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第四章 本戦編Ⅰ
第75話 激突姉妹
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悠木歳三、山羊座の十五歳。いいとこのお嬢さんであり、名門女子校に通う高校一年生。好きな色はピンク。規律に厳しく品行方正で絵に描いたような優等生。そんな彼女の一番の悩みは――自分の名前。
日本史オタクの父は息子が生まれたら一番好きな歴史上の人物から取った名前を付けたいと思っていたが、生まれてきたのは女の子。そのため読みだけ変えて歳三となった。
だがその結果、名前の字だけ見て男子と間違われることが頻発。それを理由にからかわれることも多かった。
そしてそれに輪をかけるのが、父親の言動であった。元々息子が欲しいと思っていた父親は、歳三を男の子のように育てようとしてきた。野球やサッカーをやらせようとしてきたり、髪を短く切らせようとしてきたり。そんな父親への反発心もあって、歳三は自然と上品で女らしい趣味や服装を好むようになっていった。中でも母の持っている着物には強い憧れを持ち、母に頼んで日本舞踊を習わせて貰った。中学からは女子校に行き、どうやったって男子に間違われることのない環境で安心して過ごしていた。
そんな歳三を悩ませるもう一つの存在が、妹の小梅であった。自分と違って母が付けた可愛い名前の女の子。そんな妹があまりに可愛くて、歳三は自然とシスコンが発症した。自分も平均以上のルックスだと自覚はしているが、妹はすぐにでも芸能界に行けるレベル。自分のお下がりの可愛い服やアクセサリーをあげまくり、さながら着せ替え人形のように可愛がる。
だが歳三の思いに反して、小梅はボーイッシュなスポーツ少女へと成長していった。それも父親が流石に懲りて何もしてこなかったにも関わらずにである。日に焼けた肌と、男子のように短く刈った髪。それに子供っぽくて自由奔放な性格のまるでサル。まさに歳三の理想とは正反対の方向であった。
猫可愛がりから一転して小梅に厳しくなった歳三であったが、小梅は変わらず懐いてくる。それを鬱陶しく感じてしまっていた。
そんなある時、歳三は土佐弁を話すヤギの妖精と出会った。何でも彼は田舎の出身で妖精界語の訛りが強く、それが日本語に自動翻訳されると土佐弁に聞こえるらしい。その男、ミソシルにスカウトされ魔法少女となった歳三。大好きな着物と桜の花をモチーフにした美しい衣装に、自然と胸は高鳴った。
だが魔法少女となったのは自分だけではなかった。小梅とは部屋が同じであるため、彼女が魔法少女であることを知るのに時間はかからなかった。ミソシルが言うには二人の曽祖母が過去に開催された魔法少女バトルの優勝者であったために、姉妹両方が別々の騎士からスカウトされたのである。
小学生ながらこんな水着同然の衣装を着ている小梅に歳三は絶句したが、本人はこれを気に入っているようであった。やはり妹のファッションセンスは自分とは合わないと、尚更に思った。
二人とも曽祖母同様実力は高く、一次・二次予選は難なく突破。揃って妖精界へ旅立つこととなったのである。そして最終予選にも無事勝ち残り、次はチームを組んで戦う本戦である。
昨日の朝、放送を見た小梅は歳三の部屋に駆け込んできた。
「姉ちゃん! さっきの放送見た!?」
「ええ」
歳三は鍵を開けながら、扉越しに返事をする。部屋に入った小梅は、遠慮なくベッドに腰掛けた。
「とりあえずあと二人集めなきゃなー。姉ちゃんは誰か心当たりとかある? 前に戦った中で強かった人とか」
「……小梅、言っておくけど、私は貴方と組むつもりは無いわ」
「え?」
小梅は何を言っているのかわからないといった表情で歳三の顔を見た。
「今夜からチーム毎の四人部屋に変わるって概要に書いてあるわ。異世界に来てまで子守はしたくないの。貴方は貴方で他の誰かと組むといいわ」
「え……ね、姉ちゃん!?」
ぽかんとする小梅を置いて、歳三はチームを組む相手を探しに部屋を出た。
最初に声をかけてきたのは透子だった。彼女は最終予選での歳三の戦いをこっそり隠れて見ており、その圧倒的な強さと優雅さに惚れ惚れしたという。歳三はとりあえず彼女のことをアプリで調べてみたら、高一と書かれていて仰天した。小梅より背の低いこの子が、自分と同い年だったのである。
一先ず透子を仲間に加えたところで、同じ植物使いである実里、綺麗好きで気が合うひよのをこちらからスカウト。チーム名は自分の魔法から取ったチーム・桜吹雪とした。
小梅がチーム・ショート同盟を結成したことは、アプリの情報ですぐにキャッチした。ショートヘアの魔法少女ばかりを集めたチーム。小梅がよほど自分の髪型に拘りがあるというのは大方察せた。
そして本戦一回戦から、早くも桜吹雪とショート同盟の対戦が決定。今、妹は敵チームの大将として目の前に立ちはだかる。
「行くぞ姉ちゃん!」
小梅はクラウチングスタートの体勢をとると、自慢の健脚で飛び出す。だが直後、急ブレーキをかけて後ろに下がった。
歳三が扇を振ると同時にステージが揺れ、歳三の背後から大きな桜の木が生えてきたのだ。
「かかってらっしゃい小梅。一瞬で倒してあげる」
木から舞い散る桜の花弁は、それ自体が刃となり切り裂いてくる上に触れれば魔力を打ち消されるおまけ付き。更に花弁は後ろの木から絶え間なく供給される。ただそこに木があるだけで、迂闊に手を出させない強力な盾であり剣となる。
「流石姉ちゃんだ。でも負けないからね!」
小梅は歳三の右側へと走り、頃合を見計らって方向転換。右サイドから不意を付く形で狙う。だが歳三がそこから一歩も動かずたおやかに扇ぐと、木から舞い散った花弁が寄り集まって歳三を守る盾となる。小梅は急停止してから再び方向転換を繰り返し、今度は左サイドに回り込む。だが歳三はそれも読んでおり、小梅が殴りかかるよりも先に花弁の盾が歳三を守った。更に先程の花弁が小梅を追尾し、前後から挟み撃ちの形となる。
一枚一枚は軽い花弁も、寄り集まれば大きな質量となる。双方から挟み潰すような攻撃が襲い掛かるが、小梅は加速ダッシュでまずは避ける。だが避けられると同時に花弁の塊は分離して拡散、広範囲に向けて花弁カッターを発射した。最早小梅に逃げ場は無い。動けば動くほど被弾する全方位攻撃。美しくも恐ろしき桜吹雪。
「決まったああああああ!!」
タコワサが叫ぶ。大量の花弁に覆われて、小梅の姿が見えなくなった。応援する花梨達の表情には不安が宿る。
「いやー凄いですね歳三選手は。妹の小梅選手を全く寄せ付けません」
「ええ、彼女の魔法はパワー、能力、攻撃範囲、どれを取ってもハイレベル。今大会最強の一角と言っても過言ではありません。ですが、私の担当する小梅も決して負けてはいませんよ」
冷静に解説するザルソバの眼鏡が光る。
「おりゃーーーっ!!」
叫び声と共に、小梅の周囲にあった花弁が吹き飛ぶ。小梅は腰を落とし拳を突き出した体勢でどっしりと構えていた。
「こ、これはどういうことでしょう!? 小梅選手は無事です!」
「悠木歳三の操る花弁は付着すれば力が抜ける効果もあります。故にあれだけのパワーは出せない……そう考えているのでしょう。小梅の身を守ったもの、それはソニックブームです。高速で動くことによって発生したソニックブームを身に纏い花弁の付着を阻止。そして床にソニックブームを叩きつけた衝撃で周囲の花弁をも吹き飛ばしたのです」
ザルソバはここぞとばかりに早口で捲し立て、得意の解説をする。
「よ、よかった……」
花梨達はほっと一息。
「小梅さん、あんな技を隠していたんですね」
「いいぞー! 頑張れー!」
仲間の声援を受けながら、小梅は姉の立ち姿をまっすぐ見る。
「見たか姉ちゃん! あたしだってこんな凄い魔法持ってんだ!」
「……そう」
歳三はすぐにまた次の攻撃を繰り出す。先程のような高速での発射とは異なり、眠たくなりそうな程緩やかに花を舞い散らせる。
「隙だらけだよ、姉ちゃん!」
小梅が走り出すと、優雅に宙を漂っていた花弁が弾丸の如く突っ込んできた。小梅は横に加速して跳び避けるが、まるでセンサーにでも引っかかったかのように次から次へと花弁が突っ込んでくる。一つ一つ的確に躱してゆくも、その攻撃は絶え間なく続く。空中に大量の罠を仕掛け、指定された座標に来たら自動的に攻撃を繰り出す魔法だ。
急停止と急加速を繰り返す小梅。避け続けるにつれて、避け方が上手くなってきた。
「へへっ、だんだん慣れてきたよ!」
軽口を叩けるだけの余裕が出てくると、小梅は隙を見て加速ジャンプ。そして空中に漂う桜の花弁に、加速するパンチのラッシュを浴びせた。
「喰らえ! ブーストナックル連打!」
ソニックブームを纏った機関銃の如き連撃で、花弁は消滅してゆく。
「これぞ悠木小梅の真骨頂。彼女はただ走るのが速いだけの魔法少女ではありません。停止するのも早く、部分的な加速も可能。これはなかなか汎用性の高い魔法ですよ」
「ザルソバさん、自分の担当する魔法少女だけあって解説に気合が入ってますねー」
タコワサは暢気に解説者のことを実況。
小梅は着地と同時に駆け出し、一気に距離を詰める。残った花弁が頭上から突き刺そうとしてくるがそれは全て小梅の背後の床に当たる。歳三は再び花弁の塊で押し潰そうとするが、小梅はソニックブームを纏った加速するパンチでそれを吹き飛ばす。歳三のガードが空いたところで跳び上がり、大開脚で空中回し蹴り。その一撃は歳三の肩にヒット。加速するキックの一撃は強烈で、歳三は大きく吹き飛んだ。
「当たったああああ! 小梅選手、初のヒットです!」
タコワサが叫ぶ。予想外に善戦する小梅の姿に、会場は沸き立った。
ステージに沿って張られた結界に叩きつけられそうになった歳三だったが、花弁の塊をクッションにしてダメージを抑える。追撃に突っ込んできた小梅に対しては、花弁を身代わりにして回避。
「もっと余裕で勝つつもりでいたけど……考えを改めなければいけないようね」
歳三は扇を一旦閉じた後裏返して広げ、一気に振りかざす。巻き起こる突風が、花弁カッターを力強く飛ばした。更に激しくなった歳三の攻撃を、小梅はちょこまかと動き回っては時折急停止して狙いを外させたり定めさしたりを繰り返しながら回避してゆく。
少ししたところで、歳三は攻撃法を切り替える。今度は先程も使用した、回避不能の全包囲攻撃。だが一度防いでいるだけあって、その攻撃は小梅には通じない。先程と同じやり方で難なく防いだ。全方位へ攻撃できることを優先しているために一枚一枚の威力は決して高くはなく、軽いソニックブームで容易く防げるのだ。
「効かないよーん。お尻ペンペーン」
小梅は歳三に背を向けると、布面積の少ないお尻を突き出し掌でペチペチ叩いた。直後、飛んできた花弁の塊を素早く避ける。
「あ、貴方って子は……」
歳三は露骨に頭に血が上った様子だった。あえて歳三の逆鱗に触れるよう下品な行動をしての挑発、効果覿面である。
「これで終わりにしてあげる……桜花龍!」
扇を高く振り上げて叫ぶと、この場にある全ての花弁が一箇所に寄り集まる。花弁を供給していた木からも全ての花が散り、集められた花弁は巨大な東洋龍を形作った。
「遂に出たな……姉ちゃん本気の本気だ……」
この技に関しては存在こそ本人から聞かされて知っていたが、実物を見るのは初めて。ただ龍の形をしているだけというなら、何でもない花弁の塊をぶつけるのとさして変わらない。それとは違う何かがあることを、小梅は察していた。
「喰らいなさい!」
咆哮を上げ、牙を向き喰らい付こうとする桜花龍。小梅は走り回って避けるも、桜花龍は体をうねらせながら追尾する。龍のスピード自体は遅く、避けるのは難しいことではない。だが、小梅は次第に違和感に気付き始めた。
(あれ、こいつもしかして……)
長い身体でとぐろを巻き、小梅の逃げ場を塞ぐような立ち回り。気が付くと小梅は次第にステージ中央へと追い詰められていた。囲まれて身動きが取れなくなった小梅に、桜花龍はとどめとばかりに口を開き喰らい付いた。小梅はソニックブームを力一杯放出し抵抗。
爆音と共に、桜花龍は崩壊し大量の花弁が吹き飛ぶ。防御は成功――したかに思えた。だが次の瞬間、小梅は急に体の力が抜けてへたり込み床に尻をついた。
「な……」
あの大質量の攻撃はソニックブームでも全てを防ぎきれず、体に付着した花弁に力を奪われたのである。
更にそれだけでは終わらない。崩壊したかに見えた桜花龍は、歳三が扇から起こす風に乗り小梅を取り囲む風と花弁の壁へと姿を変えた。龍から竜巻へ、二段構えの攻撃。
小梅の位置は台風の目に当たり、風に乗っている花弁が直接当たることはない。だが竜巻は次第に狭まっていき、いずれは小梅を圧し潰す形となる。
「く……流石姉ちゃん、凄い技持ってんじゃん」
力が抜けて思うように体を動かせず、時間と共にピンチは増す。小梅はどうにかここから脱出する方法を考える。
と、その時だった。風と花弁の壁をすり抜けて、歳三が中に入ってきたのである。
「力が抜けてこれで少しはお淑やかになったかしら」
「姉ちゃん……!」
「丁度いい機会だわ。貴方には言いたいことが山ほどあるの」
扇で口元を隠しながら、歳三は目を細めて小梅を見下ろした。
<キャラクター紹介>
名前:山野実里
性別:女
学年:中三
身長:155
3サイズ:86-62-89(Dカップ)
髪色:黒
髪色(変身後):深緑
星座:蠍座
衣装:農家風
武器:鍬
魔法:地面から蔦を生やす
趣味:昼寝
日本史オタクの父は息子が生まれたら一番好きな歴史上の人物から取った名前を付けたいと思っていたが、生まれてきたのは女の子。そのため読みだけ変えて歳三となった。
だがその結果、名前の字だけ見て男子と間違われることが頻発。それを理由にからかわれることも多かった。
そしてそれに輪をかけるのが、父親の言動であった。元々息子が欲しいと思っていた父親は、歳三を男の子のように育てようとしてきた。野球やサッカーをやらせようとしてきたり、髪を短く切らせようとしてきたり。そんな父親への反発心もあって、歳三は自然と上品で女らしい趣味や服装を好むようになっていった。中でも母の持っている着物には強い憧れを持ち、母に頼んで日本舞踊を習わせて貰った。中学からは女子校に行き、どうやったって男子に間違われることのない環境で安心して過ごしていた。
そんな歳三を悩ませるもう一つの存在が、妹の小梅であった。自分と違って母が付けた可愛い名前の女の子。そんな妹があまりに可愛くて、歳三は自然とシスコンが発症した。自分も平均以上のルックスだと自覚はしているが、妹はすぐにでも芸能界に行けるレベル。自分のお下がりの可愛い服やアクセサリーをあげまくり、さながら着せ替え人形のように可愛がる。
だが歳三の思いに反して、小梅はボーイッシュなスポーツ少女へと成長していった。それも父親が流石に懲りて何もしてこなかったにも関わらずにである。日に焼けた肌と、男子のように短く刈った髪。それに子供っぽくて自由奔放な性格のまるでサル。まさに歳三の理想とは正反対の方向であった。
猫可愛がりから一転して小梅に厳しくなった歳三であったが、小梅は変わらず懐いてくる。それを鬱陶しく感じてしまっていた。
そんなある時、歳三は土佐弁を話すヤギの妖精と出会った。何でも彼は田舎の出身で妖精界語の訛りが強く、それが日本語に自動翻訳されると土佐弁に聞こえるらしい。その男、ミソシルにスカウトされ魔法少女となった歳三。大好きな着物と桜の花をモチーフにした美しい衣装に、自然と胸は高鳴った。
だが魔法少女となったのは自分だけではなかった。小梅とは部屋が同じであるため、彼女が魔法少女であることを知るのに時間はかからなかった。ミソシルが言うには二人の曽祖母が過去に開催された魔法少女バトルの優勝者であったために、姉妹両方が別々の騎士からスカウトされたのである。
小学生ながらこんな水着同然の衣装を着ている小梅に歳三は絶句したが、本人はこれを気に入っているようであった。やはり妹のファッションセンスは自分とは合わないと、尚更に思った。
二人とも曽祖母同様実力は高く、一次・二次予選は難なく突破。揃って妖精界へ旅立つこととなったのである。そして最終予選にも無事勝ち残り、次はチームを組んで戦う本戦である。
昨日の朝、放送を見た小梅は歳三の部屋に駆け込んできた。
「姉ちゃん! さっきの放送見た!?」
「ええ」
歳三は鍵を開けながら、扉越しに返事をする。部屋に入った小梅は、遠慮なくベッドに腰掛けた。
「とりあえずあと二人集めなきゃなー。姉ちゃんは誰か心当たりとかある? 前に戦った中で強かった人とか」
「……小梅、言っておくけど、私は貴方と組むつもりは無いわ」
「え?」
小梅は何を言っているのかわからないといった表情で歳三の顔を見た。
「今夜からチーム毎の四人部屋に変わるって概要に書いてあるわ。異世界に来てまで子守はしたくないの。貴方は貴方で他の誰かと組むといいわ」
「え……ね、姉ちゃん!?」
ぽかんとする小梅を置いて、歳三はチームを組む相手を探しに部屋を出た。
最初に声をかけてきたのは透子だった。彼女は最終予選での歳三の戦いをこっそり隠れて見ており、その圧倒的な強さと優雅さに惚れ惚れしたという。歳三はとりあえず彼女のことをアプリで調べてみたら、高一と書かれていて仰天した。小梅より背の低いこの子が、自分と同い年だったのである。
一先ず透子を仲間に加えたところで、同じ植物使いである実里、綺麗好きで気が合うひよのをこちらからスカウト。チーム名は自分の魔法から取ったチーム・桜吹雪とした。
小梅がチーム・ショート同盟を結成したことは、アプリの情報ですぐにキャッチした。ショートヘアの魔法少女ばかりを集めたチーム。小梅がよほど自分の髪型に拘りがあるというのは大方察せた。
そして本戦一回戦から、早くも桜吹雪とショート同盟の対戦が決定。今、妹は敵チームの大将として目の前に立ちはだかる。
「行くぞ姉ちゃん!」
小梅はクラウチングスタートの体勢をとると、自慢の健脚で飛び出す。だが直後、急ブレーキをかけて後ろに下がった。
歳三が扇を振ると同時にステージが揺れ、歳三の背後から大きな桜の木が生えてきたのだ。
「かかってらっしゃい小梅。一瞬で倒してあげる」
木から舞い散る桜の花弁は、それ自体が刃となり切り裂いてくる上に触れれば魔力を打ち消されるおまけ付き。更に花弁は後ろの木から絶え間なく供給される。ただそこに木があるだけで、迂闊に手を出させない強力な盾であり剣となる。
「流石姉ちゃんだ。でも負けないからね!」
小梅は歳三の右側へと走り、頃合を見計らって方向転換。右サイドから不意を付く形で狙う。だが歳三がそこから一歩も動かずたおやかに扇ぐと、木から舞い散った花弁が寄り集まって歳三を守る盾となる。小梅は急停止してから再び方向転換を繰り返し、今度は左サイドに回り込む。だが歳三はそれも読んでおり、小梅が殴りかかるよりも先に花弁の盾が歳三を守った。更に先程の花弁が小梅を追尾し、前後から挟み撃ちの形となる。
一枚一枚は軽い花弁も、寄り集まれば大きな質量となる。双方から挟み潰すような攻撃が襲い掛かるが、小梅は加速ダッシュでまずは避ける。だが避けられると同時に花弁の塊は分離して拡散、広範囲に向けて花弁カッターを発射した。最早小梅に逃げ場は無い。動けば動くほど被弾する全方位攻撃。美しくも恐ろしき桜吹雪。
「決まったああああああ!!」
タコワサが叫ぶ。大量の花弁に覆われて、小梅の姿が見えなくなった。応援する花梨達の表情には不安が宿る。
「いやー凄いですね歳三選手は。妹の小梅選手を全く寄せ付けません」
「ええ、彼女の魔法はパワー、能力、攻撃範囲、どれを取ってもハイレベル。今大会最強の一角と言っても過言ではありません。ですが、私の担当する小梅も決して負けてはいませんよ」
冷静に解説するザルソバの眼鏡が光る。
「おりゃーーーっ!!」
叫び声と共に、小梅の周囲にあった花弁が吹き飛ぶ。小梅は腰を落とし拳を突き出した体勢でどっしりと構えていた。
「こ、これはどういうことでしょう!? 小梅選手は無事です!」
「悠木歳三の操る花弁は付着すれば力が抜ける効果もあります。故にあれだけのパワーは出せない……そう考えているのでしょう。小梅の身を守ったもの、それはソニックブームです。高速で動くことによって発生したソニックブームを身に纏い花弁の付着を阻止。そして床にソニックブームを叩きつけた衝撃で周囲の花弁をも吹き飛ばしたのです」
ザルソバはここぞとばかりに早口で捲し立て、得意の解説をする。
「よ、よかった……」
花梨達はほっと一息。
「小梅さん、あんな技を隠していたんですね」
「いいぞー! 頑張れー!」
仲間の声援を受けながら、小梅は姉の立ち姿をまっすぐ見る。
「見たか姉ちゃん! あたしだってこんな凄い魔法持ってんだ!」
「……そう」
歳三はすぐにまた次の攻撃を繰り出す。先程のような高速での発射とは異なり、眠たくなりそうな程緩やかに花を舞い散らせる。
「隙だらけだよ、姉ちゃん!」
小梅が走り出すと、優雅に宙を漂っていた花弁が弾丸の如く突っ込んできた。小梅は横に加速して跳び避けるが、まるでセンサーにでも引っかかったかのように次から次へと花弁が突っ込んでくる。一つ一つ的確に躱してゆくも、その攻撃は絶え間なく続く。空中に大量の罠を仕掛け、指定された座標に来たら自動的に攻撃を繰り出す魔法だ。
急停止と急加速を繰り返す小梅。避け続けるにつれて、避け方が上手くなってきた。
「へへっ、だんだん慣れてきたよ!」
軽口を叩けるだけの余裕が出てくると、小梅は隙を見て加速ジャンプ。そして空中に漂う桜の花弁に、加速するパンチのラッシュを浴びせた。
「喰らえ! ブーストナックル連打!」
ソニックブームを纏った機関銃の如き連撃で、花弁は消滅してゆく。
「これぞ悠木小梅の真骨頂。彼女はただ走るのが速いだけの魔法少女ではありません。停止するのも早く、部分的な加速も可能。これはなかなか汎用性の高い魔法ですよ」
「ザルソバさん、自分の担当する魔法少女だけあって解説に気合が入ってますねー」
タコワサは暢気に解説者のことを実況。
小梅は着地と同時に駆け出し、一気に距離を詰める。残った花弁が頭上から突き刺そうとしてくるがそれは全て小梅の背後の床に当たる。歳三は再び花弁の塊で押し潰そうとするが、小梅はソニックブームを纏った加速するパンチでそれを吹き飛ばす。歳三のガードが空いたところで跳び上がり、大開脚で空中回し蹴り。その一撃は歳三の肩にヒット。加速するキックの一撃は強烈で、歳三は大きく吹き飛んだ。
「当たったああああ! 小梅選手、初のヒットです!」
タコワサが叫ぶ。予想外に善戦する小梅の姿に、会場は沸き立った。
ステージに沿って張られた結界に叩きつけられそうになった歳三だったが、花弁の塊をクッションにしてダメージを抑える。追撃に突っ込んできた小梅に対しては、花弁を身代わりにして回避。
「もっと余裕で勝つつもりでいたけど……考えを改めなければいけないようね」
歳三は扇を一旦閉じた後裏返して広げ、一気に振りかざす。巻き起こる突風が、花弁カッターを力強く飛ばした。更に激しくなった歳三の攻撃を、小梅はちょこまかと動き回っては時折急停止して狙いを外させたり定めさしたりを繰り返しながら回避してゆく。
少ししたところで、歳三は攻撃法を切り替える。今度は先程も使用した、回避不能の全包囲攻撃。だが一度防いでいるだけあって、その攻撃は小梅には通じない。先程と同じやり方で難なく防いだ。全方位へ攻撃できることを優先しているために一枚一枚の威力は決して高くはなく、軽いソニックブームで容易く防げるのだ。
「効かないよーん。お尻ペンペーン」
小梅は歳三に背を向けると、布面積の少ないお尻を突き出し掌でペチペチ叩いた。直後、飛んできた花弁の塊を素早く避ける。
「あ、貴方って子は……」
歳三は露骨に頭に血が上った様子だった。あえて歳三の逆鱗に触れるよう下品な行動をしての挑発、効果覿面である。
「これで終わりにしてあげる……桜花龍!」
扇を高く振り上げて叫ぶと、この場にある全ての花弁が一箇所に寄り集まる。花弁を供給していた木からも全ての花が散り、集められた花弁は巨大な東洋龍を形作った。
「遂に出たな……姉ちゃん本気の本気だ……」
この技に関しては存在こそ本人から聞かされて知っていたが、実物を見るのは初めて。ただ龍の形をしているだけというなら、何でもない花弁の塊をぶつけるのとさして変わらない。それとは違う何かがあることを、小梅は察していた。
「喰らいなさい!」
咆哮を上げ、牙を向き喰らい付こうとする桜花龍。小梅は走り回って避けるも、桜花龍は体をうねらせながら追尾する。龍のスピード自体は遅く、避けるのは難しいことではない。だが、小梅は次第に違和感に気付き始めた。
(あれ、こいつもしかして……)
長い身体でとぐろを巻き、小梅の逃げ場を塞ぐような立ち回り。気が付くと小梅は次第にステージ中央へと追い詰められていた。囲まれて身動きが取れなくなった小梅に、桜花龍はとどめとばかりに口を開き喰らい付いた。小梅はソニックブームを力一杯放出し抵抗。
爆音と共に、桜花龍は崩壊し大量の花弁が吹き飛ぶ。防御は成功――したかに思えた。だが次の瞬間、小梅は急に体の力が抜けてへたり込み床に尻をついた。
「な……」
あの大質量の攻撃はソニックブームでも全てを防ぎきれず、体に付着した花弁に力を奪われたのである。
更にそれだけでは終わらない。崩壊したかに見えた桜花龍は、歳三が扇から起こす風に乗り小梅を取り囲む風と花弁の壁へと姿を変えた。龍から竜巻へ、二段構えの攻撃。
小梅の位置は台風の目に当たり、風に乗っている花弁が直接当たることはない。だが竜巻は次第に狭まっていき、いずれは小梅を圧し潰す形となる。
「く……流石姉ちゃん、凄い技持ってんじゃん」
力が抜けて思うように体を動かせず、時間と共にピンチは増す。小梅はどうにかここから脱出する方法を考える。
と、その時だった。風と花弁の壁をすり抜けて、歳三が中に入ってきたのである。
「力が抜けてこれで少しはお淑やかになったかしら」
「姉ちゃん……!」
「丁度いい機会だわ。貴方には言いたいことが山ほどあるの」
扇で口元を隠しながら、歳三は目を細めて小梅を見下ろした。
<キャラクター紹介>
名前:山野実里
性別:女
学年:中三
身長:155
3サイズ:86-62-89(Dカップ)
髪色:黒
髪色(変身後):深緑
星座:蠍座
衣装:農家風
武器:鍬
魔法:地面から蔦を生やす
趣味:昼寝
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「異なる世界から我々の世界に、殴り込みを掛けようとしている奴らがいる。先手を打ちその世界に踏み込み、この企みを潰せ」――と。
そして再び目を覚ました時、制刻は――そして制刻の所属する普通科小隊を始めとする、各職種混成の約一個中隊は。剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する未知の世界へと降り立っていた――。
制刻を始めとする異質な隊員等。
そして問題部隊、〝第54普通科連隊〟を始めとする各部隊。
元居た世界の常識が通用しないその異世界を、それを越える常識外れな存在が、掻き乱し始める。
〇案内と注意
1) このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。
2) 部隊規模(始めは中隊規模)での転移物となります。
3) チャプター3くらいまでは単一事件をいくつか描き、チャプター4くらいから単一事件を混ぜつつ、一つの大筋にだんだん乗っていく流れになっています。
4) 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。ぶっ飛んでます。かなりなんでも有りです。
5) 小説家になろう、カクヨムにてすでに投稿済のものになりますが、そちらより一話当たり分量を多くして話数を減らす整理のし直しを行っています。
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