ヤンキーVS魔法少女

平良野アロウ

文字の大きさ
上 下
69 / 157
第三章 自由行動編

第68話 妖精騎士への道

しおりを挟む
 お頭がハニートラップに引っかかった。しかも相手は九歳の幼女。尊敬するお頭があまりに間抜けな敗北を喫したことは、レグルス盗賊団の面々を酷く落胆させた。
 全員が拘束され連行される際、ハンバーグは獅子の威圧で逃げ出す可能性があるためムニエル自ら手錠の鎖を握っていた。
(見れば見るほど可愛いぜ……ちくしょう)
 こんな状況にもかかわらず、すぐ隣にいるムニエルを見てハンバーグはそんなことを考えてしまう。自分を倒した圧倒的に強い幼女でしかも王女。悔しくてたまらないのに、そんな相手に自分は惚れてしまっている。
「お頭ぁ、俺らこれからどうなっちゃうんスかね?」
「知らねえよ、なるようになるだけだ」
 妖精王国においては軍が警察を兼ねている。
 護送車は最寄の王国軍司令部へと向かう。カリストから暫く南に行った所にガニメデという土地があり、そこに王国軍ガニメデ司令部が置かれているのである、
 本来であればカリストで起こった事件はここの管轄なのだが、元々アンキモと癒着のあったここの司令官は保身のためカリストの騒乱に不干渉を決め込んでいた。それによって妖精騎士団及び王都勤めの兵士が出向く事態となったのである。
 到着して、レグルス盗賊団はすぐさま牢に入れられた。先行き見えぬ未来に、少年達は絶望した。
 数日後、牢から出された盗賊団の面々は広間に連れてこられた。
 更迭された司令官に代わり、ビフテキとムニエルが壇上に立つ。
 ムニエルの口から、カリストの騒乱の顛末が語られる。
 アンキモは捕らえられ、現在カリストは王都から派遣された役人が治める形となった。
 復興と再開発が公共事業として行われ、貧民街でくすぶっていた者達に十分な給金を出して雇用。格差問題の解消にも同時に取り組む形となった。
 子供達は学校に通えるようになり、将来のカリストを担う者達の教育にも力が入る。
 罪を犯した者達に関しては相応の刑罰を与えつつ、社会復帰に向けての支援が行われることとなった。
 そしてレグルス盗賊団の処遇についてだが、十二歳以下の者は学校へ。それ以上の者は軍の監視の下就職する形となった。
「諸君らにその気があればだが、揃って軍で雇いたいと考えておる。其方らの戦闘力、国防に活かそうとは思わぬか。無論強制はせぬ。何かやりたい仕事がある者は言ってみよ」
 手下達がざわめく中、ハンバーグは一人呆然と立ち尽くしていた。
 貧困に喘ぐ弱者達の救済。自分達では成し得なかった問題の解決が、いとも簡単に行われようとしている。
 だがそれ以上に心を打ったのは、ムニエルの慈悲深さ。母の愛を知らぬハンバーグにとっては、彼女の中に母性すら感じられた。
「お、お頭……?」
 あまりに様子がおかしいので、カシューが声をかける。
「ムニエル様……あの方こそが女神だ」
「お頭?」
 跪いていたハンバーグは、急に立ち上がる。
「軍人になれか……上等だ! なってやるぜ! それも全軍のトップ……妖精騎士にな! そしてムニエル様、あんたを俺の嫁にする!!」
 王国軍監視の中、堂々と宣言。無礼などという言葉では足りない、誰もが耳を疑うとんでもない爆弾発言。少し間を置いた後、兵士達ははっとしてハンバーグに武器を向けた。
「構わぬ。武器を下ろせ」
 ムニエルがそう言うと、兵士達は一斉に武器を下ろした。
「なかなか面白い男じゃ。入隊試験、楽しみにしておるぞ」


 盗賊団のうち軍属を志望した者達は、ガニメデから王都オリンポスに移されることとなった。カリスト近くのガニメデ司令部ではなく、王都司令部の所属とするためである。
 王都に着くと、早速入隊試験が行われた。盗賊団の面々は圧倒的な身体能力で、体力試験の合格ラインを悠々と超えた。筆記試験はからっきしだったが、体力試験の点数がそれを補える程だったのである。
 無事に全員合格した盗賊団の面々は、王都司令部総司令を勤めるショウチュー大佐より軍属を示す徽章を授けられた。
 妖精王国における軍の階級は妖精騎士団を事実上の将官とし、大佐を実質的な最上位とする独自のものを採用している。完全志願制であり、徴兵制度は無し。士官学校卒は少尉からのスタートで、一般採用は伍長からのスタートとなる。
 無事に王都司令部所属伍長として軍人の地位を得た盗賊団の面々。だが転機は程なくして訪れた。
 翌年の春、獅子座の騎士が突如辞任。空座を埋めるため騎士試験が開催されたのである。受験資格は獅子座の生まれであること。そしてハンバーグも獅子座であった。妖精騎士を目指すハンバーグにとっては、まさしく千載一遇のチャンス。しかし、彼が試験を受ける申請は受理されなかった。
 妖精騎士団は隠れた才能を発掘するため軍人のみならず民間人からも広く募集しており、本来であれば試験自体受けさせて貰えないというのは滅多にあることではない。ハンバーグが詰め寄ると、担当官は言った。
「そうは言われましても、犯罪歴のある方は例外ですから……」
 言われてみれば尤もな話である。しかしそれで納得できなかったハンバーグは、強硬手段へと走った。
 魔法少女バトル本戦の会場としても使われる王立競技場では、最終試験となるトーナメントの開会式が行われていた。ハンバーグは警備を突っ切ってそこに突撃したのである。
「てめえらが俺に試験を受けさせねえってんならこっちにも考えがある。こいつら全員倒せばこん中で俺が一番強いってことだろ」
 あまりにも大胆で、常識外れの行動。頭がいかれているとしか思えぬその奇行に、誰もが衝撃を受けた。
 ハンバーグが手招きをすると、一人の受験者が前に出た。
「何だ、これも試験の一部か? まあ軽く余裕でぶっ飛ばしてやるさ」
 受験者は剣を抜き、ハンバーグに切りかかる。だが次の瞬間、裏拳に頬を抉られ空高く飛ばされていった。
「残り七人! 全員纏めてかかってきてもいいぜ」
 ざわめく受験者達。挑発されてもすぐには動かない。
 受験者の中には軍人として訓練を積んだ者もいれば、独学で鍛えてきた者もいる。そしてここに集められた八人は、その中から書類審査と面接、そして幾つもの試験によって厳選された精鋭達。だがその一人が、いとも容易く敗北した。彼らを緊張させるには十分な事態である。
 そんな中で声を上げたのは、宰相を務めるメザシ卿である。
「そこの元盗賊……試験を受けさせて貰えなかった腹いせにこんなことをしたところで、国は君を認めはせぬ。むしろ君はこの行いで軍人の地位すら失うこととなるだろう。己の愚かさを反省せよ」
「てめえらこそ、俺を騎士にしなかった愚かさを反省すべきだと思うぜ」
 一軍人の立場で、宰相に対してこの言いよう。メザシの眉がピクピク動いた。
「受験者諸君、その賊を討て! 首を取った者にはシード権をくれてやる!」
 指示を受けた受験者達は、我こそ先にとばかりに駆け出した。
 最初に正面から突っ込んできた武道家風の男は、パンチ一発でノックアウト。俊足でハンバーグの後ろに回り込んだ男は、裏拳一発で吹っ飛ぶ。魔法で雷を落としてきた男がいれば、氷のナイフで襲い掛かってきた男を上に放り投げて盾にする。そしてそのまま黒焦げになって落ちてきたナイフ男を雷の男に投げつける。同時に空中から襲ってきた二人組は、回し蹴りで薙ぎ倒す。
 あっという間に七人が転がる。残りの一人は、唯一冷静にこの状況を観察していた。
「お前は来ないのか?」
「フッ、君の実力を見極めようと思ってね」
 最後の男は、不敵に鼻で笑う。
「ハンバーグ軍曹、君のことは知っている。犯罪者の身ながら、ムニエル様のお慈悲を受け軍に入れてもらった男。その魔法は、自分より弱い相手をより弱体化させるというもの。即ち、この私には効かないということだ。かのビフテキ卿の甥にして、獅子座の騎士に最も相応しい男――このショーロンポー・フォーマルハウト中佐にはね!」
 ショーロンポーはレイピアを抜き、ハンバーグに剣先を向ける。
「愚かな盗賊は、無様にもこの場で生を終える……滅びよ! 閃光突!!」
 魔法により全身から眩い光を放ちながら、超速の連続突き。相手の目を眩ませて回避不能とする、ショーロンポーの得意技だ。
 だがハンバーグは、目を瞑ったままそれを余裕で避ける。そしてそこに、カウンターの右ストレート。ショーロンポーは間一髪で避けるも、拳の風圧で髪が吹き上がった。
 全身から冷や汗が流れる。あの一撃を喰らっていたらどうなっていたか。だがそれ以上にショーロンポーを恐れさせたのは、先程の自分の突きがいつもより遅かったことである。スピードもキレも、普段の自分より遥かに劣っている。それ即ち、自分に獅子の威圧が効いている証左。
「ば、馬鹿な……」
 汗だくになりながら、ショーロンポーは息を荒くする。信じ難い出来事が目の前で起こっている感覚だった。しかしどうにか心を落ち着かせ、再び構える。
「尊敬する叔父上の前で、無様な姿は見せられないな……仮に私が貴様より弱いというならば、この戦いの中で貴様を超えればよいというだけのこと」
「そうかい」
 次の瞬間、ハンバーグの拳がショーロンポーの頬を抉った。続けて、猛烈なラッシュ。連打が終わる頃には、ショーロンポーは観客席まで飛ばされていた。
「うっし、これで全員。さて、認めてもらおうか。俺が騎士になるのをよ」
「冗談ではない! 貴様のような犯罪者が騎士になれるわけがなかろう!」
「待たれよメザシ宰相」
 ハンバーグを突っぱねようとするメザシに、ビフテキが待ったをかける。
「我が国では今、何よりも戦力を必要としている。あれほどの強さ、棄てるのは惜しい」
「だがビフテキ殿、犯罪者が騎士になった事例など……ついこの間獅子座の騎士がとんでもないことをしでかしたばかりだというのに、またしても問題を起こさせるつもりか!? さっさと殺してトーナメントをやり直すべきでしょう」
「ではメザシ宰相、貴殿は八人がかりで賊一人倒せぬ者達に騎士が務まるとお思いですかな」
 気を失っている甥の方に目線を向け、ビフテキは言う。メザシは返す言葉が無かった。
「いかがですかなムニエル様。あの男を騎士にすべきだとお考えですか」
 高い椅子に腰掛け黙って見ていたムニエルに、ビフテキは話を振る。
「……我は良いと思う」
「ムニエル様!?」
 顔を青くしたのはメザシである。
「窃盗という手段を用いたことは間違っていたが、この男の貧しき者達を救いたいという思いは素晴らしいものじゃ。これからのこの国には、彼のような人材が必要となるじゃろう」
「な、何と……」
 メザシは頭を抱えることとなった。
「ハンバーグよ、其方に騎士となることを認めよう。こちらに参れ」
「よっしゃぁー!!」
 ハンバーグは歓喜し、ムニエルの側へと駆け寄った。
「これで俺も騎士だぜ! ムニエル様、いよいよあんたを俺の嫁にできるんだな!」
「無礼であるぞ貴様!」
 敬語も使えないハンバーグに、メザシは怒りを露にする。
「待たれよメザシ宰相。まだこの者をすぐに騎士にするわけではない」
 ムニエルがそう言うと、ビフテキは興味深そうに顎鬚を撫でる。
「どういうことだよムニエル様! 俺を騎士にしてくれるんじゃねえのかよ!」
「其方はまだ何も償ってはおらぬ。一億一千四百五十七万二千九百七十六ルクス。レグルス盗賊団による被害総額じゃ。これは盗まれたものの額だけでなく、破壊されたものの修繕費や負傷した者の治療費も含まれておる。これを真っ当な手段で稼ぎ全額返済することが、其方を騎士にする条件じゃ」
「い、一億……!」
 その膨大な額に、ハンバーグは呆然とする。
「返済された金は、国を通して被害者へと返却される。それにて其方の罪は償われ、騎士となる資格を得ることとなる。それ以降に獅子座が空位となった際、其方を騎士にすることを約束しよう」
 暫く言葉が出ずにいたハンバーグだったが、やがて拳を握り決意は固まる。
「クク……やってやろうじゃねえか。金を稼ぐだけでいいんだろ? 簡単なもんだぜ」
 その何もわかっていなさそうな顔を見て、メザシは一安心。
(やはりこの男、貧民生まれというだけあって馬鹿だ。士官学校も出ていない一軍人が、一生かかってもそんな額稼げるわけがない。ムニエル様は最初からあの男を騎士にするつもりなど無かったのだ!)
「してムニエル様、それまで獅子座はどう致します?」
 ビフテキが尋ねる。
「倒された八人全員が完治し次第、トーナメントを再開することとしよう」
「畏まりました」
 去り際に背を向ける際に、ムニエルは一瞬ハンバーグを見た。流し目にドキッとしたのも束の間、ハンバーグの中でやる気が燃え上がる。
「待ってろよ! この俺の恐ろしさ、見せてやるぜ!」
 競技場に響き渡る叫び声。その場では誰もが彼を冷めた目で見ていた。

 翌日、ハンバーグは早くも王宮に現れた。盗賊として培った技術で無理矢理警備を突破し入り込んだのである。
 アポ無し訪問どころか完全な不法侵入であったが、ムニエルとビフテキは兵士からの連絡を受けてちゃんと応対しに来てくれた。メザシも渋々やってくる。
「約束どおり持ってきたぜ。一億何千万だったか忘れたが、とりあえず二億ほど稼いできたぜ」
 謁見の間にて、ハンバーグはトランクを開いて中の札束を見せた。
「盗んだ金を返すために盗みを働くとは笑止千万! こいつをひっ捕らえよ!」
 すぐさま、メザシがその場にいた兵士に指示を出す。
「しかし、窃盗事件があったという話は聞いておりませんが……」
「当たり前だ。この金は盗んだもんじゃねえ」
「馬鹿を言え。貴様のような者がどうやって一晩で二億稼げるというのだ」
「カジノだ」
 メザシを睨み、はっきりと言い放つ。ムニエルは思わず吹き出し、ビフテキが咳払いをした。
「……失礼。して、そのカジノは合法のものであるな?」
「ああ、軍の上官から紹介してもらった国営カジノだ。そこで有り金全部賭けて稼いだ」
 ムニエルは兵士の一人を呼びつけ、何かを調べに行かせた。少しして、兵士は戻ってくる。
「昨晩、王都内の国営カジノにて彼がそれだけ稼いでいたことの確認が取れました。イカサマの類は使っていなかったとのことです」
「俺が倒した八人が治っちまったら俺が騎士になるのが遅れるからな。どうしても一晩で稼ぐならこれしかないだろ。さて、これで金は返した。約束通り騎士にしてくれるんだろ? ムニエル様! そして俺はあんたを嫁にするぜ!」
 ハンバーグはムニエルに詰め寄って見下ろす。あまりの事態に、メザシは頭を抱えた。
 ムニエルが答えようとする前に、ビフテキが口を開いた。
「国が約束を破っては国民への裏切りになる。約束通り貴殿を騎士にしよう。だが今の貴殿には、騎士たりえる気品も礼節も無い。そんな者を国民の前にお出しするわけにはいかぬ」
「何だとこのオッサン! 貴族だからって俺を見下しやがって!」
 突っかかってきたハンバーグの頭に、ビフテキは手を乗せた。
「そう気を荒くするな。だからこの私が、貴殿に騎士として必要なことを講義してやろうというのだ。ムニエル様の教育係を務めるこのビフテキがな」
「ムニエル様の……」
 そう聞いた途端、頭に上っていた血が引いた。
「ご安心くだされメザシ宰相。一ヶ月で私がこの愚かな賊を騎士として相応しい男に変えてご覧に入れましょう」
 そうは言われても、メザシは信用できないといった表情。それを見てハンバーグは舌打ち。
 次の瞬間、ハンバーグは床にめり込みそうな勢いで頭を押さえつけられた。突然重力が何倍にもなったかのような感覚。床に膝をつかされ、頭を下げさせられる。
「まずは跪きの作法からだ。私の指導は生ぬるくはないぞ」
(このオッサン、俺より強え……!)
 丸太のような腕によって裏付けされた筋力は、これまで戦ったどんな拳闘士や兵士をも遥かに凌駕するものであった。
 身体がピクリとも動かない。獅子の威圧が効いていればこんなもの抜け出すのは容易であるが、それができない以上は自分がこの男より弱いということ。
 ビフテキとハンバーグ。二人の師弟関係は、ここから始まったのである。


<キャラクター紹介>
名前:竜崎りゅうざき大名だいな
性別:女
学年:中三
身長:163
3サイズ:78-60-78(Bカップ)
髪色:金
髪色(変身後):漆黒
星座:双子座
衣装:暴走族の特攻服
武器:バイク
魔法:魔法のバイクを操る
趣味:バイク(無免許)
しおりを挟む

処理中です...