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第三章 自由行動編
第63話 拳凰VSデスサイズ
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「断られちゃったって……どういうこと!? あんなに仲良さそうだったのに」
「いやー、実はそんなに仲良くもないんだよね。実はあたし姉ちゃんからは結構ウザがられて……異世界来てまであんたのお守りしたくないって言われちゃった」
「ええー……」
軽い雰囲気で話す小梅だったが、その表情にはどこか悲しみを感じさせる。
「それで、君は他に組むことが決まってる人は?」
「今のところは誰も……でも、最終予選で協力してくれた人達を誘おうかなって思ってるよ」
「よし、じゃあ急ごう。早くしないと他の人に取られちゃうよ!」
二人が最初に向かったのは、丁度花梨と部屋の近い恋々愛の部屋であった。
「あら、残念でしたわね。古竜さんは既に私のチームメイトですのよ」
麗羅達と同じように、扉を開けて早々珠子から勝ち誇った顔で言われた。
「貴方は確か二次予選で私に勝った……」
「あ、こ、こんにちは」
花梨は珠子の顔を見て、以前対戦した上半身ほぼ裸の魔法少女だと気付いた。
「ふふっ、残念でしたわね。今回は私の方が一枚上手ですわ。ちなみに、古竜さんを誘いに来て私達に追い返されたのは、貴方達で五組目ですわよ」
完璧に見下した態度で、珠子は言う。
花梨は更にその後ろにいるのが、一昨日拳凰にちょっかいをかけていたミチルであることにも気付いた。もう一人の雫も昨日拳凰に裸を見せるという花梨からしたら気が気でないことをしでかしているのだが、それについては花梨の知らないことである。このチームは、何かと花梨にとって因縁のある者ばかり集まったチームなのだ。
「それはどうも、失礼しました……」
花梨は丁寧に頭を下げて部屋を出る。
「何だよあの縦ロール。見下しちゃって失礼なヤツだなー」
「しょうがないよ。次行こう」
プンスカ怒る小梅を窘めながら、花梨はアプリで次の候補者の部屋を調べる。
「最初に協力してくれた二宮夏樹さんと白布芽衣さん、二人揃って仲間になってくれたら丁度四人になるんだよね」
まずは夏樹のページを開き、その部屋へと向かう。すると、丁度夏樹が部屋に戻ろうとしていたところだった。
「あ、夏樹さん、丁度いい所に」
「花梨ちゃん!」
「最終予選では、協力してくれてありがとうございます」
出会ってまず、花梨は頭を下げて礼を言う。
「私、今夏樹さんをチームに誘おうと思ってたとこなの。それと芽衣さんも」
「あー、それなんだけど、ボクさっき芽衣を誘いに行って断られちゃったとこなんだよね。部活の先輩が参加してたとかで、その人に見つかって同じチームに入れさせられたんだと」
「そうなんだ……」
「そっかー、じゃああたしと一緒だ。あたしも組もうと思ってた姉ちゃんから断られちゃったとこだし」
小梅が笑顔で夏樹の肩に手を置く。
「うん、じゃあボクもこのチーム入るよ。これで三人……あと一人は、ロビーにでも行ってみない? みんなそこで仲間を探してるみたいだよ」
「よし、そうしよう!」
仲間になった夏樹の提案で、花梨達は一階のロビーへと向かう。
ロビーには既に多くの参加者が集まっており、仲間を求めて他の参加者に声をかけていた。ある者は気の合う仲間を、またある者は戦力になりそうな仲間を。そしてまたある者は、誰でもいいから早くチームを組もうと。熾烈なスカウト争いが、その場で起こっていたのである。
「どーしよ、誰誘う?」
「うーん……」
花梨はロビーを見渡し、知っている人を探す。しかしこれまで基本的に変身後でしか会っていなかったこともあり、いまいちよくわからなかった。
そんな中に、一目見ただけで誰だかわかる髪型の人物を一人見つけた。今時男子でも野球部くらいでしか見かけないほどに髪を短くしている、寺の娘だという少女の弥勒寺蓮華である。
「おーい、そこのベリショの人ー」
花梨が声をかけるより先に、小梅が蓮華を呼んだ。蓮華が気付いてこちらを向くと、小梅は手を振りながらそちらに駆けてゆく。
「ねーねー、君も何かスポーツとかやってるの?」
「あ、いえ、私、おうちがお寺なので」
「へぇー、家がお寺だと女子も髪の毛そうするんだ」
「いえ、これは私が好きでやっているだけで……両親は別にそこまでしなくていいとは言ったんですけどね」
小梅と蓮華が話している間に、花梨と夏樹が追いついた。
「こんにちは蓮華さん。最終予選では、協力してくださってありがとうございます」
「そんな、困っている方がいたら助けるのは当然ですよ」
「あれ、この人も知り合い? 最終予選で一緒に戦ったんだ」
「えーと、話せば長くなるんだけど、一緒に戦ったというより別のことで協力してもらったというか……」
「んでさ、蓮華さん、あたし達のチーム入ってよ」
話が長くなると聞いて、小梅はその話を切り上げて本題に入る。
「全員ショートヘアのボーイッシュチームだよ。蓮華さんも入ろうよー」
気がつけば、偶然集まった面子がショートヘアばかりであった。この中では蓮華が一番髪が短く、そこから小梅、花梨、夏樹の順である。
「そうですか、私も仲間になってくれる方を探していたところです。私がボーイッシュかどうかはわかりませんが、よろしくお願いします」
蓮華は丁寧に頭を下げる。
「よーし、これで四人揃ったぞ!」
「ついにボクらのチーム結成だね!」
「チーム名はどうするの?」
「ファイナルアルティメットストレートフラッシュ……とか」
花梨の尋ねに、夏樹はどや顔で答える。
「うーん、全員髪短いから、ショート同盟でいいんじゃない?」
「うん、シンプルでいいんじゃないかな」
「私もそれでいいと思います」
「ちょっ、ボクのボケスルー!?」
小梅が代表してチーム名を入力。無事にチーム登録は受理された。
「そんじゃ、誰かの部屋行って改めて自己紹介としようか。あたしの部屋でいいかな?」
「うん、そうしよっか」
無事チームを組むことができた花梨達は、再びエレベーターへと足を進める。
だが、ふと花梨は拳凰のことが脳裏に浮かんだ。
(ケン兄どうしてるかな? 今日は帰ってきてくれるといいけど)
魔法少女達がチーム結成に四苦八苦している頃、拳凰と幸次郎も修行に明け暮れていた。
山中の森で、二人は組み手を行う。幸次郎が竹刀なのに対し、拳凰は素手。身長差をもってしてもリーチには差がある。
にも関わらず、幸次郎の攻撃は拳凰には全く当たらず。拳凰は竹刀の先端を掴むと、そのまま片手でぶん投げた。幸次郎は思わず竹刀から手を離し、足から着地する。
「もう竹刀じゃ練習にもならねー。あの剣出してこいよ」
「わかりました」
幸次郎は一礼すると、リュックサックからスマートフォンを取り出し操作。その場に三属性の剣を生成した。
「では、参ります!」
三つのオーブを浮かせて切りかかる幸次郎に対し、拳凰は動かず待ち構える。
振り下ろされた刃を避けると同時に、カウンターの一発。右の拳が、幸次郎の頬に触れるか否かの位置で寸止めされた。オーブの防御すらも間に合わぬ瞬撃。幸次郎の額を冷や汗が流れた。
「最早穂村じゃ組み手にもならねえか」
ハンバーグが姿を現し言う。
「おう、やっと来たかロリコンクソロンゲ」
「あ? ナメてんのかお前」
早速メンチを切る二人に、幸次郎はおろおろした。
(この二人、似たもの同士なのにどうしてこんなに仲が悪いんだ)
「それでだ、そろそろお前も退屈してる頃だろうと思って、新しい練習相手を連れてきた」
ハンバーグが後ろを親指で指す。拳凰がそちらを向くと、木の裏からデスサイズが姿を現した。
「デっさん!」
完全に気配を消していたことに、拳凰と幸次郎は驚く。
「最強寺、今日はこの男と戦ってもらう。なおこれは組み手じゃない、実戦だ。寸止めは無し、殺しは有りで行く」
「えっ!?」
最初に驚き声を上げたのは、幸次郎である。対して拳凰は動じない。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! 殺しが有りって……冗談でしょう!?」
「冗談なわけねえだろ。強くなりたいんだろ最強寺。だったら本気で殺しにかかってくる相手とやり合うのがいい」
「悪いな拳凰、仕事として請け負ってしまった以上、俺はお前と戦わなきゃならん。職業柄友人と殺し合うのには慣れている。死んでも恨むなよ」
「面白え、やろうぜデっさん」
拳凰もデスサイズも既にその気になっている。幸次郎は開いた口が塞がらない。
「大丈夫だ幸次郎、俺は死なねーよ。それにデっさんを殺したりもしねー。こいつは楽しい戦いになりそうだぜ」
「よし穂村、お前はこっちに来い。流れ弾に当たらずに戦いを見られる場所まで連れて行ってやる」
心に不安を抱えながらハンバーグについていった先は、森を見渡せる崖の上であった。
下では拳凰とデスサイズが、距離を取った状態で向き合っている。
「あの、ハンバーグさん、本当に殺し合いをさせるつもりなんですか?」
「少なくともデスサイズは殺すつもりでやるだろうな。まあこれで死ぬなら最強寺もそれまでだったってことだ」
ハンバーグはまた、崖から落とした時と同じことを言う。
「おかしいですよ貴方は! 人の命を何だと思ってるんですか!」
「まあ黙って見てろ」
崖下を見下ろし、ハンバーグは右手を上げる。
「始め!」
合図と同時に、デスサイズは拳銃を抜く。荒野のガンマンも顔負けの早撃ちで、拳凰の額目掛けて弾丸が迫る。だが拳凰は、それをすかさず拳で叩き落した。
「素手で銃弾を!?」
幸次郎が身を乗り出したのも束の間、拳凰はデスサイズに接近しようとする。だが拳凰得意の間合い詰めに、デスサイズは対抗策があった。拳凰の足下に、ピンを抜いた手榴弾を転がしたのである。
蹴躓く前に避けるも、手榴弾は爆発。拳凰は自ら後ろに跳んで衝撃を和らげ、受身を取って転がる。だがデスサイズは、そこに容赦無く弾丸を撃ち込んできた。
拳凰は転がりながらも、手で的確に弾丸を捌く。デスサイズは拳銃からライフルに持ち替え、拳凰を狙った。拳凰は即座に起き上がり、手の甲で弾を横から叩いて軌道を逸らす。いかに拳凰でも貫通力のあるライフル弾を真正面から受けるのは厳しいと判断してのことだ。
だがそこにすかさず投げ込まれる手榴弾。デスサイズは徹底して拳凰を近づけさせないように動く。勿論拳凰はそういう相手との戦闘経験は豊富。しかしプロの傭兵としてそれ以上の戦闘経験を持つデスサイズは、更に一枚上手だった。
決して拳凰の間合いに入らぬよう立ち回りながら、得意の間合い詰めを封じるよう銃火器による怒涛の猛攻。どうにか近づこうとしても、その度に攻撃は最大の防御と言わんばかりの凄まじい攻撃で防がれる。拳凰は今まさに、熟練したプロの戦闘というものを見せ付けられているのだ。
(野郎……俺の弱点をきっちり突いてきやがる)
動き回りながら隙を窺うも、その隙が一向に見えない。更に、動いている内にあることに気付いた。さりげなく深い森の方へと誘い込まれているのだ。
(ちっ、何を狙ってやがる?)
誘われるがままに木々の深い方へと入った拳凰だったが、ふとそこでデスサイズは攻撃の手を緩めた。拳凰はその隙を見逃さず、一気に踏み込む。だがその時、突如拳凰の足にワイヤーが引っかかった。
(ブービートラップだと!? さっきクソロンゲに呼ばれて出てくる前に仕込んだのか!)
前のめりに倒れる拳凰に、デスサイズは容赦なく弾丸を撃ち込んでくる。だが拳凰はこんな物で倒れる男ではない。足に気合を籠めて強引にワイヤーを引きちぎると、そのまま力強く大地を踏みしめて転倒を防いだ。飛んでくる弾は、手で打ち落とす。
その体勢のまま大地を蹴って駆け出すも、デスサイズは冷静に手榴弾を投げて転がす。だが今度は、拳凰は横には避けない。まるでサッカーボールをスルーするように、足捌きだけで躱す。背後で爆発する手榴弾。その爆風を背に受けて、拳凰は加速した。
二次予選においても諏訪美波との対戦で見せた戦法。しかしあちらが実際の兵器の扱いに関しては素人同然のミリタリーオタクであるのに対し、こちらは本物の傭兵である。あちらのように隙だらけというわけではない。
真正面から突っ込んでくる拳凰に、デスサイズはすかさずヘッドショット狙いのライフル弾を撃ち込む。だがそれは左手の甲で弾き飛ばされ、次の瞬間右の拳がデスサイズの腹に突き刺さっていた。
「ごっ……」
鈍い声と共に、デスサイズは吹っ飛ぶ。後ろの木に背中を打ちつけると、木は根元から折れた。
「そこまで!」
崖の上から、ハンバーグの声が響く。ハンバーグは幸次郎の胸倉を掴むと、そのまま幸次郎と共に崖から飛び降りた。
「う、うわあああああああ!!!」
悲鳴を上げながら、ハンバーグと共に落下する幸次郎。ハンバーグは何事も無く着地し、幸次郎を丁寧に降ろした。
「び、びっくりした……何て下り方するんですか!」
心臓が張り裂けそうになった幸次郎は、ハンバーグに文句を言う。だがハンバーグはまるで聞いていないかの如く、拳凰の方だけを見ていた。
「デっさん大丈夫か!」
倒れたデスサイズに、拳凰は駆け寄った。
「ああ……かろうじてな……」
ぐったりとしながら、デスサイズは言う。
「死を恐れずに真正面から突っ込んでくるか……若さというのは恐ろしいものだ」
ふらつきながら立ち上がると、デスサイズは腹から咳をした。
「数日の間に見違えるほど強くなったな。お前の成長速度には驚かされる……」
この山での修行で拳凰の基礎身体能力は格段に向上しており、デスサイズの予想を超える速さでパンチが繰り出されていた。
「おう、もっと褒めてくれていいぜ。幸次郎もデっさんも倒した。次はクソロンゲ、てめーの番か?」
「いや、俺はまた仕事で王都に戻る。明日から本戦が始まるからな、色々とやることも多いんだよ。デスサイズ、修行の監督はお前に任せるぞ」
「ああ、任された……だがその前に、少し休ませて欲しいのだが……」
デスサイズは切り株に腰を下ろし、殴られた腹をさする。
「そうだデっさん、あっちの方に温泉があるんだ。それに浸かると怪我がすっと治るんだぜ」
「ほう、それはいい。早速行こうじゃないか。幸次郎もどうだ?」
「あ、はい、それでは僕も……ハンバーグさん、失礼します」
幸次郎はハンバーグに頭を下げ、温泉に向かう拳凰とデスサイズの後についていった。
先程まで命懸けの戦いをしていたにも関わらず、平然と談笑する拳凰とデスサイズ。その背中を見つめる幸次郎の脳裏には、拳凰を躊躇無く殺そうとするデスサイズの姿が鮮明に浮かび上がった。
(なんか成り行きで僕達仲良し三人組みたいになってたけど、やっぱりあの人は人殺しの経験もあるプロの傭兵なんだな……あの人は、一体今までどんな人生を送ってきたのだろう)
戦争と死が身近にある日常。平和な国で生まれ育った幸次郎にとって、それは全く未知の世界であった。
<キャラクター紹介>
名前:ジンギスカン・シリウス
性別:男
年齢:51
身長:183
髪色:朱
星座:牡羊座
趣味:美術品集め
「いやー、実はそんなに仲良くもないんだよね。実はあたし姉ちゃんからは結構ウザがられて……異世界来てまであんたのお守りしたくないって言われちゃった」
「ええー……」
軽い雰囲気で話す小梅だったが、その表情にはどこか悲しみを感じさせる。
「それで、君は他に組むことが決まってる人は?」
「今のところは誰も……でも、最終予選で協力してくれた人達を誘おうかなって思ってるよ」
「よし、じゃあ急ごう。早くしないと他の人に取られちゃうよ!」
二人が最初に向かったのは、丁度花梨と部屋の近い恋々愛の部屋であった。
「あら、残念でしたわね。古竜さんは既に私のチームメイトですのよ」
麗羅達と同じように、扉を開けて早々珠子から勝ち誇った顔で言われた。
「貴方は確か二次予選で私に勝った……」
「あ、こ、こんにちは」
花梨は珠子の顔を見て、以前対戦した上半身ほぼ裸の魔法少女だと気付いた。
「ふふっ、残念でしたわね。今回は私の方が一枚上手ですわ。ちなみに、古竜さんを誘いに来て私達に追い返されたのは、貴方達で五組目ですわよ」
完璧に見下した態度で、珠子は言う。
花梨は更にその後ろにいるのが、一昨日拳凰にちょっかいをかけていたミチルであることにも気付いた。もう一人の雫も昨日拳凰に裸を見せるという花梨からしたら気が気でないことをしでかしているのだが、それについては花梨の知らないことである。このチームは、何かと花梨にとって因縁のある者ばかり集まったチームなのだ。
「それはどうも、失礼しました……」
花梨は丁寧に頭を下げて部屋を出る。
「何だよあの縦ロール。見下しちゃって失礼なヤツだなー」
「しょうがないよ。次行こう」
プンスカ怒る小梅を窘めながら、花梨はアプリで次の候補者の部屋を調べる。
「最初に協力してくれた二宮夏樹さんと白布芽衣さん、二人揃って仲間になってくれたら丁度四人になるんだよね」
まずは夏樹のページを開き、その部屋へと向かう。すると、丁度夏樹が部屋に戻ろうとしていたところだった。
「あ、夏樹さん、丁度いい所に」
「花梨ちゃん!」
「最終予選では、協力してくれてありがとうございます」
出会ってまず、花梨は頭を下げて礼を言う。
「私、今夏樹さんをチームに誘おうと思ってたとこなの。それと芽衣さんも」
「あー、それなんだけど、ボクさっき芽衣を誘いに行って断られちゃったとこなんだよね。部活の先輩が参加してたとかで、その人に見つかって同じチームに入れさせられたんだと」
「そうなんだ……」
「そっかー、じゃああたしと一緒だ。あたしも組もうと思ってた姉ちゃんから断られちゃったとこだし」
小梅が笑顔で夏樹の肩に手を置く。
「うん、じゃあボクもこのチーム入るよ。これで三人……あと一人は、ロビーにでも行ってみない? みんなそこで仲間を探してるみたいだよ」
「よし、そうしよう!」
仲間になった夏樹の提案で、花梨達は一階のロビーへと向かう。
ロビーには既に多くの参加者が集まっており、仲間を求めて他の参加者に声をかけていた。ある者は気の合う仲間を、またある者は戦力になりそうな仲間を。そしてまたある者は、誰でもいいから早くチームを組もうと。熾烈なスカウト争いが、その場で起こっていたのである。
「どーしよ、誰誘う?」
「うーん……」
花梨はロビーを見渡し、知っている人を探す。しかしこれまで基本的に変身後でしか会っていなかったこともあり、いまいちよくわからなかった。
そんな中に、一目見ただけで誰だかわかる髪型の人物を一人見つけた。今時男子でも野球部くらいでしか見かけないほどに髪を短くしている、寺の娘だという少女の弥勒寺蓮華である。
「おーい、そこのベリショの人ー」
花梨が声をかけるより先に、小梅が蓮華を呼んだ。蓮華が気付いてこちらを向くと、小梅は手を振りながらそちらに駆けてゆく。
「ねーねー、君も何かスポーツとかやってるの?」
「あ、いえ、私、おうちがお寺なので」
「へぇー、家がお寺だと女子も髪の毛そうするんだ」
「いえ、これは私が好きでやっているだけで……両親は別にそこまでしなくていいとは言ったんですけどね」
小梅と蓮華が話している間に、花梨と夏樹が追いついた。
「こんにちは蓮華さん。最終予選では、協力してくださってありがとうございます」
「そんな、困っている方がいたら助けるのは当然ですよ」
「あれ、この人も知り合い? 最終予選で一緒に戦ったんだ」
「えーと、話せば長くなるんだけど、一緒に戦ったというより別のことで協力してもらったというか……」
「んでさ、蓮華さん、あたし達のチーム入ってよ」
話が長くなると聞いて、小梅はその話を切り上げて本題に入る。
「全員ショートヘアのボーイッシュチームだよ。蓮華さんも入ろうよー」
気がつけば、偶然集まった面子がショートヘアばかりであった。この中では蓮華が一番髪が短く、そこから小梅、花梨、夏樹の順である。
「そうですか、私も仲間になってくれる方を探していたところです。私がボーイッシュかどうかはわかりませんが、よろしくお願いします」
蓮華は丁寧に頭を下げる。
「よーし、これで四人揃ったぞ!」
「ついにボクらのチーム結成だね!」
「チーム名はどうするの?」
「ファイナルアルティメットストレートフラッシュ……とか」
花梨の尋ねに、夏樹はどや顔で答える。
「うーん、全員髪短いから、ショート同盟でいいんじゃない?」
「うん、シンプルでいいんじゃないかな」
「私もそれでいいと思います」
「ちょっ、ボクのボケスルー!?」
小梅が代表してチーム名を入力。無事にチーム登録は受理された。
「そんじゃ、誰かの部屋行って改めて自己紹介としようか。あたしの部屋でいいかな?」
「うん、そうしよっか」
無事チームを組むことができた花梨達は、再びエレベーターへと足を進める。
だが、ふと花梨は拳凰のことが脳裏に浮かんだ。
(ケン兄どうしてるかな? 今日は帰ってきてくれるといいけど)
魔法少女達がチーム結成に四苦八苦している頃、拳凰と幸次郎も修行に明け暮れていた。
山中の森で、二人は組み手を行う。幸次郎が竹刀なのに対し、拳凰は素手。身長差をもってしてもリーチには差がある。
にも関わらず、幸次郎の攻撃は拳凰には全く当たらず。拳凰は竹刀の先端を掴むと、そのまま片手でぶん投げた。幸次郎は思わず竹刀から手を離し、足から着地する。
「もう竹刀じゃ練習にもならねー。あの剣出してこいよ」
「わかりました」
幸次郎は一礼すると、リュックサックからスマートフォンを取り出し操作。その場に三属性の剣を生成した。
「では、参ります!」
三つのオーブを浮かせて切りかかる幸次郎に対し、拳凰は動かず待ち構える。
振り下ろされた刃を避けると同時に、カウンターの一発。右の拳が、幸次郎の頬に触れるか否かの位置で寸止めされた。オーブの防御すらも間に合わぬ瞬撃。幸次郎の額を冷や汗が流れた。
「最早穂村じゃ組み手にもならねえか」
ハンバーグが姿を現し言う。
「おう、やっと来たかロリコンクソロンゲ」
「あ? ナメてんのかお前」
早速メンチを切る二人に、幸次郎はおろおろした。
(この二人、似たもの同士なのにどうしてこんなに仲が悪いんだ)
「それでだ、そろそろお前も退屈してる頃だろうと思って、新しい練習相手を連れてきた」
ハンバーグが後ろを親指で指す。拳凰がそちらを向くと、木の裏からデスサイズが姿を現した。
「デっさん!」
完全に気配を消していたことに、拳凰と幸次郎は驚く。
「最強寺、今日はこの男と戦ってもらう。なおこれは組み手じゃない、実戦だ。寸止めは無し、殺しは有りで行く」
「えっ!?」
最初に驚き声を上げたのは、幸次郎である。対して拳凰は動じない。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! 殺しが有りって……冗談でしょう!?」
「冗談なわけねえだろ。強くなりたいんだろ最強寺。だったら本気で殺しにかかってくる相手とやり合うのがいい」
「悪いな拳凰、仕事として請け負ってしまった以上、俺はお前と戦わなきゃならん。職業柄友人と殺し合うのには慣れている。死んでも恨むなよ」
「面白え、やろうぜデっさん」
拳凰もデスサイズも既にその気になっている。幸次郎は開いた口が塞がらない。
「大丈夫だ幸次郎、俺は死なねーよ。それにデっさんを殺したりもしねー。こいつは楽しい戦いになりそうだぜ」
「よし穂村、お前はこっちに来い。流れ弾に当たらずに戦いを見られる場所まで連れて行ってやる」
心に不安を抱えながらハンバーグについていった先は、森を見渡せる崖の上であった。
下では拳凰とデスサイズが、距離を取った状態で向き合っている。
「あの、ハンバーグさん、本当に殺し合いをさせるつもりなんですか?」
「少なくともデスサイズは殺すつもりでやるだろうな。まあこれで死ぬなら最強寺もそれまでだったってことだ」
ハンバーグはまた、崖から落とした時と同じことを言う。
「おかしいですよ貴方は! 人の命を何だと思ってるんですか!」
「まあ黙って見てろ」
崖下を見下ろし、ハンバーグは右手を上げる。
「始め!」
合図と同時に、デスサイズは拳銃を抜く。荒野のガンマンも顔負けの早撃ちで、拳凰の額目掛けて弾丸が迫る。だが拳凰は、それをすかさず拳で叩き落した。
「素手で銃弾を!?」
幸次郎が身を乗り出したのも束の間、拳凰はデスサイズに接近しようとする。だが拳凰得意の間合い詰めに、デスサイズは対抗策があった。拳凰の足下に、ピンを抜いた手榴弾を転がしたのである。
蹴躓く前に避けるも、手榴弾は爆発。拳凰は自ら後ろに跳んで衝撃を和らげ、受身を取って転がる。だがデスサイズは、そこに容赦無く弾丸を撃ち込んできた。
拳凰は転がりながらも、手で的確に弾丸を捌く。デスサイズは拳銃からライフルに持ち替え、拳凰を狙った。拳凰は即座に起き上がり、手の甲で弾を横から叩いて軌道を逸らす。いかに拳凰でも貫通力のあるライフル弾を真正面から受けるのは厳しいと判断してのことだ。
だがそこにすかさず投げ込まれる手榴弾。デスサイズは徹底して拳凰を近づけさせないように動く。勿論拳凰はそういう相手との戦闘経験は豊富。しかしプロの傭兵としてそれ以上の戦闘経験を持つデスサイズは、更に一枚上手だった。
決して拳凰の間合いに入らぬよう立ち回りながら、得意の間合い詰めを封じるよう銃火器による怒涛の猛攻。どうにか近づこうとしても、その度に攻撃は最大の防御と言わんばかりの凄まじい攻撃で防がれる。拳凰は今まさに、熟練したプロの戦闘というものを見せ付けられているのだ。
(野郎……俺の弱点をきっちり突いてきやがる)
動き回りながら隙を窺うも、その隙が一向に見えない。更に、動いている内にあることに気付いた。さりげなく深い森の方へと誘い込まれているのだ。
(ちっ、何を狙ってやがる?)
誘われるがままに木々の深い方へと入った拳凰だったが、ふとそこでデスサイズは攻撃の手を緩めた。拳凰はその隙を見逃さず、一気に踏み込む。だがその時、突如拳凰の足にワイヤーが引っかかった。
(ブービートラップだと!? さっきクソロンゲに呼ばれて出てくる前に仕込んだのか!)
前のめりに倒れる拳凰に、デスサイズは容赦なく弾丸を撃ち込んでくる。だが拳凰はこんな物で倒れる男ではない。足に気合を籠めて強引にワイヤーを引きちぎると、そのまま力強く大地を踏みしめて転倒を防いだ。飛んでくる弾は、手で打ち落とす。
その体勢のまま大地を蹴って駆け出すも、デスサイズは冷静に手榴弾を投げて転がす。だが今度は、拳凰は横には避けない。まるでサッカーボールをスルーするように、足捌きだけで躱す。背後で爆発する手榴弾。その爆風を背に受けて、拳凰は加速した。
二次予選においても諏訪美波との対戦で見せた戦法。しかしあちらが実際の兵器の扱いに関しては素人同然のミリタリーオタクであるのに対し、こちらは本物の傭兵である。あちらのように隙だらけというわけではない。
真正面から突っ込んでくる拳凰に、デスサイズはすかさずヘッドショット狙いのライフル弾を撃ち込む。だがそれは左手の甲で弾き飛ばされ、次の瞬間右の拳がデスサイズの腹に突き刺さっていた。
「ごっ……」
鈍い声と共に、デスサイズは吹っ飛ぶ。後ろの木に背中を打ちつけると、木は根元から折れた。
「そこまで!」
崖の上から、ハンバーグの声が響く。ハンバーグは幸次郎の胸倉を掴むと、そのまま幸次郎と共に崖から飛び降りた。
「う、うわあああああああ!!!」
悲鳴を上げながら、ハンバーグと共に落下する幸次郎。ハンバーグは何事も無く着地し、幸次郎を丁寧に降ろした。
「び、びっくりした……何て下り方するんですか!」
心臓が張り裂けそうになった幸次郎は、ハンバーグに文句を言う。だがハンバーグはまるで聞いていないかの如く、拳凰の方だけを見ていた。
「デっさん大丈夫か!」
倒れたデスサイズに、拳凰は駆け寄った。
「ああ……かろうじてな……」
ぐったりとしながら、デスサイズは言う。
「死を恐れずに真正面から突っ込んでくるか……若さというのは恐ろしいものだ」
ふらつきながら立ち上がると、デスサイズは腹から咳をした。
「数日の間に見違えるほど強くなったな。お前の成長速度には驚かされる……」
この山での修行で拳凰の基礎身体能力は格段に向上しており、デスサイズの予想を超える速さでパンチが繰り出されていた。
「おう、もっと褒めてくれていいぜ。幸次郎もデっさんも倒した。次はクソロンゲ、てめーの番か?」
「いや、俺はまた仕事で王都に戻る。明日から本戦が始まるからな、色々とやることも多いんだよ。デスサイズ、修行の監督はお前に任せるぞ」
「ああ、任された……だがその前に、少し休ませて欲しいのだが……」
デスサイズは切り株に腰を下ろし、殴られた腹をさする。
「そうだデっさん、あっちの方に温泉があるんだ。それに浸かると怪我がすっと治るんだぜ」
「ほう、それはいい。早速行こうじゃないか。幸次郎もどうだ?」
「あ、はい、それでは僕も……ハンバーグさん、失礼します」
幸次郎はハンバーグに頭を下げ、温泉に向かう拳凰とデスサイズの後についていった。
先程まで命懸けの戦いをしていたにも関わらず、平然と談笑する拳凰とデスサイズ。その背中を見つめる幸次郎の脳裏には、拳凰を躊躇無く殺そうとするデスサイズの姿が鮮明に浮かび上がった。
(なんか成り行きで僕達仲良し三人組みたいになってたけど、やっぱりあの人は人殺しの経験もあるプロの傭兵なんだな……あの人は、一体今までどんな人生を送ってきたのだろう)
戦争と死が身近にある日常。平和な国で生まれ育った幸次郎にとって、それは全く未知の世界であった。
<キャラクター紹介>
名前:ジンギスカン・シリウス
性別:男
年齢:51
身長:183
髪色:朱
星座:牡羊座
趣味:美術品集め
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神崎未緒里
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