイドルの麗子ちゃんも。物凄く強い魔法少女が少なくとも二人いるチーム……大変な試合になりそう)
「それでは、改めて魔法少女の皆様に盛大な拍手をお願いします」
 観客席からは、天まで響く大音量の拍手。花梨は拳凰の方へと顔を向けた。だがその場所の席がぽかんと三つ空いている。
(あれ? ケン兄いない? 他の二人も……どうしたんだろ?)
「花梨どうかした?」
「ううん、何でもない」
 夏樹から声をかけられ、花梨は誤魔化す。
「さて、それではこれより魔法少女の皆さんをホテルにお送り致します。今日はホテルでゆっくりとおくつろぎ下さい」
 ザルソバがそう言うと、全員纏めてこの場からすっと消えた。
「実況はタコワサ、解説はザルソバさんでお送り致しました。それでは皆さん、明日もまたこの会場でお会いしましょう」
 タコワサの挨拶で締め、本日は閉会。ザルソバはすぐに解説の席を立った。
 控え室に戻ったところで、そこでは一人の兵士がザルソバを待っていた。ザルソバは兵士に尋ねる。
「それで、状況は?」
「はい、不審な魔力が検知されました。他の騎士の皆様は既に会議室に向かわれました」
「やはりか。ハンターの三人が席を立つのを見てそうだとは思っていた。私もすぐに向かおう」
 ザルソバは一度人差し指で眼鏡を上げた後、雷光の如きスピードで駆け出す。あまりに素早い動きに、見ていた兵士はぽかんとしていた。

 揃ってホテルの自室に転送されたチーム・ショート同盟の四人は、途端に自分の携帯が鳴ったのに気付いた。
「何だろ、明日の試合に関することかな?」
 皆は魔法少女バトルアプリを立ち上げ、メッセージを確認する。
『本日試合終了後は自由行動を予定しておりましたが、諸事情につきホテル内での行動に限定とさせて頂きます。魔法少女の皆様は、ホテルの外に出ないようお願いします』
「えーっ、何でー?」
 読んで早速、夏樹が声を上げる。
「今日行きたいとこあったのにー」
「何かあったのでしょうか……?」
 皆がその諸事情とやらを疑問に思う中、花梨はふと心当たりを覚えていた。
(もしかしてケン兄がいなくなったことと何か関係が? また危ないことしてなければいいけど……)
 こういう時の拳凰は、決まって怪我をして帰ってくるのだ。花梨の心に不安が渦巻いた。
「うーん……それじゃどうしよ。一緒にゲーセンでも行く?」
「うん、行こっか。花梨と蓮華はどうする?」
「では、ご一緒させて頂きます」
「うん、私も……」
 拳凰が心配なのはやまやまだが、とりあえず花梨はチームメイト達と共に地下の遊技場へと向かった。

 同じくホテルに戻った他のチームにも、当然このメッセージは届いていた。
 チーム・桜吹雪の悠木歳三はそれを読むと、携帯を置き椅子に腰掛けた。
「丁度いい機会ね。今日の反省と明日の戦略について、今からしっかり話し合いましょう」
「そうねー、明日はしっかり勝つためにもそうしよっか」
「んだな」
(ひゃあー、これ話長くなりそう)
 皆がやる気を出す中で透子は一人抜け出したくなっていたが、今日の試合で負けた負い目がある分言い出せずにいた。

 その桜吹雪と明日対戦予定のチーム・ラブリープリンセスでは。
「はー? マジありえんし。今日行きたいアクセ屋あったのに運営マジムカつくし」
 由奈は文句を垂れながら携帯をベッドに投げ、すぐまた拾う。
「もういいし。その辺適当にぶらついてくるし」
 ふて腐れて部屋を出て行く由奈を、三人は黙って見送る。
「ねー天パーちゃん、らぶり姫疲れたから肩揉んでくんない?」
 由奈が出て行ったところで、らぶり姫は図々しく芽衣のベッドに腰掛けて命令。芽衣はおどおどしながら戸惑う。
「ええ……? その、先輩……」
「あんた補欠で何もしてないんだからそのくらいしなさいよ。あーあ、補欠は楽でいいわねー」
(先輩が補欠にさせたのに……)
 らぶり姫と芽衣は、同じ中学の漫画研究部における先輩と後輩の関係である。同部の女子はこの二人だけで、芽衣はらぶり姫から専らしもべ扱いを受けていた。天パーちゃんというあだ名を付けられて、コンプレックスの天然パーマをいつも笑いものにしてくる。はっきし言って、苦手なことこの上ない先輩である。
 妖精界という思いもよらぬ場所でらぶり姫と出くわした時の芽衣の表情は、絶望で死にそうなものだった。どうにか逃げたかったが結局見つかり、同意無しにチームに加入させられた。
 ただでさえあまり雰囲気のよくないチームなのに、試合に負けたとあっては尚更であった。
 らぶり姫とそりが合わない由奈は早々に出て行ってしまい、憲子はこちらに無関心で常にチームメイトと距離を置いている。今ここに救いの手は無い。
 ふと芽衣の脳裏に、勝利を喜び合うチーム・ショート同盟の姿が映った。
(夏樹ちゃんとこのチーム、和気藹々としてて楽しそうだったな……私もあっちに入りたかった)
 肩を揉む力を強くして痛がらせたいと思ったが、怒られるのが怖いので思うだけに留める。
「あー、なんか思い出したらムカついてきたー」
 そう発言するらぶり姫に対し、芽衣は自分がそう言いたいと心の中で呟く。
「ホントあのド貧乳ブチ殺したい。顔に傷付けて二度とアイドルやれなくしてやりたい」
 躊躇無く怖いことを言ってきても、芽衣は黙って聞き流す。
「ねえ天パーちゃん、今日使わなかった以上明日は天パーちゃんに最初に出てもらうことになるからね。相手は今日負けた方のチームだから大したことないとは思うけど、負けたら承知しないからね」
(そんな無責任な……)
 負けたから大したことないという安直な思い込みに、芽衣は不安を募らせる。これがリーダーでは勝てる試合も勝てないと、ますます気は落ち込むばかりであった。

 そしてAブロック最後の一角、チーム・ヴァンパイアロード。
 メッセージに最初に反応を見せたのは麗羅であった。
「外出禁止ね……まさか今回もまたトラブルだったり?」
「今回もって、前回の大会では何かあったの?」
 智恵理が問いかけると、前回大会を知る麗羅は語り始めた。
「ええ、とんでもないトラブルがあったの。最終予選が終わってから本戦が始まるまでの時期に、当時の王様とその家族が暗殺されるっていうね」
「あ、暗殺!?」
「それはまた物騒な」
「ええ、それで大会が中止になりかけたの」
 当時の騒乱が、麗羅の脳裏に鮮明に思い出される。
「正直、当時はドイツの家に帰れるかどうかもわからなくてすっごく不安だったというか……」
「それは大変でしたね……」
「今の王様は当時の王様の息子なんだけど、その人も暗殺者の襲撃を受けて顔に一生消えない傷を負ったそうなの。それ以来常に仮面を付けて生活してて、人前にもあまり出てこなくなったんだとか」
「そういえば、最終予選の開会式で挨拶してたのも王様じゃなくてお姫様だったよね」
「前回の開会式で挨拶してたのは王様じゃなくて王子様だったよ。その暗殺された王様ってのが、ベッドから起き上がれないくらいのお爺さんだったそうで」
「妖精界の王族は災難ね……でも、中止になりかけた大会は無事再開できたんでしょう?」
「ええ、王様が暗殺されて騎士団の皆さんてんやわんやだったんだけど、一人の騎士が中心に立って指揮をとってくれたの。そのお陰で大会は無事再開できたんだよ」
「そっかー、そんなに凄い騎士がいたんだね。もしかして、今もいる人?」
 智恵理が尋ねると、麗羅の表情がふと曇った。
「どうかしたの?」
「あっ、ううん。その人は今はもう辞めちゃったみたいで……」
 と、その時だった。突如ホテル内にけたたましいサイレンが鳴り響いたのだ。
「な、何!?」
『テロ発生! テロ発生! 王都内でテロが発生致しました! 宿泊されている皆様は決してホテルから出ないで下さい!』
 慌てた口調で叫ぶアナウンス。突然の非常事態に、魔法少女達の心はざわめく。
「テ、テロって……」
 梓はふと思い立ち、先程送られてきたメッセージを再び開いた。
「もしかして、外に出るなってのは今日テロが起こることを知ってて……!」
「まさか、フォアグラ教団!?」
 急に聞き慣れない単語を麗羅が言ったので、三人はそちらを向く。
「小鳥遊さん、何か知ってるの?」
「え、ええ。今この国を悩ませてるテロ組織よ。そのボスは、元妖精騎士――」


 それは二次予選も半ばに差し掛かり、麗羅が現在の騎士団の顔を大体覚えてきた頃のことであった。
 グラビアの撮影を終えて控え室に戻ってきた麗羅は、そこで待っていたポタージュに一つ尋ねた。
「ねえポタージュ、騎士団の人達って前回の大会とは結構変わってるじゃない? ジンギスカンさんのことは前に聞いたけど、他の辞めてった人達って今どうしてるのか知ってる?」
「えー? 知ってるけどどうした的な?」
「ほら、前回騎士団の皆さんには色々とお世話になったし、ちょっと気になってて」
「んー、めんどくさい的なー。まあいいけど。まず魚座のラタトゥイユはこっちには来てないけど、蛇遣座オフュカスっていう特別枠的なとこでまだ騎士団に籍置いてる的な。そんで双子座のユドーフと蟹座のドリアは、色々あって死んじゃった的な」
「えっ!? そ、それはご愁傷様です……」
「ま、僕ら妖精界の平和を守るのも仕事だから、そういうこともある的な。そんで最後に獅子座のフォアグラだけどー、あいつホントムカつく的な。騎士団を辞めた挙句宗教組織立ち上げて教祖になった的で、しかも国家転覆狙って信者達にテロ起こさせてる的な」
「えっ!? じょ、冗談でしょ!?」
「冗談なわけない的な」
「だって、あのフォアグラさんでしょ!? あの凄い人格者で、前回大会にあんなに貢献してた……」
「だーから冗談じゃない的な」
 結局、それ以上ポタージュは何も教えてはくれなかった。


「私はポタージュの話がどうしても信じられなくって、でもこっちの世界に来て本当なんだってわかった。あのフォアグラさんが一体どうして……」
 話を聞いていた三人も、言葉が出ない様子だった。
「……そういえば」
 最初に口を開いたのは、梓である。
「私も街で見たわ、テロへの注意を喚起する張り紙。フォアグラ教団って名前もそこに書いてあった。前回大会に貢献してた人格者だそうだけど、平和を守るはずの騎士がテロリストなんかになるだなんてその時点でどうかしてるわ」
「うん、それは私もわかってるけど……」
「あっ、あれ!」
 突然智恵理が叫ぶ。智恵理の指は窓の外を指していた。
 そこには一人の男。背負ったジェットパックで空を飛び、二丁拳銃を手にした怪しい男だ。
「魔法少女、みーつけたー」
 男はそう言って銃口をこちらに向け、不気味な笑みを見せた。


<キャラクター紹介>
名前:令緒れお春子はるこ
性別:女
学年:中二
身長:158
3サイズ:85-59-87(Cカップ)
髪色:黒
髪色(変身後):緑
星座:双子座
衣装:戦車風
武器:戦車砲
魔法:背中の戦車砲を撃てる
趣味:戦車研究
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