ヤンキーVS魔法少女

平良野アロウ

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第三章 自由行動編

第59話 アイドルはヴァンパイア

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 騎士団訓練所屋上。牡羊座アリエスのポタージュは、一人床に寝転がって青空を見上げていた。
「おやポタージュ、随分とリラックスしているじゃないか」
 そう声をかけてきたのは、牡牛座タウラスのビフテキである。
「当たり前的な。ようやく解放された的な。ゆっくりしてなきゃ割に合わない的な」
「ふむ……」
 ビフテキはポタージュの横に立つ。一人の時間を邪魔されたポタージュは、不機嫌そうにビフテキを睨んだ。
「大体、人間界での僕が忙しくて死にそうだったのはどれもこれもお前のせい的な!」

 今から一年以上前のこと。妖精騎士団は魔法少女の選出を始めていたが、そんな中でビフテキがこんな発言をしたのである。
「知っているかね諸君、一度魔法少女バトルに参加した少女でも、今大会も参加資格を満たしていれば再度参加できるということを。しかも前回大会で成長した分のステータスを引き継げるのだ」
 ビフテキが急にそんなことを言うので、騎士団の面々は不思議に思った。
「つまり前回大会に十歳から十一歳で参加しており、現在は十四から十五歳。かつ日本に移住している少女がいれば、それはこの大会をとても有利な形で始められるということだ。尤も、そんな都合よく条件の揃った者などそうそういないだろうが……」
 殆どの者は、単なる薀蓄だと聞き流していた。しかしポタージュは違った。楽して強い魔法少女を作ることができ、しかも自分にとっては騎士団に入って最初の魔法少女バトルでいきなり優勝という肩書きを得ることも狙える。
 こんな美味しいことはないと、早速前回大会に出場した牡羊座かつ十歳から十一歳の魔法少女を調べた。結果一人見つかったのだ。当時ドイツ在住の日本人で、現在は日本に帰国している少女が。それこそが、小鳥遊麗羅だったのである。
 だがポタージュには大きな誤算があった。麗羅は日本でアイドルデビューしていたのである。しかも結構売れていた。
 魔法少女とアイドルの二束の草鞋を履く上で、ポタージュはマネージャー同然の綿密なスケジュール管理をさせられることとなった。勿論麗羅だけが牡羊座の魔法少女ではないので、他の魔法少女の世話もしてやらなければならない。
 楽をしたくて麗羅を選んだ結果、騎士団の中で最も多忙になってしまったのである。

「お前、麗羅のこと知ってて僕にあれ教えた的な!?」
「さて、何のことかな?」
 ビフテキは髭に手で触れながら笑った。


 シリウス家の屋敷は、ゾディア大陸西部のマクベスという土地にある。
 広大な農地が広がるこの地は、辺り一体全てシリウス侯爵領。
 シリウス家はゾディア王国時代より多くの騎士を輩出してきた名門貴族である。
 よそいきの服を着た智恵理と梓は、ホテルのワープゲートからこの屋敷の庭に来ていた。
「すっご……ホントにこんなとこ住んでるんだ、カニミソ……」
 王宮にも劣らぬ立派な宮殿に、智恵理は開いた口が塞がらない。
「いや、今は王都の別荘に一人暮らしカニよ」
「べ、別荘……」
 普通に会話しているだけで、自然と金持ちアピールになる。それがお貴族様という奴である。
「さあ、二人とも入るカニ」
 玄関の扉を開けると、メイドや執事がずらりと並んで出迎えた。
「お帰りなさいませ、カニミソ様」
 まるで豪邸のステレオタイプを持ってきたようなその様子に、智恵理と梓は呆気に取られた。
 カニミソの後について、二人は屋敷を進む。廊下には歴代当主の肖像画や甲冑が並んでいた。
「なんか……落ち着かないねここ……」
「智恵理、そんなそわそわしないの」
「こちらが客間だカニ。父上ー、母上ー、俺の担当する魔法少女を連れてきたカニー」
 カニミソが扉を叩くと、中にいた執事が扉を開けた。
 正面のソファには、髭を蓄えた朱色の髪の老紳士が腰掛けていた。まるでカニミソにそのまま歳をとらせたような容姿である。
「おお、帰ったかカニミソ。魔法少女の皆様もよくぞいらっしゃいました」
 智恵理はぽかんとしていたが、梓に背中を突かれてはっとする。
「ど、どうも、カニミソ……さんが担当する魔法少女の鈴村智恵理です」
「私は彼女の付き添いで来ました、射手座の魔法少女の三日月梓です」
「ほう、射手座の。とすると担当はホーレンソー君か。私はジンギスカン・シリウス。カニミソの父でありシリウス家の現当主だ。ゆっくりしていくといい」
 ジンギスカンという名を聞き、梓は彼がホーレンソーの話に出てきた騎士の一人であることに気付いた。
「私は妻のマリネです。よろしくお願いしますね、智恵理さん、梓さん」
 ジンギスカンの隣に座る貴婦人が、上品に言う。
「こ、こちらこそどうも」
 煌びやかな衣服に身を包んだ、まるで絵に描いたような貴族の夫婦である。
 ふと、梓は彼らと向かい合うソファの一つに既に誰かが座っていることに気が付いた。
「もしかして、先客がいらっしゃったんですか?」
 梓がそう言うと、そこに座っていた人物が立ち上がった。茶色のロングヘアで、すらっとしたスレンダーな体型の少女である。
「あ、どうも。牡羊座の魔法少女の小鳥遊麗羅です」
 麗羅は智恵理と梓に丁寧に頭を下げた。
「あ、あれ、この人どっかで見覚えが……あっ、そうだテレビに出てる人! 芸能人の高橋麗子だ!」
「あっ、どうもどうも」
 麗羅はアイドルらしいスマイルで返す。
「彼女は前回大会で私の担当した魔法少女でね、今回の大会にも出場したから私に挨拶に来たのだよ。まあ、お二人とも座りなさい」
 ジンギスカンに言われて、二人は席につく。
「二人の活躍は拝見させてもらったよ。初めてハンターを倒した二人組にこうして会えるとは、私も運がいい」
「へー、二人はハンターを倒したんだ。どのハンター?」
 麗羅が興味を持って尋ねる。
「ほら、あのデスサイズっていう傭兵のおっさん」
「あー、あの一番強そうな人! 凄いじゃない!」
「いやーそれほどでも……そういえば麗羅さんさっき前回の大会とか言ってましたが……」

 智恵理の疑問に答え、麗羅は自分が出場した経緯を話した。
「へー、そんなシステムがあるんだ」
「うん、結局私は優勝できなくてアイドルになりたいって願いは叶えられなかったんだけど、その後日本に帰ってから自力で叶えちゃったんだよね」
「じゃあ、どうしてまた魔法少女バトルに?」
「今の担当から凄く頼まれたからってのもあるけど……やっぱり負けっぱなしは悔しいし。今は大会のために、芸能活動は一時休業なの」
「ふーん」
「麗羅さんが自力で夢を叶えられて、私もとても嬉しく思いますわ」
 マリネが口に手を当てて微笑む。
「マリネさんは、私の歌をとても気に入ってくださったんです。今日も、この後屋敷内の劇場でライブをやることになってまして」
「えー、ここ劇場もあるんだ」
「そうカニ。よく劇団やアーティストを招いて領民にも公開してるんだカニ」
「そういえばカニミソ、初の人間界滞在はどうだった」
 ジンギスカンから尋ねられ、カニミソは一瞬真顔になる。
「そ、そうカニな。日本はいいとこだったカニよ」
 わかりやすいくらいの挙動不審。拳凰に敗れて一時行方を眩ましたことをバレるわけにはいかない。
「お前の初の滞在先が日本で本当によかったと思っているよ。私の時はアフリカの貧困国だったからな。それはもう大変だったものだ」
「父上ほどじゃないけれど、俺もなかなかいい経験ができたカニ」
 安アパートでの極貧生活やコンビニのアルバイト等、確かに普段はできない経験であった。
「本戦に残った蟹座の魔法少女が一人しかいないと聞いた時には不安に思ったが、その一人がハンターとも戦える実力者で安心したよ」
「そ、そうカニ?」
 カニミソはすっかり焦ってびくついていた。妙にジンギスカンから高く評価されている智恵理も同様。
 丁度その時、誰かが客間の扉を叩いた。
「入れ」
 ジンギスカンが答え、執事が扉を開ける。扉を叩いたのはメイドだった。
「小鳥遊麗羅様、ステージの準備ができました」
「はーい。それじゃジンギスカンさん、私リハーサル行ってきますね」
 麗羅はそう言って席を立つ。
「智恵理さんと梓さんも、よかったら是非見に来てね」
「はーい、行かせてもらいまーす」
 智恵理は明るく返事をする。
「そうだ智恵理、彼女のライブが始まるまで俺が屋敷を案内するカニよ」
「え、本当!? じゃあ梓、一緒に行こう?」
 目を輝かせテンション上がって言う智恵理だったが、梓の反応はいまいち。
「ごめん智恵理、実は私、ちょっとジンギスカンさんとお話したいことがあって……」
「え、そうなの?」
 智恵理と同時に、ジンギスカンも梓の顔を見た。
「あ、じゃあ智恵理、俺と二人で行くカニよ」
 カニミソは何かを察したのか、智恵理にこの場の席を空けることを促す。
「え、えっと……じゃあ、行ってくるね梓」
 智恵理は戸惑いながらも立ち上がり、カニミソに付いていく。
「自慢のお宝を沢山見せてあげるカニよー」
 二人が部屋を出て行った後、梓はジンギスカンと目を合わせる。
「ジンギスカンさん、カロン島の事件について、覚えていますか?」
 単刀直入に尋ねる。
「ホーレンソー君から聞いたのかね?」
「はい」
「そうか……あれは凄惨な事件だった。もっと早く到着できていればと、今でも悔やんでいる」
「そう……」
「ホーレンソー君は元気かね?」
「まあ、それなりに元気だとは思いますが……何かを一人で抱え込もうとしているみたいで」
「ふむ……」


 暫くして、智恵理と梓はシリウス邸の敷地内にある劇場にて合流した。
「あ、智恵理。どうだった、屋敷の中を見学して」
「す、凄かったよ! マジ本物の豪邸だった!」
 まだ興奮が止まない智恵理。
 二人は適当な空いている席に腰掛けた。
 劇場内には、シリウス領の民達が続々と集まってくる。
「あたしアイドルの生歌とか聴くの初めてだよー」
「私もよ」
 劇場が満員になった辺りで、いよいよ開演。幕が上がると、そこにはマイクスタンドだけが立っていた。
 音楽のイントロが流れ出すと、ステージ脇から突如無数の蝙蝠が飛び出し、マイクスタンドの周りに集まった。そして蝙蝠の大群は寄り集まって合体し、魔法少女衣装の麗羅が姿を現したのである。
「彼女、魔法をパフォーマンスに……!」
 梓は驚く。ここが妖精界であることを最大限に活用した、人間界ではできないステージパフォーマンス。
 最初に歌うのは、彼女の代表曲「ヴァンパイアロード」。アイドル歌手にはこれといって興味の無かった智恵理と梓でも、日常生活で自然と聴く機会があり知っていたくらいのメジャー曲である。
 客席の一番後ろまで響く、痺れるような圧巻の歌声。鍬や鎌をサイリウムに持ち替えた農民達がまるで訓練されたかのように合いの手を入れ、この会場が一体となる。
 この世界において、魔法少女はアイドルみたいなものである。ましてや彼女は本物のアイドル。そのカリスマと歌声によって、人々を熱狂的興奮へと誘い込んだのである。
 とてつもない世界に迷い込んだ梓と智恵理は、ただただ圧倒されるのみ。さながらヴァンパイアの獲物にでもなった気分だった。


 ライブが終わった後、屋敷のホールで行われたパーティで二人は麗羅と再会した。
「凄かったです麗羅さん! 私ファンになっちゃいました!」
「どうもありがとー!」
 麗羅は智恵理の手を握る。
「魔法を使ったパフォーマンスをするだなんて、びっくりしたわ」
「せっかくどこでも魔法が使える世界に来たんだもの、やらなきゃ損でしょ?」
 梓の感想に対し、麗羅は自慢げに返す。
「凄いなー、流石二回目って感じ」
「そうそう、あなた達、本戦がどんなルールかは知ってる?」
 麗羅は藪から棒に尋ねる。
「いいえ、担当から、公式発表まで言えないと聞いているわ」
「あたしは何も聞いてない」
「そう、私は二回目だから前回の本戦のこと知ってるんだけど……聞きたい?」
「是非!」
 智恵理は即答。
「最終予選でも前回にはいなかったハンターがいたから前回と完全に同じとは言い切れないけれど……本戦では魔法少女同士がチームを組んで戦うの」
「チーム!?」
 試合外での情報交換や最終予選での一時的な協力こそあれど、これまでは基本的に全員が敵同士という形であった。しかしここに来て明確に味方の魔法少女ができるルールの登場である。
「と、いうわけで鈴村智恵理さん、三日月梓さん、私とチームを組まないかしら?」
 麗羅は二人に握手を求めるよう、微笑んで手を差し出す。
「ハンターを倒したあなた達と組めば、最強のチームが作れると思うの」


<キャラクター紹介>
名前:久世くぜ悠里ゆうり
性別:女
学年:中二
身長:155
3サイズ:78-56-78(Cカップ)
髪色:黒
髪色(変身後):緑
星座:牡牛座
衣装:ミニスカポリス風
武器:手錠
魔法:手錠を巨大化させ相手を拘束する
趣味:ドラマ鑑賞
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